先日、MBAプログラムマネージャーのAudeから僕の携帯に電話がかかってきた。僕はATR社のオフィスで仕事中だったのだけど、お世話になったAudeからの電話に出ないわけにはいかない。それに、オフィスの電話番号ではなく、わざわざ携帯の電話番号にかけてきたのだ。急用に違いない。
僕は通話ボタンを押してAudeと話し始めた。Audeは仕事中なのに本当にごめんなさいね、と断った上で、どうしても僕に頼みたい大事な大事な用件があるという。なんだ、日本語の通訳か翻訳だろうかと思って話を聞くと、どうやら違うらしい。5年に一度のMBA認証審査が今年行われる予定になっているのだけど、その認証審査の場で審査員の前で受け答えをしてほしいとのことだった。なぜ僕なのかは今は言えないのだけど、とにかくMBAディレクターのJacquesの意向でもあるので、なんとかスケジュールを空けて認証審査当日にスーツを着て会場まで来てほしい、それがAudeの頼みだった。
お世話になったJacquesやAudeに頼まれては、僕としても断るわけにはいかない。僕はなんとか都合をつけて行けるようにします、と答え、詳細な日時と場所だけを聞いて電話を切った。具体的に何をすればよいか全く分からない。しかし、Audeが困って僕を頼ってきた雰囲気だけは十分に汲み取ることができた。
MBA認証審査というのは、MBAを名乗る世界中のビジネススクールに対して行われる品質チェックのようなものだ。カリキュラムの内容や教授陣の質、学生のレベルなどを見て、MBAと呼ぶに値するかどうかが審査される。決して強制ではないのだけど、この審査に合格することなくして世界的MBAとして認知されることは難しい。その意味で、ビジネススクール側にとっては今後の生存をかけた死活問題でもある。なにが何でもこのMBA認証審査にだけは合格しなくてはならない。
そして、MBA認証審査が今日行われた。僕はATR社で午前中の勤務を終えた後、急いで車に乗って認証審査が行われているToulouse郊外の会場へと向かった。ここは昨年、僕の一世代前のMBAが学位を受け取った場所でもある。そして、運が良ければ僕も2週間後にこの会場でMBA学位を受け取ることになる。
MBA認証審査は、まず審査員を囲んでのAperitif(アペリティフ)から始まった。皆でシャンパンやキールを飲みながら、お互いの自己紹介を交えて軽く談笑するのだ。驚いたことに、この認証審査には過去のMBA卒業生も各世代から1名づつ呼ばれていた。5年間に1度の認証ということで、過去に遡って高いレベルでマネジメント教育が行われてきたかどうかを審査するらしい。
この日お会いした先輩方の面々がまたすごかった。世界No.1ヘリコプターメーカーであるユーロコプター社で既に子会社のCEOを務めている先輩、ボーイング社でB777プログラムのバイス・プレジデントを務めている先輩など、各世代からそうそうたるメンバーが集められていた。この認証審査のためだけにアメリカのシアトルから呼ばれて来た先輩もいた。Audeがあんなに苦労していたのも、何か分かるような気がした。
和やかなムードのランチタイムが過ぎ、いよいよMBA認証審査の時間になった。審査員は、AMBAと呼ばれるイギリスにあるMBA認証機関から派遣されているイギリス人とスペイン人だ。皆、イギリスやスペインの権威あるビジネススクールで代表を務める人達ばかりだ。目は真剣そのもので、あの和やかな空気は既にどこかに消え去っていた。
どんな認証審査だったかをブログで公にしていいかどうか分からないので、あえて今回は内容を紹介しない。学校側に迷惑がかかってはいけないと思うからだ。しかし、明らかに言えるのは、僕がこれまでに経験した中で最も厳しく、かつ、突っ込んだ面接だったということだ。面接であんなに追い込まれたのは久しぶりの経験だった。僕の持つ全エネルギーを注ぎ、全神経を集中させて、なんとか乗り切ったという感じだった。終わった瞬間、疲れがどっと体の中を走りぬけていったのを感じた。
審査はこの後もまだまだ続くらしい。そして、結果がでるのは明後日だそうだ。それまで気長に待つしかない。
僕の変な回答のせいで、ビジネススクールの評価が悪い方向に進んでいないことを心から祈っている。
(写真はAMBAの認証マーク)