テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

さらば愛しき女よ

2005-07-24 | サスペンス・ミステリー
(1975/ディック・リチャーズ監督/ロバート・ミッチャム、シャーロット・ランプリング、ジャック・オハローラン、ジョン・アイアランド、ハリー・ディーン・スタントン、シルヴィア・マイルズ、シルヴェスター・スタローン)


 写真家出身のディック・リチャーズが劇場映画に進出して3本目の作品。デビュー作の「男の出発(たびだち)(1972)」は、ゲイリー・グライムズ主演の16歳の少年が主人公の西部劇で、面白く観た記憶がある。
 3作目のコレは、原作がレイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウ物の代表作の一つらしい。チャンドラーは読んだことがないんだが、双葉さんなどこの手の小説が好きな人には、本の雰囲気が出ていると評判の良かった映画である。全編、マーロウのモノローグが流れてくるので、原作も村上春樹みたいに一人称の小説なんだろう。
 30年目にして初お目見えとなった。NHK-BSの録画である。

 ディマジオの56試合連続安打記録が達成される話が出てくるので、1941年の話だ。ナチスドイツがロシアに侵攻した話も出てくるし、ラストシーンにチラと出てくる新聞のフロントページには“TOKYO”の文字が見えた。

 銀行強盗をして7年の刑期を終えてシャバに出てきた大男ムース・マロイ(オハローラン)に、かつての恋人だったベルマを探して欲しいとマーロウ(ミッチャム)は頼まれる。力持ちで短気そうなムース。刑務所に入った最初の年には連絡がとれていたが、その後音信不通になったらしい。ベルマが働いていた店にムースと一緒に行くが、手がかりはない。刑務所を出たばかりなのに、いきなりムースはこの店のボスの黒人を(拳銃を出したので)絞め殺してしまう。
 ムースはすぐに姿を隠してしまうので、マーロウは、まずは昔の店のことを知っている人間から接触することになる。かつて店でバンドマンとして働いていた男や、店のオーナーの未亡人(マイルズ)などに会い、ベルマの写真も手に入れる。やがてベルマが、今は精神病院に入っており、廃人同様であることを確認する。その事をムースに伝えるが、件のバンドマンがくれた彼女の写真は別人だった。

 振り出しに戻った格好だが、その間に別の依頼人が出てきて、友人の盗まれた宝石の買い戻しに付き合ってくれという。簡単な用件に見えたが、約束の場所に相手は現れず、マーロウはいきなり拳銃で後頭部を殴られ、気が付くと依頼人は殺されていた。
 警察も、最初はムースに無関心だったが、宝石買い戻しの事件の後くらいから、ムースに会わせろと言い出す。
 ムースはいつも誰かに命を狙われているようだし、マーロウも地元の売春組織の女ボスに捕まってムースの居所を聞かれたり、車の走行中に狙撃されたりする。

 やがて、ベルマと連絡がついたムースはマーロウの車で待ち合わせの宿へ向かうが、そこにもムースを狙って数人の刺客が現れる。ムースはベルマが何者かに囚われていると言うのだが・・・。

 一回目に観たときは、ストーリーがよく分からなかった。次々と事件は起き、沢山の人間が死ぬんだが、いっこうにベルマに近づいている感じがしないのだ。ラストで、『あぁ、そういうことか。』と分かる。
 で、もう一度観てみた。二回目の方が面白かった。

 チャンドラーの本は、探偵小説なのに文学的な香りがするらしく、「allcinema ONLINE」では<ハード・ボイルドと呼ぶにはあまりにウェットで曖昧な彼の文学に、最も近いテイストを持った映画化作品だろう。>と書かれていた。ミッチャムの演じたマーロウのセリフもひねったモノが多くて、一回目の鑑賞では裏の意味を探したりしている内に話の筋が見えなくなったのだと思う。
 筋が分かってしまえば、セピア調の画像のノスタルジックなムードや、マーロウの“文学的な”モノローグも楽しめる作品だった。BGMのトランペットが奏でるジャズも哀愁が漂っている。

 ロバート・ミッチャムはこの時58歳。さすがにちょっとくたびれた雰囲気で、それは監督の狙い通りだったのかもしれない。
 彼の映画で思い出すのは、M・モンローと共演した「帰らざる河(1954)」、G・ペックと海の上と下で戦う「眼下の敵(1957)」、そしてこれもペックと川で戦った「恐怖の岬(1962)」など。リーン監督の「ライアンの娘(1970)」、高倉健と共演したポラック監督の「ザ・ヤクザ(1974)」は残念ながら観ていない。

 その他の出演者は、シャーロット・ランプリングは地元の政界の大物の奥さんで、ジョン・アイアランドとハリー・ディーン・スタントンは地元のロサンゼルスの刑事。売春組織の女ボスの子分に、シルヴェスター・スタローンがちょい役で出ていた。
 尚、うらぶれた元ダンサーを演じたマイルズは、この映画でアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされたとのことである。

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】 テアトル十瑠

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 張り込み | トップ | モンパルナスの灯 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お、渋いですね~ (anupam)
2005-07-25 23:11:24
この映画は見ていないのですが、当時の宣伝用のチラシの映像を鮮明に覚えています。

シャーロットが大好きなので、彼女がクールに引き金に指をあて銃をかまえている絵が好きでした。



フィリップ・マーロウは結構いろんな男優が演じましたよね。ロバート・ミッチャムはちょっと年寄りでしけど、渋いムードにはぴったりだったかも・・

こういう映画って今なかなかないな~



アメリカ映画なんだけど、ヨーロッパっぽいっていうのか・・
返信する
マーロウは (十瑠)
2005-07-26 09:04:41
ボギーとか、ジェームズ・ガーナーとかエリオット・グールドとか・・・ですか。これの原作のマーロウも本当はもっと若いんでしょうけどね。



「愛の嵐」も「地獄に堕ちた勇者ども」も観てないです。
返信する
ストーリー (オカピー)
2019-03-10 20:19:22
そうなんです。
ハードボイルド映画は大体途中でお話が分からなくなってくる。小説ならページを戻せば何とかなりますが、映画はそれができませんからね(と言ってもビデオで見れば可能ですが、ビデオは小説程そういう気を起こさせない)。

>モノローグ
僕は他人の発言を引用したので、ナレーションと書きましたが、厳密にはモノローグですね。ナレーションと言っている段階で、こういう作品のあり方が解っていない気がします。

>シルヴィア・マイルズ
が出ていたので、「真夜中のカーボーイ」が観たくなりましたよ。近いうちに実行しましょう。
返信する
真夜中のカーボーイ (十瑠)
2019-03-11 12:10:11
特典映像狙いでDVDを買ってるんですが、放置してます。
もう何回も観てるんで、なかなか本編を観る気が起きないというか。また観ても満点★は変わらないと思ってますしね。

>ハードボイルド映画は大体途中でお話が分からなくなってくる。

最近ハードボイルド系観てない気がするので、久しぶりに「マルタの鷹」観よっかなぁ。
返信する

コメントを投稿

サスペンス・ミステリー」カテゴリの最新記事