朝青龍が稀勢の里に負けた解説で、これから‘カタルシス’が増えますねと語っていたので、思わず‘語る指数?’なんて思いながらネットの辞書を調べた。
【どういう意味?】「精神の浄化作用」のことです。
【もう少し詳しく教えて】カタルシスという言葉は、「心の中に溜まっていた澱(おり)のような感情が解放され、気持ちが浄化されること」を意味します。もともとは、アリストテレスが『詩学』に書き残した悲劇論から、「悲劇が観客の心に怖れと憐れみを呼び起こし感情を浄化する効果」をさす演劇学用語です。転じて、精神医療においては「抑圧されていた心理を意識化させ、鬱積(うっせき)した感情を除去することで症状を改善しようとする精神療法」をさします。さらに、一般化して、「心の中にあるわだかまりが何かのきっかけで一気に解消すること」をいいます。
【どんな時に登場する言葉?】哲学思想分野で用いられます。演劇学概論では、最初にならう専門用語のひとつです。ということからもわかるように、演劇・映画をはじめとするパフォーマンスや文芸関係に頻出します。例えば、「仮構の世界に陶酔することよってカタルシスをおこなう」とか、「アリストテレスが悲劇の効用として論じたカタルシス」といった表現は珍しくありません。 心理学・精神医学・カウンセリングなどでも登場します。「サイコドラマにおけるカタルシス」「カタルシスの必要性」といった言い方がされます。 また、俗に「苦痛を吐き出して解消すること」程度の意味で、個人的独白を綴った個人ページのタイトルなどにも見受けられます。
【どんな経緯でこの語を使うように?】 アリストテレスは『詩学』で、悲劇の効用としてカタルシス論を展開しましたが、「カタルシス」が意味するものを『詩学』の中で明確に定義していません。語源的には「カタルシス」は「排泄(はいせつ)」「浄化(作用)」を意味し、「体内の有害物質を瀉出(しゃしゅつ)すること」または「宗教的な浄め」をさすことから、学術研究領域では定義をめぐって、「瀉出(排泄)説」、「教化説」などさまざまな説が展開されています。 精神科医のS=F=フロイト(1856-1939)が、催眠療法と「悲惨な話を聞いて泣くこと」をあわせて用いて行なったヒステリー治療法における除反応を「カタルシス」と呼んだことから、精神療法の用語となりました。 日本では、演劇活動を展開した島村抱月(1871-1918)が、『囚われたる文芸』の中で「其の浄化(カタルシス)の説」と書いています。精神療法が日本に入ってくると、その意味でも用いられるようになります。
【カタルシスの使い方を実例で教えて!】アリストテレスのカタルシス論 アリストテレスは『詩学』で、作品としてまとまりがあり、演技者の再現代行行為によって、観る人が「あわれみ(エレオス)とおそれ(ポボス)を通じて、そのような感情の浄化(カタルシス)を達成するものである」(1449b)と、悲劇を定義しています。 カタルシスを○○する 「言語化によるカタルシスを体験する」「観客をカタルシスへ誘う」「カタルシスを喚起する」「カタルシスを味わう」という使い方をします。 「カタルシス」 CDや本の題名に用いられています。松本英子のアルバム「カタルシス」、桑沢アツオの漫画『鉄拳のカタルシス』など。また、村上龍は『奇跡的なカタルシス―フィジカル・インテンシティ』の中で、サッカーのカタルシスは爆発的で宗教的ですらある、という中田英寿選手の言葉を伝えています。