テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

「ラ・ジュテ」 ~ ストーリー・テリングの挑戦と限界

2010-06-12 | 十瑠の見方
 「ベトナムから遠く離れて」で名前だけは知っているフランス人監督、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」(1962)を観る。今月初めに観て、先日が2回目。【原題:LA JETEE】
 NHKの解説はこうだ。

<ヌーベルバーグの代表的映像作家クリス・マルケルが、モノクロの静止画を連続させて構成した実験的な近未来SF短編。第三次大戦後、廃虚と化したパリで生き延びた勝者側の科学者は、過去と未来に希望を求め捕虜を使って時間旅行を試みるが、実験台となった男は少年時代のある記憶にとりつかれていた。後年、テリー・ギリアム監督が手がけた「12モンキーズ」の原案ともなった伝説的作品。>

 実験台となった男が主人公で、モノクロの静止画をモンタージュし、そこにナレーションを加えて物語を展開している。台詞はないけどもBGMがあるので怖そうな雰囲気は伝わってくるんだが、予想したほど面白くはなかった。1回目を観た後にすぐさまツイッターで呟いたのでソレも転載する。

*

クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」を観る。「12モンキーズ」の原案になったらしいけど、「ターミネーター」や「マトリックス」にも影響を与えたと思う。スチール写真のみを使ったと解説してあったけど、1ヶ所、ほんの1、2秒だけどモーション・ピクチャーがあった。ベッドの上で微笑む女性・・・。
 [Jun 2nd webで]

静止画のモンタージュによる物語、といえばこれは漫画、劇画ではないですか。SFだから手塚治虫と比べなくちゃ。漫画が殆ど台詞で物語るのに比して「ラ・ジュテ」はナレーションで語ってる。そこに安上がり感があった。静止画のモンタージュも漫画の方が上手に感じたな。ジャン・ヴィゴ賞受賞か。
 [Jun 2nd webで]

*

 ジャン・ヴィゴ賞の他に、1963年のトリエステSF国際映画祭グランプリも受賞したらしい。

 2回目の鑑賞でも大して印象は変わらない。序盤の導入部は静止画とナレーションが合って引き込まれるけど、本筋に入って地下の実験が始まった辺りから語りが弱くなる。通常ならモーション・ピクチャーで語るべき部分で、それでもマルケルは静止画とナレーションで貫き通す。ツイッターにも書いたように、劇画なら吹き出しで台詞が入ってきて紙芝居のように登場人物の心情も理解できるんだが、コチラはナレーションで全部済ませているものだからどうにも物語に入っていけないんだ。静止画のモンタージュって、ストーリーを語るのに適してないんじゃないかなぁ。例えば、ドキュメンタリーのようなものには使えると思うけど。
 物語というのは、単純に物事の成り行きが分かればいいってもんじゃなく、登場人物の心情を理解させ、絡ませることによって受け手を導くものだから、心情が分かる台詞のようなものが必要なんだろうと思う。「ラ・ジュテ」も、中間部にそういう工夫があれば又違ったものになったかも知れない。例えば、ナレーションを主人公の一人称形式で語らせるとか。
 全体のナレーションが第三者のものとなっているのは、題材との距離を置こうとした結果だろうとは思うが、内容は主人公の意識が深く関わるものだから、むしろ彼の主観に重点を置いたナレーションの方が良かったと思う。勿論、ナレーションの内容は大幅に変えなければいけないけどね。

 最近は全く聴くことが無くなったが、昔はラジオ・ドラマなんちゅうものがあった。その名の通り、ラジオ番組による劇の放送。別に舞台劇や映画の音声を流してるんじゃなくて、音と台詞とナレーションだけで描いたラジオ仕様のドラマだ。お若い方、想像できますか?
 いわば、小説を効果音やBGM付きで代読して貰っているようなもので、ついでに人物の吹き替えもやって貰ってる。脚本の出来にもよるけど、これが面白いんだな。上手いラジオ・ドラマは、小説を読む以上に鮮明なイメージが湧いて思わず笑ったり、どきどきしたりする。一昔前には、有名なラジオ・ドラマが放送される時間帯には銭湯の客がいなくなったという逸話があるくらいだ。

 どうも、ストーリー・テリングには、目よりも耳からの情報の方が有効のようですな。目からの情報には想像力を喚起するチカラが弱いのでしょうか。単純にそうは言いきれない気もするけど、少なくとも今回の「ラ・ジュテ」に関しては、静止画のモンタージュによる表現としてはアプローチが中途半端だったような気がする。物語形式にするんだったら、人物の心情が分かりやすい一人称でのナレーションなり、台詞を挿入するなりした方が良かったのでは・・・。


(1962/監督・脚本:クリス・マルケル、製作:アナトール・ドーマン、撮影:ジャン・チアボー、音楽:トレヴァー・ダンカン/出演:エレーヌ・シャトラン、ジャック・ルドー、ダフォ・アニシ/29分)





コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ♪All that Jazz / Catherine... | トップ | 「定本 映画術」を買う »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (宵乃)
2010-06-12 13:54:11
わたしは相変わらず表現方法の良し悪しがわからないので、単純にこの世界観やストーリーに惚れこんで胸をときめかせてました。
十瑠さんの仰るように、確かに登場人物に感情移入はしにくかったかも。まあ、そこも好きだけど・・・とか思ってしまうわたしは重症ですね(笑)

ラジオドラマは映画のなかで時々見かけるくらいで、実際にはほとんど聞いた事ないですね。アニメやゲーム関係で”ドラマCD”というのがあるみたいですが、(質はともかく)同じ様なものなのかな~?
こんにちは、宵乃さん (十瑠)
2010-06-12 15:42:39
実は宵乃さんの記事を先に読んでいたので、シッカリと観て自分なりの言葉を書かなければと2回目を観るまで記事には出来ませんでした。

>まあ、そこも好きだけど・・

色々と賞も獲ってるし、伝説にもなっている作品ですから、宵乃さんの意見の方が真っ当なものですよ。私の方が鈍感なのかも。^^

>アニメやゲーム関係で”ドラマCD”

これは知らないです。
ということで、早速ググッてみました。
どうやら形式としては似たようなもののようですね。ウィキペディアの“ドラマCD”の関連項目に「ラジオドラマ」もありました。映画や小説と同じで、中身は様々でしょうけど。

コメントを投稿

十瑠の見方」カテゴリの最新記事