ピアノと海と花との生活 Ⅱ

~創造する芸術~

盗まれた名画 Ⅱ  ムンクを追え!《叫び》

2006-09-24 | 絵画

1994年2月12日、午前6時29分

ノルウエーの冬、夜明け前のまだ暗い時間、

世界有数の美術館として知られるノルウエー国立美術館の前に、

2人の男を乗せた盗難車が停まった。

美術館内では、定時の巡回を終えた警備員が、暖房の聞いた警備室にもどってきていた。

彼はこの仕事に就いて、わずか7ヶ月の新米警備員だった!

監視用モニターに、美術館の2階の高い窓に、ハシゴがかけられているのが写った。

が、警備員は気がつかなかった!

2人組は、すばやく中に入り込み、ムンクの56点の作品の中から、

世界に知られた名画《叫び》を吊り上げているワイヤーを切断し、

その重い額に飾られた絵を、ハシゴから滑らせた!

あらかじめ下にいた相棒が絵をしっかり受け止め、

たったの50秒で!時価86億円の《叫び》は、あきれるほど簡単に盗まれてしまったのだ!

ロンドン警視庁・美術特捜班 チャーリー・ヒル

この犯罪の行われた日は、いつもの冬の土曜日ではなく、

冬季オリンピック、リレハンメル大会の開催初日だった!

ところが、この盛大な祝典は、ムンク盗難事件で、台無しになってしまった。

犯人の姿をとらえたビデオ映像が繰り返し流され、

ノルウェー警察のもたつく捜査から、一任されたのが、

ロンドン美術捜査班〈アートスクワッド〉チャーリー・ヒル。

美術犯罪捜査世界NO1の腕前

名画略奪の目的は、絵画の値段が高騰するにつれ、

闇市場での通貨として使用されたりもするが、

究極の目的は、単純に自分たちの大胆さえを誇示したい、

マスコミに騒がれたい、といった戦利品として大いに自慢できるという腹立たしいものだ。

美術鑑定家の確かな目を持ち、犯人に接触する際、何通りもの人物になりすまし、

落ち着きのなさと無謀さを兼ね備え、刺激的な人生を歩んでいるチャーリー・ヒル。

エドワード・ドルニックの『ムンクを追え!』は、

このチャーリー・ヒルが鮮やかな手腕で、《叫び》を奪還するノン・フイクションです。

ムンク 

エドヴァルド・ムンク(1863-1944)は、ほぼ同時代のゴッホと同じように、

生涯不安におののきながら、生きた人だった。

ムンクは健康とは無縁の人生で、

《叫び》を制作していたときも、道を横断したり、ほんのわずかな段差を見ただけで、

著しく神経を消耗した。

こうした作品におけるムンクの目的は、

「人間の外面的特徴を描くのではなく、苦悩や感情を描く」ことにあった。

フエルメールの《手紙を書く女と召使》

歴史に残る天才的芸術家でありながら、その生涯は謎につつまれている、

フェルメール( 1632-1675)は、大好きな画家だが、

この現存する作品点数は、研究者によって異同はあるものの33~36点と少ない。

その貴重な作品の1つである《手紙を書く女と召使》は、

世界最大級の個人コレクションであるラスパラ・ハウスというところから盗まれ、

それを無傷で奪還したのが、チャーリー・ヒルだった。

《叫び》の追跡

チャールー・ヒルの約3ヶ月間、スリルと危険に満ちた捜査の結果、

ついに!5月7日、《叫び》が無事にまた無傷で戻ってきた!

その場所は、奇しくもムンクがアトリエを構えていたノルウエー、オースゴール。

何と《叫び》は、裏に描き損じがあり、さかさまに現在の姿があったのだ!

額縁だけ先に発見され、ヒルの所に戻ってきたのは、1枚の厚紙。

歴史はこういうところに真実があるのだ!

芸術をこよなく愛するヒル。

その本物の目は、絵そのものが、本物だと教えてくれるらしい。

再び盗まれた《叫び》

この本の著者、エドワード・ドルニックが原稿を出版社に送って1ヵ月後、

今度はムンク美術館で、入場者の目前で、銃をもった2人組の強盗の男たちによって、

ムンクの《叫び》と《マドンナ》が、壁からはずされ、2人は逃走した。

これが、先日8月30日に発見された《叫び》です。

ムンクは4種類の《叫び》を描いていて、

ヒルが取り返した国立美術館のものと、ムンク美術館のものが世界でもっとも有名である。 

しかし、これは、壁からはずしたときに壁に何度もたたきつけていたため、

つい先日のニュースでは、右側が少し折れ曲がっていて、

修復には1ヶ月ほどかかるそうだ。

全く心が痛い事実である。

 

  ~感想~

 美術品泥棒といえば、昔はどことなくスマートな印象があった。

 でもこのテーマでいろいろと資料や本を読むうちに、これらが、悪質な手段を用い

 た凶悪犯罪であり、ヴィクトリア時代の小説に登場する゜紳士泥棒゜は影を潜め、

 マネーロンダリングを本業とする凶悪なギャングが横行しているのだ。

 また、盗まれた名画が、無傷で帰ってくるパターンの事件はまだ救われるが、

 今回のムンクも、9月1日の新聞では、ほとんど無傷 と発表していたにもかかわら

 ずやっぱり、盗難時、あんな扱いだったのだから、損傷は免れなかったようだ。

 絵画をこよなく愛する私は、その事実がだんだん耐え難くなり、このシリーズも、

 4回ほど予定していましたが、ここでやめることにしました。

 本は資料として何冊か読みましたので、興味のある方はどうぞ。

    『盗まれたダ・ヴィンチ』  岡部昌幸監修  青春文庫

    『盗まれたフェルメール』 朽木ゆり子 新潮社

    『近代絵画の暗号』 若林直樹 文芸春秋

    『フェルメール デルフトの眺望』 アンソニー・ベイリー 白水社

  なお、次回からは、モーアァルトのことを、また不定期で少しずつ書きたいと思っ

  ています。

   

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盗まれた名画 Ⅰ  ルノワール 《水浴する女性》

2006-09-20 | 絵画

 

 今年の夏、金沢21世紀美術館に、’ベオグラード国立美術館所蔵~

 フランス近代絵画展’が開催されて、

 そのチケットにも印刷されていた、このルノワールの《水浴する女性》

 1996年に、2人の若い男たちによって、盗難され、4日後には、もどったものの、

 そのダメージは大きく、会場内にも、その写真が飾ってあって、

 一緒に行った娘ももちろん私も、強い衝撃を受けました。

 つい最近、8月31日、2004年にノルウェーのムンク美術館から強奪された、

 《叫び》と《マドンナ》が無事発見されたというニュースが、駆け巡り、

 特集しようと思っていた私は、驚きました。

 今日から4回に分けて書こうと思います。

第1回目は、ルノワールの《水浴する女性》です。

 

1996年3月14日~特別な1日~

100年に及ぶベオグラード国立美術館の歴史の中で、

特別な1日となってしまった1996年3月14日。

その日、閉館の時間が近づいた午後4時ごろ、

ジャケット姿の2人の若い男が、あわただしく常設展示室にはいっていった。

彼らは、ルーベンスやファン・ホイエンなどには目もくれず、

この美術館の顔、ベオグラードのモナリザといわれた《水浴する女性》の前で、立ち止まった!

瞬間の出来事

警備員たちは、彼らを別に怪しいと思わなかった。

通常通りに展示室の閉鎖を相談するため、2,3分展示室を離れた。

戻ってきたとき、彼らが見たものは、

《水浴する女性》の額縁と、ぽっかりあいた白い壁だった!

ベオグラード市警察

「ルノワールが盗まれた!」

警備員たちは直ちにベオグラード市警察に通報した。

額縁と残ったカンヴァスから、

犯行にはナイフ、ペン・ナイフなど鋭利な刃物が使われた事が判明した。

警察は捜査網を張り、直ちに容疑者リストをつくった。

翌15日の朝、前日美術館にやってきた男の人相に合う1人の若い男を尋問。

すぐに男は取り押さえられ、男の部屋の洋服ダンスの中から、

ぐしゃぐしゃに巻かれたあの《水浴する女性》を発見した!

ダメージの修復

3月18日、美術館に帰還した《水浴する女性》の、カンヴァスと絵の具層は

素人によって扱われたため、相当のダメージを受けていた。

それから、国立美術館の修復家による長期の絵画修復作業が続けられた。

(その様子も写真で飾られてありました)

よみがえった名画

1997年5月10日、ベオグラード国立美術館の前は、

多くの人で埋め尽くされた。

58点のルノワール作品が展示される中、

防弾ガラスによって守られ、燦然と輝く《水浴する女性》

このルノワール展は、50,000人もの入館者を数え、

もっとも成功した展覧会になった。

               ’Unknown Story of Modern Art'より

 

 次回は 盗まれた名画 Ⅱ ムンクを追え! です。お楽しみに!

ピアノと海と花との生活はこちらです。

 

 

 


サグラダ・ファミリアは楽器だったのか Ⅱ

2006-09-03 | 建築

                                   

石の聖書

  ガウデイは、バルセロナの街中を、すばらしい音楽のコンサートで楽しませたかったのです。

  それこそが、ガウデイが遠い将来の夢として、思い描いていたこと。

  そして、ガウディは、街中に音を響かせる壮大な楽器を創ることに、

  情熱をかたむけました。

  そのため、ガウディが考え出したのが「鐘塔(しょうとう)」 です。

鐘塔とは?

  ガウディの創りたかった鐘塔とは、

  このサグラダ・ファミリアの写真を見ると、奇妙な塔に、たくさんの小窓が見えます。

  この4本の塔 鐘塔に84の鐘を吊るすつもりでした!

  この鐘の詩作は、ガウディのアトリエの1枚の写真から発見されました。

  筒型で、上の部分と下の部分が少し拡がっていて、形でいうと楽器のクラリネットのようなもの。

  弟子の書いた書物の中の、ガウディの言葉から、

  ’それは直線部分と、下のほうがゆるやかに拡がっている形が望ましい’と、

  判明し、番組ではそのプロジェクトチームが作られました!

彫刻家 外尾悦郎氏

  以前、ネスカフェのCMに出演なさってましたねえ。

  外尾氏は24年間、サグラダ・ファミリアの生誕の門の建設の責任者で、

  生誕の門は、彼がほとんど完成させました。

  奥様は、比石妃佐子さんといって、アルベニスなどスペイン音楽を演奏されるピアニストです。

    アルベニスの孫に当たる方が、比石さんの演奏がすばらしいと絶賛。彼女は各地で演奏していらっし

  ゃって私も大フアンです!

  外尾氏は、生誕の門の鐘塔が、楽器であったということは間違いないと、確信していました。

     人間の創り出した芸術、彫刻、建築、音楽を含めて、

    すべてのものが含まれていないと、駄目だ。

    サグラダ・ファミリアのすべての造りが、音に集約している!

音楽家 久石 譲氏

  彼も、ガウディに刺激された一人、グエル公園をテーマにして、曲をつくったこともあるそうです。

  久石氏が、番組全体をとおして、サグラダ・ファミリアの秘密を探り、

  最終的に、未来のバルセロナの街に拡がる音楽をつくります。

未来の楽器としてのサグラダ・ファミリア

  鐘塔は、何箇所かで仕切られていて、

  真ん中の2本の塔をつなぐ回廊に、ガウディは、そこに子供の聖歌隊をたたせるつもりでした。

  壁を背にして、反ドーム型の湾曲した天井、これが反響板となり、

  合唱の声が、礼拝堂の中に響き渡る、効果的な構造です。

  すべての小窓は同じつくり、そこから、音が街中に響く!

  ガウディは実際に鐘を試作し、約2キロはなれたグエル公園からその音をきいていた!

プロジェクトチーム

  ① ガウディの鐘の製作  約2メートルの長さ、下のほうが少し拡がった鐘を造る

                   →富山県高岡市 老子製作所  元井氏

   ②  84の鐘の音をコンピューターで合成

              鐘は上のほうがチューブラベル(’のど自慢’の鐘のようなもの)

                 下のほうがカリヨン(教会の鐘)

              上のチューブラベル、直線の長さを少しずつ短くすることで音階ができる

                  →中央大学、戸井教授

  ③  鐘の配置を決定する

                  鐘塔の中はらせん状になっている 

                  鐘をらせん状に配置

                  →建築家 沢田直樹氏

  ④  実際の音のシュミレーションをつくる

                  →音響メーカー BOZZ

曲の完成!

  この壮大なプロジェクトで、未来のバルセロナに響く音楽!

  それは、番組の最後に、未来の完成図と現在の風景の合体した影像の中に、

  鮮やかに響き渡りました!

  すべて鐘の音で出来た、カタロニアの民謡のメロディー。

  それは、何故か懐かしく、涙が出そうな美しい響きでした。 

ガウディの残した言葉

  『朝日の差し込む東側の「生誕の門」、

   昼間の光の中のいっぱいの「栄光の門」から、

   未来の街の人たちがはいってくる。

   聖歌隊たちは、礼拝堂に響き渡る声で、歌うだろう。

   そしてその声に合わせて、鐘がすばらしい音で唱和するだろう!』

ガウディの残した、遺産 サグラダ・ファミリア、その壮大な未来の姿が、

すばらしい音楽とともにあったのだと知り、

ますます感慨を新たにしました。

次回は『盗まれた名画』の予定です。

ピアノと海と花との生活

はこちらです。

次回もいつになるかわかりませんが、お知らせします。

お楽しみに!