蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

電車でハイキング

2015-08-12 14:37:41 | 日記
 電車に乗ったら、私の後ろにならんでいた人が、私の向かい側の優先座席に座った。私と同じような年恰好の人で、なかなかお洒落ななりをしている。ナントカ・タイという紐のようなネクタイをしている。
 バッグから何か出して膝の上に置いた。
 風呂敷に包んである。いまどき風呂敷か、中々いいなぁと思っていると、風呂敷をほどいて、何か出してきた。弁当箱だ。それも、アルミだぞ。いまどき小学生でも持ってないだろうというアルミの弁当箱をあけ、箸箱から箸を取り出してきた。
 あっ、いただきます、と手を合わせている。
 もうこうなると、目が離せない。しかし、じっと見つめるというのも不作法の極み。こういう時に、育ちがいいと困る。
 60数年の人生の中で身につけた、「見ていないようでしっかり見ている」技を駆使することとした。
 うん、まず玉子焼きか。きれいに焼けてるなぁ。焦げ目ひとつない。丁寧に箸で二つに割って、食べている。眼を閉じて味わっている。奥さんが作ってくれたのかなぁ。自分で作ったとなるとあの表情はないだろう。
 で、鮭か。あの感じだと生鮭のバター焼きではなくて、中塩程度の塩鮭だろう。いや、そうでなくちゃいけない。わっ、にこにこしてる。人生の幸せの絶頂って感じだ。うん、そうそう、腹身の方から食べる、それが通の食べ方だよ。いいねぇ。
 ホウレンソウの白和えか。ごまが散らしてあるぞ。
 あれっ、そう言えばご飯はどうした?ご飯をまだ食べていないじゃないか。
 なるほど、三角おむすびか。海苔の部分を持って、パクッ・・・。にこにこしながら、俺の方を見ている。やばい、見ているのがばれたかな。違う、視線がちょっとずれてる。山だ、山を見ているんだ。この時期はいいもんなぁ。緑滴るって感じで。電車に乗りながらハイキングか。ちょっとだけ私も振り返る。
 ラストかな、ヘタの部分を持ってイチゴ。フルーツでしめるって常道だな。
 丁寧にふたを閉めて箸もしまって、御馳走様。
 ん・・・ポケットから何か出してきた。小型の四角い水筒の平べったいような奴。普通、あの容器に入れるのなら、ウィスキーだな。昼間っからウィスキーか?いやまてまて、コーヒーという可能性もある。栓をひねって、一口ならウィスキー、二口ならコーヒー。何の根拠もないけれど。
 二口か。で、ポケットにしまって、ハンカチ出して口元を拭う。
 よし、決めた!明日のためにスーパーで買い物しよう。弁当食べながら、電車でハイキングか。