蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

赤信号

2015-08-10 19:50:00 | 日記
 信号が赤だったので、停止線で停まった。右手の方から、歩行者が横断歩道を渡りはじめた。中年の女性であったが明らかに足が不自由であった。白と黒に染め分けられている横断歩道の、白の部分を踏み、その後、ゆっくりと、黒の部分を踏む。

 信号が青になった。その時点で、女性は全体の三分の一しか進んでいなかった。
 発車して轢いてしまう気遣いはなかったが、発車するわけにもいかない。イライラしながら待っていた。

 どこから現れたのか、若い男性が女性の手を取って、女性が歩くリズムを邪魔しないように、せかさないように一緒に歩き始めた。すると、もう一人中年の女性が現われて、若い男性とともに、女性に寄り添うようにして歩き始めた。

 私はそれを見ていた。

 女性は渡り終え、二人に対して深々と頭を下げた。
 若い男性は、私の真後ろの車に乗り込んだ。女性は、その後ろの車の運転席に座った。バックミラーを見ていてわかった。
 信号が青になった。

 一生忘れられない信号での停止だった。