ピアノと海と花との生活 Ⅱ

~創造する芸術~

新・ショパン考 3  ショパンの映画

2010-03-02 | 音楽

   

          

            ’ショパンの映画’というと何を思い浮かべますか?

           『戦場のピアニスト』では、ドイツ将校の前で、バラード1番を弾くシュピルマン、

           胸が締め付けられる場面でしたね。

           あの映画で、ピアノの吹き替えをしていたピアニストは、皆さん、ご存じですか?

           ポーランドのピアニスト、ヤーヌンシュ・オレイニチャク。

           彼が、ショパン役を演じているフランス映画がこれです。『La note bleue』

           《青い音》

           ショパンが、晩年過ごしたジョルジュ・サンドのノアンの館に繰り広げられた

           人間模様・・・もうそれは感嘆するしかない!

                 

          しかし、この最大の問題点は!邦題と日本での取り扱い方!

          この映画の邦題は何と『ソフィー・マルソーの愛人日記』となっており、

          成人映画として取り扱われ、表紙もこれ。

          実は、私は、何年か前にある芸術家の方からこの映画の事を教えてもらい、

          すぐAmazonで注文して観たところ、驚いてしまったのです。

          ソフィー・マルソーは、サンドの娘のソランジュ役で、ショパンの事は慕っていますが

          結局2人は結ばれることなく、事実に基づいた彫刻家のクレサンジュと結婚すること

          になる。

          まず驚くのが、ショパン役のヤーヌシュ・オレイニチャクの演技がすばらしい!

          もうショパンそのもの!顔も晩年の写真に本当によく似ています。そしてもちろん

          全編で、ショパンの数々の名曲をプレイエルで本人が弾いているのですが、

          ブラボーです!もうショパンがそこにいるようです。

          驚くことはまだまだあって、映画は最初に、私の大好きなツルゲーネフがノアンを訪れる

          ところから始まりますが、そのツルゲーネフの愛人のポーリーヌ役に、

          フォルクスオーパーでも大活躍のノエミ・ナーデルマン!

          彼女も全編にわたり、その美声をきかせています。

              

            確かに全体的に設定が芸術的なので、マニアックな映画になるのかも

           しれませんが、わたしは観れば観るほど、事実に基づいて創られていること   

           に感動します。

           ツルゲーネフがノアンを訪ずれるようになったのも、このころ。ドラクロアも息子

           のモーリスも、そのほかの登場人物も、忠実に描かれています。

           そうそう、サンドの飼っていた犬が、台所でワインを飲んでしまって、酔っぱらって

           それを見ながら、ショパンが「子犬のワルツ」を弾く場面もあります。

           出来た瞬間ではないですが、他の名曲はこうやって出来たのかなあという場面

           がたくさん出てきます。

           天才の織りなす世界ですから、かなりクレージーな部分もあるように思いますが、

           私は好きです。

           実際、毎日、ショパンの音をきいていた日常は、こんな感じだったと思う。

           なにしろ、オレイニチャクがうますぎる!

           私は『戦場のピアニスト』のサントラ盤ももっていますが、個人的にはCDできく彼の

           ショパンはあまり好きではありません。

           でも、この映画のノアン館のそれぞれの部屋においてあるエラールピアノを

           弾く彼は、本当のショパン!音もいいし、弾き方もこの映画の中ではすばらしい!

           最後の方で百面相も披露してるし、ふざけて床にすわったままピアノを弾く

           シーンもある!すごいなあ。

           サンドの寝室の青い部屋は、前回このブログでも、

           ご紹介しましたが、映画では、ソランジュにひかれていくショパンにサンドが

           爆発し、部屋を、大嫌いな真っ赤な壁紙に代えてしまう。サンドの書斎も忠実に

           再現していると思う。

           その真っ赤な寝室で、ピアノの鍵盤に、バーッと吐血しながらピアノを弾くショ

           パンの姿にはものすごいものがあります。

           晩年のショパンは、いつもこんな風だったと思う。

                     

          これは、ドラクロアが、リュクサンブール宮殿の図書室の天井を装飾する

          依頼を受け、ダンテを描くためにショパンの顔の特徴を利用したもの。

          1847年にドラクロアは、完成した絵を見せるためにショパンとサンドを案内した

          が、それが二人が一緒にいた最後だった。

          ドラクロアは終生、この絵を自分の部屋にかけていたそうだ。

          この絵をショパンにノアンの庭でショパンに見せる場面も映画に出てくる。

          ドラクロアとショパンとサンドは真の親友だったのだ。

                      

         これは、サンドの長男モーリスとサンドの作品。モーリスが菩提樹の木を削って

         人形を作り、サンドが衣装を作って仕上げた。これも映画全般にわたって登場し、

         最後は、不気味な人形劇の場面になっているが、実際、ノアンでは、この人形

         劇が、ノアンの芸術活動となり、広く人々に愛され、支持されたのである。

         映画の人形劇の最後に、登場人物のその後が語られているが、それもすべて

         事実。

         ソランジュは、婚約者がいながらショパンに惹かれ、2人でサンドから離れて、

         逃げたいとまで思うが、突然現れた彫刻家のクレサンジュと意気投合し、2人は

         結婚する。ショパンの晩年とサンドとの破局にも、この2人はおおいに関係している。

         また、映画では、サンドは非常に奔放で、あらゆる男性とキスをかわし、女性との

         関係まで描かれているが、これも事実である。

         この映画の中では、サンドはもう男装はしていない。その代わり、ソランジュが、

         ’昔のママの姿よ’と男装してショパンに迫る場面はある。

             

        この映画の中で、ショパンのセリフとして「バラードの中では必ず死が訪れた」

        という一言がある。私も同感。バラードを弾いているといつも強く感じる。

        サンドとの会話の中では、「最後の音まで、繊細に、かすかに・・・それが青の

        音よ」というのもある。美しい!

        こういう音を、私は長い時間をかけて探しているのだ。

        それにしても、この《La Note Bleue》も最後の方では(先の音へ)と訳してあって、

        フランス語はよくわかりませんが、これでいいのでしょうか?

        とにかく、この映画の邦題を、たとえば《愛と望郷の果て》とか《愛と旋律の日々》とか

        なんでもいいから変更して、ジャケットもアカデミックなものに変えて、

        せっかくのショパンの年だから変更してみてはいかがでしょうか?

        マニアックな不可思議な印象の映画ですが、そこにはショパンの実像に近い

        映像があります!

        最後の写真は、39歳で亡くなった1849年の翌年の10月17日、ドラクロアが会長になり

        パリのペール・ラシェーズ墓地に建てられたショパンのお墓。

        作者は、ソランジュの夫のクレサンジュ。ショパンの横顔の上に天使のうなだれた

        姿が彫られていてその手にしているのは、古代楽器のリラ。

        映画では、これまた奔放に描かれていたクレサンジュ、すばらしい仕事をしています。

        

 

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