テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

小津安二郎・考

2009-10-24 | 十瑠の見方
 NHKさんでは時々小津安二郎特集をやってくださるようで、数年前には「東京物語(1953)」と「お茶漬けの味(1952)」を録画したし、去年だったかは「麦秋(1951)」、そして最近では「晩春(1949)」と「秋日和(1960)」を録画、「東京暮色(1957)」は双葉先生の「日本映画ぼくの300本」に入ってなかったし陰気そうな話だったので録画しなかったんだけど、途中から見始めたら、陰気というか現実的な悲しい話が小津の淡々としたタッチにしっくりきていて、これは録画しとくんだったと思ったものでした。

 極めて個性的な作家ですね。
 ぼんくらな職業監督には個性も何もあったもんじゃないですが、良い監督はそれぞれ個性的。小津なんかは、5分も観ていればソレと分かるくらいです。
 カメラのロー・ポジション。フェイド・アウトやフェイド・イン等を使わず何気ない風景ショットを繋ぎに入れて時間経過を表す。この風景ショットには前後のカットとのモンタージュによって人物の心象表現にもなっていたりするし、勿論、雰囲気作りにもなっている。
 今回、「晩春」を久々に観ていたら、もう一つ、移動ショットが殆ど無いことにも気付きました。「麦秋」も少ないですが、「晩春」は頑なと言っていいほど移動ショットは使ってないです。

 「映画≠日誌」の中の“映画用語集”における【移動ショット、トラッキング・ショット】の解説には、こう書かれています。
<一般に、カメラが一点から別の点へ、左右あるいは前後どちらへでも、動くショット。カメラはトラックの上を動く台車や、ゴム・タイヤのドリーに乗せられることもあるし、手持ちのこともある。トラベリング・ショットとも言う。>

 序盤、原節子扮する娘と笠智衆扮する父親が鎌倉から東京に電車で向かうシーンで、走っている電車の窓から前方を撮ったショットがあります。これは電車が動いているから自然とカメラも動いているだけなんですが、一応これも移動ショットと言うんでしょうかね。
 もう一つ、原節子と、大学教授である父親の助手をしている青年とが鎌倉の海岸を自転車を走らせるシーンがあって、ここで少しだけ後方から二人の自転車を追っていく視点のショットがありました。
 移動ショットらしいカットは上記の二つだけでしたね。後は全部固定カメラで、しかも(カメラの)首を動かすことも無かったです。実に個性的です。

 人物がスクリーンの向こうからこっちへ歩いてくるショットは固定カメラで充分ですが、横に動く時には自然とフレーム・アウトする事になる。すると、間合いを取った後にその人物が行った先にカメラを切り替えてフレーム・インさせる。このように人物の横の動きも全て移動ショットを使わずに、全て視点の切り替えで編集していく。そんなやり方でした。

 小津映画は、明治から昭和初期の文学を読むつもりで落ち着いた気分で観ないと、その良さは分からない感じがします。なにしろ、殆どが一般家庭の親子や夫婦の話ばっかりで、生命の危機に繋がるようなサスペンスやアクションなんてものはない。家庭の話もどろどろした痴話喧嘩みたいなものはない。日常の些細な行き違いやら思いやりが、淡々としたタッチで描かれます。

 これから個々に紹介する予定ですが、とにかく初めの30分くらいは我慢して観て下さい。段々と話の本筋が見えてきて、後半に行くにしたがって成り行きが気になります。「晩春」や「麦秋」など、終盤にはホロッとさせられます。

 昭和を感じたくなったら、小津作品ほどピッタシの映画はないでしょうね。秋の夜長、或いはまったりとした午後に、お薦めです。紅茶でも飲みながら・・・ネ。

※ その2記事はコチラ

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2 コメント

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東京暮色 (オカピー)
2018-10-31 23:00:21
前作「早春」で見せた暗いトーンをさらに押したのが「東京暮色」で、季節が冬だけというのも戦後の小津ではこれだけではないでしょうか? 癖のある台詞もいつもより控えめな感じがあります。

珍しいと言えば、「早春」におけるぼけたショット。戦後の小津には珍しいなと思いました。

>何気ない風景ショットを繋ぎに入れて
ハリウッド映画の空撮等による摩天楼の図(新しいシークエンスの始まりを示す)は、小津から戴いたものではないか、と何年か前から思うようになりました。凄いな、小津の魔法使い!
「東京物語」と「東京暮色」 (十瑠)
2018-11-01 09:41:25
「晩春」と「早春」と、ちょっと文字を入れ替えたタイトルみたいですな。
内容は全然違うみたいですけど。

>新しいシークエンスの始まりを示す

定番のテクニックですが、誰が最初に始めたのか。
気になりますね

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