蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

勇気

2015-08-19 11:12:50 | 日記
 台所のテーブルを拭き終えて、居間に入ろうとしたら、カサカサッ・・という音がした。背筋が寒くなった。
 彼女は、カサカサッ・・が大嫌いである。必ずそこには口に出すのもけがらわしい、「あれ」がいるからだ。
 居間を覗き込んだ。真ん中には小さな布団が敷いてあって、幼い息子が寝息を立てている。そこへ、「あれ」が這いよろうとしている。
 
 彼女は、とっさに、近くにあった新聞を丸めた。怖くてもう涙が出ている。見るのも嫌な「あれ」が可愛い息子に近づこうとしている。怖いなんて言っておれない。彼女は、自分でもびっくりするくらいの大きな声を出して、泣きながら、「あっち行け!」「あっち行け!」と何度も叫んだ。新聞紙を丸めた「武器」も振り下ろした。

 人語を解したのか、その迫力に負けたのか、「あれ」は、カサカサッ・・と居間から出て行った。その場にへたり込んだ彼女は、大きな声にびっくりして起きてきた息子に縋り付いて泣いた。

 息子は、「よしよし」と言いながら、彼女の頭を撫でてくれた。