テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

卒業

2002-11-14 | 青春もの
(1967/マイク・ニコルズ監督/ダスティン・ホフマン、キャサリン・ロス、アン・バンクロフト) 


 見直さなくてもコメントをかける作品のひとつです。
 日本では青春恋愛映画ですが、アメリカではコメディに入るようです。向こうはコメディといっても、ハチャメチャからシニカルなものまで幅広く捉えるみたいで、ただの青春映画としている方がちょっとどうかな?と私は思います。一歩引いて見れば、結構悲惨な話なんですよね。そこを、笑わせながらみせる。そこんとこの演出力がアカデミー賞を取らせたのでしょう。作品賞は「夜の大捜査線」にさらわれましたけど。

 アメリカン・ニューシネマの先駆けのひとつなんですが、青春まっただ中にいた私としては、主人公ベンジャミンに感情移入するところが多くて、なんともやるせない、胸のキューンとしてしまうところが多い作品です。それは、恋愛感情とは別で、大学は卒業したけれど、はてさてこれからどうしよう?というベンの気持ちです(私はそんな年ではなかったんですが、何故か共感出来たんですよね)。この時代はこういう先の見えないというムードをもった作品が多かったです。
 オープニングの、帰省してきた空港内部を移動するベンの横顔に、「サウンド・オブ・サイレンス」が流れているところから滲んできています。そして、次のカットの、自宅の自室のベッドに横になって所在なげにしている横顔にも・・・。

 原作では空港のシーンはなく、すぐに部屋のシーンになるんですが、空港の何気ない描写がこの映画の導入としてとても効果的だったと思います。

 ミセス・ロビンソンとの密会を決意させたのは、息子の気持ちに鈍感な両親に愛想を尽かしてからですが、それはプールの底でのつぶやきシーンに現れています。

 印象的なシーンは、ミセス・ロビンソンとの最初の密会で、ホテルのクローク(この映画の脚本も書いたバック・ヘンリー)とベンとのやりとり。ミセス・ロビンソンとのベッドで昔話をするとき。エレーンと最初のデートで喧嘩して仲直りしたときに、何か飲もうとそのホテルに誘われ、エレーンにそういう関係の女性がいたことがばれるところ。その相手が、自分の母親だとエレーンにばれるところ。
 しかし、ラストの、バスが出ていった後の二人の顔が、笑い顔からシリアスな顔になるところが一番印象的です。

 サイモン&ガーファンクルの数々のヒット曲がとても効果的でした。

 この後、ダスティン・ホフマンキャサリン・ロスの映画についてはよく観たものです。
 マイク・ニコルズ作品もこの後だいぶ追いかけましたが、「ワーキング・ガール」 まで、好きな作品は出てきませんでした。

2008年6月 再見記事 (“お薦め度”修正しました)
2010年2月 つぶやき記事から (動画付きです)
2012年10月 面白シーン from 「卒業 (1967)」 (動画付きです)

・お薦め度【★★★★=ユニークな人間描写、友達にも薦めて】 テアトル十瑠



[追記:2005.06.14 Tue]
 「奇跡の人」の記事のコメントに返事をしていて思い出したことがありました。
 「卒業」のベンジャミン役には、D・ホフマンの前にロバート・レッドフォードにも声がかかったらしいんですが、レッドフォードが『自分が童貞の青年を演じても説得力がない。』と断っていたとの事。ずっと昔に、映画雑誌で読みました。説得力があるかどうかは分からないが、あのD・ホフマンのとぼけた味は出なかったでしょうな。コメディタッチがなくなった、ただのほろ苦い青春映画になったりして・・・。
 K・ロスとレッドフォードの共演としては、「明日に向って撃て!」より早まるわけですがね。

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4 コメント

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色々な記事 (十瑠)
2014-02-25 10:54:07
この映画には思い入れが深いので、この記憶だよりの記事に飽き足らず、再見記事やら印象的なシーンの動画を解説した記事などアップしていますので、そちらも御笑覧を♪

音楽についても再見記事にありますが、この頃からサイモン&ガーファンクルの人気に火がついて、友達の家でアルバムを聴いた思い出があります。後年、僕もLP「明日に架ける橋」は買いましたなぁ。

>バスに二人が乗るのは昔の映画でもあったような気がするけど、ああいう顔は絶対見せない。

双葉先生もラストはハリウッドの恋愛映画の王道とだけしか評されてなくて、意味深な二人の表情についてふれられてないのに不満だった十瑠少年でした。
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色々な思い出 (オカピー)
2014-02-24 21:31:09
原作は英文で読んだのですよ。高校を出たばかりの僕でも2時間の列車の中で読み終わる簡単な文章でした。

最初に見たのはリバイバルで、兄貴と。二人とも気に入って、後日サントラLPを買いました。それまで主題曲だけのサントラ・シングルはよく買いましたが、LPで買ったのはこれが初めてでしたねえ。
有名な「サウンド・オブ・サイレンス」をバックにホフマンを横から捉える開巻シーンから抜群で、マイク・ニコルズの感覚の良さが光っていると感じます。

ダスティン・ホフマンもキャサリン・ロスもほぼ無名の存在で、アン・バンクロフトが筆頭キャスト扱いでしたから、日本では製作の翌年に公開されたんですよね。今のように世界同時ロードショーなんてのもなかったので、当たり前と言えば当たり前ですが。

そして、あの幕切れ。
バスに二人が乗るのは昔の映画でもあったような気がするけど、ああいう顔は絶対見せない。
キャサリンの涙も良くなかったですか? 今の映画でストリップに連れていかれただけで泣く娘なんていませんものね。今観ると却って新鮮です。
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ラスト・シーンは・・・ (十瑠)
2006-02-12 09:35:28
子供心にも、『この二人はハッピーになれるんかいな?』なんて、思わせましたな。
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レッドフォードではね・・ (anupam)
2006-02-11 23:52:13
確かにレッドフォードのような2枚目が童貞君の役を演じても説得力ゼロですよね。作品としてまったく違うものになっていたと思います。



しかし~~やはり1度の気もそぞろの鑑賞ではほとんど大事なポイントを忘れていることを再確認。でもラスト、バスの中での真顔のふたりはすごく印象的でしたね。
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