(1984/ローランド・ジョフィ監督/サム・ウォーターストン、ハイン・S・ニョール、ジョン・マルコヴィッチ、ジュリアン・サンズ、クレイグ・T・ネルソン/141分)
何度観ても凄い映画である。
ドキュメンタリータッチが臨場感と緊迫感に於いて、これほど劇的な効果を生んだ例は他に記憶がない。クメール・ルージュの戦士達はほぼ100%客観的に描かれているので、まさに戦場にカメラを持ち込んで撮影したような感じ。いきなりカメラに向かって発砲するのではないかと錯覚するくらいだ。
カンボジア内戦のリポートでピューリッツア賞を受賞したアメリカ、ニューヨーク・タイムスの記者の体験を元に作られた、今から約30年前の実話であります。
1973年8月。ベトナム戦争末期の隣国カンボジア。ここにも共産主義の勢力が力を伸ばしてきていて、やがてポルポトという狂人が支配する生き地獄が始まる頃、アメリカ人ジャーナリスト、シドニー・シャンバーグはディス・プランというカンボジア人の通訳兼ガイドと知り合う。
1975年4月。アメリカの支援を受けている現政府に対し、中国などに力を借りた共産勢力クメール・ルージュの攻勢は勢いを増していた。クメール・ルージュが政権を獲れば大虐殺があるとの噂が流れ、プランの家族は一足先にシドニーの計らいでアメリカ本土へ脱出する。プランはシドニーと共に取材活動を続けるが、首都プノンペンが陥落、僅かに残った外国人はフランス領事館に逃げ込む。プラン達カンボジア人にはタイへ国境を越える手があったが、パスポートを偽造することにより、プランはシドニー達と共に脱出出来るはずだった・・・。
パスポートがおりなかったプランは領事館を出ていき、シドニーと別れわかれになる。ココまでの上映時間約85分。この後の1時間弱でポルポト政権の異常な姿が露わになっていき、映画的にはプランの脱出劇がサスペンスフルに描かれる。
クメール・ルージュが支配するカンボジアの状況は悲惨きわまりない。十数年前、この映画を初めて観た後ネットで色々とポルポトについて調べたが、まさにカルト、極めて異常な共産原理主義者であります。映画とは直接関係ないのでこれ以上は書きませんが、映画でも子供が大人達を監視し、更には無慈悲にも殺していくシーンもあり、プランの置かれた情況の切迫さを感じさせるものとなっておりました。
あの時、大人を殺害した子供たちも現在生きているんでしょうが、あの子達がどうなっているか興味はありますな。
一部の映画ファンには、この映画はシドニーとプランとの友情物語として捉えられている。それも一つの側面だが、「ミッドナイト・エクスプレス(1978)」の製作者がそんなものの為だけに作るわけはなく、デヴィッド・パットナムの主題は人間の狂気や愚かさや暴力がどれだけ惨たらしい結果を招くかということにある。表向きにはオスカーを獲った「炎のランナー(1981)」がプロデューサーとしての代表作だろうが、個人的にはコチラの方が質も高いしスケールも大きい作品だと思っている。
1984年のアカデミー賞では、プラン役のハイン・S・ニョールが助演男優賞を受賞した他、撮影賞(クリス・メンゲス)、編集賞(ジム・クラーク)も受賞した。又、作品賞、主演男優賞(ウォーターストン)、監督賞、脚色賞(ブルース・ロビンソン)にもノミネートされた。
本人もカンボジアからの亡命者だというニョールの演技は鬼気迫るものがある。産婦人科医であった彼もプランと同じように知的労働者であることを隠し続け、4年もの間強制労働と拷問に耐えてきたとのことである。その間に妻と子供を亡くし、79年にタイに脱出、80年にアメリカに移住している。
これも既にご承知のことだろうが、96年ロサンゼルスの自宅で強盗により殺害されたとのことであります。
これがデビュー作のローランド・ジョフィの演出は迫力満点。再びパットナムと組んだ「ミッション(1986)」もカンヌ映画祭のグランプリを受賞したとのこと。寡作ですが、優れた作家のようであります。
▼(ネタバレ注意)
中盤以降はアメリカに無事亡命したプランの家族やプランの安否を探ろうとしているシドニーの活動も描かれ、脱出劇にシドニー側の状況を挿入したことでサスペンスが単調になるのが防げただろうし、ラストの再会シーンの感動にも繋がっている。上手い構成だった。
尚、二人の再会は79年10月。
タイの難民キャンプにシドニーが訪れての再会だった。ご存じ、ジョン・レノンの「♪イマジン」が流れるこのシーン、今回も涙してしまいました。
▲(解除)
何度観ても凄い映画である。
ドキュメンタリータッチが臨場感と緊迫感に於いて、これほど劇的な効果を生んだ例は他に記憶がない。クメール・ルージュの戦士達はほぼ100%客観的に描かれているので、まさに戦場にカメラを持ち込んで撮影したような感じ。いきなりカメラに向かって発砲するのではないかと錯覚するくらいだ。
カンボジア内戦のリポートでピューリッツア賞を受賞したアメリカ、ニューヨーク・タイムスの記者の体験を元に作られた、今から約30年前の実話であります。
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1973年8月。ベトナム戦争末期の隣国カンボジア。ここにも共産主義の勢力が力を伸ばしてきていて、やがてポルポトという狂人が支配する生き地獄が始まる頃、アメリカ人ジャーナリスト、シドニー・シャンバーグはディス・プランというカンボジア人の通訳兼ガイドと知り合う。
1975年4月。アメリカの支援を受けている現政府に対し、中国などに力を借りた共産勢力クメール・ルージュの攻勢は勢いを増していた。クメール・ルージュが政権を獲れば大虐殺があるとの噂が流れ、プランの家族は一足先にシドニーの計らいでアメリカ本土へ脱出する。プランはシドニーと共に取材活動を続けるが、首都プノンペンが陥落、僅かに残った外国人はフランス領事館に逃げ込む。プラン達カンボジア人にはタイへ国境を越える手があったが、パスポートを偽造することにより、プランはシドニー達と共に脱出出来るはずだった・・・。
パスポートがおりなかったプランは領事館を出ていき、シドニーと別れわかれになる。ココまでの上映時間約85分。この後の1時間弱でポルポト政権の異常な姿が露わになっていき、映画的にはプランの脱出劇がサスペンスフルに描かれる。
クメール・ルージュが支配するカンボジアの状況は悲惨きわまりない。十数年前、この映画を初めて観た後ネットで色々とポルポトについて調べたが、まさにカルト、極めて異常な共産原理主義者であります。映画とは直接関係ないのでこれ以上は書きませんが、映画でも子供が大人達を監視し、更には無慈悲にも殺していくシーンもあり、プランの置かれた情況の切迫さを感じさせるものとなっておりました。
あの時、大人を殺害した子供たちも現在生きているんでしょうが、あの子達がどうなっているか興味はありますな。
一部の映画ファンには、この映画はシドニーとプランとの友情物語として捉えられている。それも一つの側面だが、「ミッドナイト・エクスプレス(1978)」の製作者がそんなものの為だけに作るわけはなく、デヴィッド・パットナムの主題は人間の狂気や愚かさや暴力がどれだけ惨たらしい結果を招くかということにある。表向きにはオスカーを獲った「炎のランナー(1981)」がプロデューサーとしての代表作だろうが、個人的にはコチラの方が質も高いしスケールも大きい作品だと思っている。
1984年のアカデミー賞では、プラン役のハイン・S・ニョールが助演男優賞を受賞した他、撮影賞(クリス・メンゲス)、編集賞(ジム・クラーク)も受賞した。又、作品賞、主演男優賞(ウォーターストン)、監督賞、脚色賞(ブルース・ロビンソン)にもノミネートされた。
本人もカンボジアからの亡命者だというニョールの演技は鬼気迫るものがある。産婦人科医であった彼もプランと同じように知的労働者であることを隠し続け、4年もの間強制労働と拷問に耐えてきたとのことである。その間に妻と子供を亡くし、79年にタイに脱出、80年にアメリカに移住している。
これも既にご承知のことだろうが、96年ロサンゼルスの自宅で強盗により殺害されたとのことであります。
これがデビュー作のローランド・ジョフィの演出は迫力満点。再びパットナムと組んだ「ミッション(1986)」もカンヌ映画祭のグランプリを受賞したとのこと。寡作ですが、優れた作家のようであります。
▼(ネタバレ注意)
中盤以降はアメリカに無事亡命したプランの家族やプランの安否を探ろうとしているシドニーの活動も描かれ、脱出劇にシドニー側の状況を挿入したことでサスペンスが単調になるのが防げただろうし、ラストの再会シーンの感動にも繋がっている。上手い構成だった。
尚、二人の再会は79年10月。
タイの難民キャンプにシドニーが訪れての再会だった。ご存じ、ジョン・レノンの「♪イマジン」が流れるこのシーン、今回も涙してしまいました。
▲(解除)
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】
>ヘビーで考えさせられる作品でした・・
こちらも迫力満点の満点のようですね。
なんだか、ムードは想像できるなぁ・・・。
全く仰る通りの内容でしたね。30年位前、ショックの余り、東京の映画館から(実家に戻る遥か前なので)埼玉の家に戻った後寝込むようでしたよ。
>人間の狂気や愚かさや暴力がどれだけ惨たらしい結果を招くか
それに尽きますね。
本作全体に対して「感動」という感想が出るのは、ご指摘のように「友情」の物語として理解しているからでしょうが、それでは少し寂しいです。
「戦争の悲劇」というのも残念な捉え方。プランがつらい思いをするのは、内戦中ではなく、戦後ポル・ポト派が制覇した後ですから。
ハイン・S・ニョールが、プラン以上に大変だったようですが、それが迫真の演技に繋がったのでしょうね。折角つかんだ平和をアメリカでああいう形で終えてしまうとは。
>ジョン・レノンの「♪イマジン」が流れるこのシーン
僕も、涙なしに観られませんでしたねえ。
くどい印象を受ける人もいるようですが、どちらかと言えば、リアル・タイムで観た人の感想ではないような気がします。
余りに平和を象徴するようなイメージが作られすぎてしまって・・・
ほぼ同じような感想でしたね。
僕は映画館では見てなくて、最初がVHS、この時がDVDだったと思います。
それでも凄かった!
プランが教養ある男であることを見破ったクメールルージュの幹部が突然撃ち殺されるシーンが本当にドキュメンタリーみたいだったのを今でも覚えています。
正に10点満点。