蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

あと二日

2015-08-24 17:44:49 | 日記
 聞こうと思っていたわけではない。耳に入ってきたのだ。

 「あと二日なんだって」
 「ほぼ絶滅するらしいね」
 「あれだけほかの生物に迷惑かけていたら当然だよね」
 「もう変更はきかないのかな」
 「決定事項だからね」

 私は明日、この世界とお別れして、別の世界へと行かなければならない。そこには、私が来るのを心待ちにしている人がいる。その人が歌っている声が時々聞こえてくる。早く逢いたい。

 女は、靴下を編んでいた。少し調子はずれだけれど、誰も聞いていないことを幸いに、子守唄を唄っていた。

 策を廻らした。私を待っている人のところへ行きたいという気持ちに変わりはない。ただ、どうするか。それが問題だ。私を待ってくれている人と過ごす時間は二日間しかないようだ。それでも行くのか?と訊ねられるだろう。

 「そういえば、あの子どうするのかな?」
 「うーん…事情を説明したら納得してくれるんじゃないかな」
 「行きたい、といったらどうする?」
 「上の意向としては、無用な事はするなってことのようだけどね」

 二人が説明に来た。私がこれから行こうとしている世界に二日後、大変化が起きて人類が絶滅する事、いまさら行っても二日間しか一緒にいることは出来ないこと。無駄だから止めさせるようにという命令が出ていること。
 
 私は手にナイフを握っていた。二人は本当に驚いたようで、背中の羽が細かく震えていた。なんでそんなものを持っているんだと訊ねられたので、机の引き出しの中から盗んだと正直に答えた。左側の天使がカギをかけるのを忘れていたようで、片方がその事をなじった。

 「二日間しか一緒にいられないんだよ」
 「それでもいい、待ってくれている母さんに逢いたい」
 「向こうに行ったら、あなたも死ぬんだよ。こちらにいればずっと生きられるのに」
 「それでもいい。待ってる母さんと逢いたいんだよ・・・」

 言葉にならなくなった。あと、泣いてしまって、なんどもなんどもお願いを繰り返すしかなくなった。
 優しい手がわたしを抱きしめてくれた。ナイフを渡した。

 「生まれてくる赤ん坊がこんなの持ってたらおかしいよね」と言ってくれた。
 
 ゲートを開くためのボタンを押してくれた。完全に開くまでに約1分かかる。小さなボートに乗って、準備した。

 「じゃ、気を付けて」
 「元気でね。ごめんね、こんなことして」
 「気持ちわかるからいいよ」
 
 ゲートが開いた。母さんの心臓の鼓動が聞こえる。だんだん大きくなっていく。