(2002/ジム・シェリダン脚本・監督・製作/サマンサ・モートン、パディ・コンシダイン、サラ・ボルジャー、エマ・ボルジャー、ジャイモン・フンスー/106分)
劇中の人物にビデオカメラを持たせ、その映像を通常のフィルムの中に挿入するという手法は、最近はある種のサスペンス映画によく使われているようだが、最初にソレを意識したのは凡そ三十数年前に観たNHK-TVの「海外秀作ドラマシリーズ」の中の一編だった。サスペンスではなく、それ程重たくないファミリードラマで、この手法のおかげで人間の繋がりの脆さというか信頼感の薄さのようなものが表現されていて、今でももう一度観たいと思っている。
「イン・アメリカ」は、アメリカに不法移民として入国した若い夫婦と二人の幼い姉妹のアイルランド人一家の話で、語り手となっている10歳の長女がいつもカメラを回しており、その映像が時々挿入される。三十数年前のあのドラマほどのインパクトはなかったが、終盤に出てくる姉妹の小さな弟の映像には泣きそうになってしまった。
シェリダン監督の半自伝的な作品とのことで、脚本は彼と二人の娘の共作になっている。【原題:IN AMERICA】
夫婦の名前はジョニー(コンシダイン)とサラ(モートン)。幼い姉妹はクリスティーとアリエル。姉妹には2歳で脳腫瘍で亡くなった弟がいて、その子の名前がフランキー。生前のフランキーが神様は願い事を三つまでは叶えてくれると信じていたので、一家に困ったことが起こった時にはクリスティーも天国のフランキーに三つまで願い事をしようと思っている。副題にはそういう意味があるのです。
ジョニーとサラは幼い姉妹を連れてカナダ経由でアメリカに入国する。ジョニーは俳優を目指しており、国境の検問では“観光目的”とのウソがばれそうになるが、何とか事なきを得る。お金が無いので治安の悪い地区のビルの最上階の汚いアパートを借り、サラは教師の職が見つからないのでウェイトレスになり、ジョニーはオーディションの毎日。なかなか役が貰えずに、深夜のタクシー運転手をやったりする。煌びやかなネオンサインに溢れ、麻薬常習者やオカマ達がたむろする街だが、可愛い娘達も新しい学校に通い始め、それなりに生活を楽しもうとしていた。
猛暑の夏が過ぎ、学校での“ハロウィーン”パーティーの後、クリスティーとアリエルはお菓子を貰おうとビルの中のドアを叩いて回り、下階に住む黒人青年に会う。絵を描いているようだが、時々大きな叫び声をあげる男で、ジョニーは娘達に危害を加えないかと心配して、そっと部屋の前まで行ってみることにした。意外にも男は優しく、小銭を貯めていた空き瓶をアリエルにくれた。男の名前はマテオ(フンスー)といった。
その頃、新しい赤ん坊を身ごもったサラに医者は状態は良くないと伝える。母子共に無事な確率は低く、ジョニーは出産に反対したがサラは聞き入れなかった。そこにはフランキーに対する彼女の思いが関係していた。脳腫瘍が発覚する直前にフランキーが階段から落ちたことをジョニーもサラも自分達の不注意と責めていて、新たな赤ん坊の誕生はそんな思いを変えてくれる、サラはそう信じているようだった・・・。
貧しい生活を描きながらもジメジメしないのは、サラとエマに扮したボルジャー姉妹の可愛らしさのおかげでしょうか。しっかり者のお姉ちゃんが、フランキーの死に重荷を感じていたのも泣かせるし、その愛らしさで近所の人気者になったアリエルの自然な演技も驚きでした。
マテオの描き方が最初は危険な匂いを漂わせていたのは少し反則気味。最終結果の対比として誇張して描き、彼のエピソード全体をファンタジーっぽくしたかったのかも知れません。
アイリッシュを騙ってジョニーに金を借りようとする男が出てきたり、サラが働いているレストランに親切なウェイトレス仲間がいたりと、ニューヨークの下町描写も雰囲気が出ていました。
「ギター弾きの恋」とは違った生々しい女性を演じたサマンサ・モートンは、これで2003年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされ、その他助演男優賞(フンスー)、脚本賞にもノミネートされたようです。
音楽も印象的。挿入歌“Time Enough For Tears”は歌曲賞にノミネートされたそうですが、クリスティーが学校で唄う「♪デスペラード」もストーリーの流れに合っていてしんみりします。
尚、クリスティー役のサラちゃんは、現在公開中の話題作「スパイダーウィックの謎(2008)」に出演中。スチール写真では大分お姉ちゃんになっているようで、ダイアン・レインの子供の頃のようでした。
妹のエマちゃんは、実写板「ハイジ(2005)」のハイジちゃん。これも未見です。
▼(ネタバレ注意)
クリスティーの三つの願い事。
最初は国境の検問で引っかかりそうになった時の、<追い返されませんように>。
二つ目は、うだるような夏の暑さに苦労をして取り付けたクーラーもヒューズをとばして万事休す、涼しい映画館で一家で「E.T」を見た後、夏祭りの夜店で“E.T”人形をねだるアリエルの為にジョニーがボール入れに挑戦するも、全財産を無くしそうになった時の、最後の<ボールが入りますように>。
さて、最後のお願いは・・・(泣かせる)。
▲(解除)
劇中の人物にビデオカメラを持たせ、その映像を通常のフィルムの中に挿入するという手法は、最近はある種のサスペンス映画によく使われているようだが、最初にソレを意識したのは凡そ三十数年前に観たNHK-TVの「海外秀作ドラマシリーズ」の中の一編だった。サスペンスではなく、それ程重たくないファミリードラマで、この手法のおかげで人間の繋がりの脆さというか信頼感の薄さのようなものが表現されていて、今でももう一度観たいと思っている。
「イン・アメリカ」は、アメリカに不法移民として入国した若い夫婦と二人の幼い姉妹のアイルランド人一家の話で、語り手となっている10歳の長女がいつもカメラを回しており、その映像が時々挿入される。三十数年前のあのドラマほどのインパクトはなかったが、終盤に出てくる姉妹の小さな弟の映像には泣きそうになってしまった。
シェリダン監督の半自伝的な作品とのことで、脚本は彼と二人の娘の共作になっている。【原題:IN AMERICA】
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夫婦の名前はジョニー(コンシダイン)とサラ(モートン)。幼い姉妹はクリスティーとアリエル。姉妹には2歳で脳腫瘍で亡くなった弟がいて、その子の名前がフランキー。生前のフランキーが神様は願い事を三つまでは叶えてくれると信じていたので、一家に困ったことが起こった時にはクリスティーも天国のフランキーに三つまで願い事をしようと思っている。副題にはそういう意味があるのです。
ジョニーとサラは幼い姉妹を連れてカナダ経由でアメリカに入国する。ジョニーは俳優を目指しており、国境の検問では“観光目的”とのウソがばれそうになるが、何とか事なきを得る。お金が無いので治安の悪い地区のビルの最上階の汚いアパートを借り、サラは教師の職が見つからないのでウェイトレスになり、ジョニーはオーディションの毎日。なかなか役が貰えずに、深夜のタクシー運転手をやったりする。煌びやかなネオンサインに溢れ、麻薬常習者やオカマ達がたむろする街だが、可愛い娘達も新しい学校に通い始め、それなりに生活を楽しもうとしていた。
猛暑の夏が過ぎ、学校での“ハロウィーン”パーティーの後、クリスティーとアリエルはお菓子を貰おうとビルの中のドアを叩いて回り、下階に住む黒人青年に会う。絵を描いているようだが、時々大きな叫び声をあげる男で、ジョニーは娘達に危害を加えないかと心配して、そっと部屋の前まで行ってみることにした。意外にも男は優しく、小銭を貯めていた空き瓶をアリエルにくれた。男の名前はマテオ(フンスー)といった。
その頃、新しい赤ん坊を身ごもったサラに医者は状態は良くないと伝える。母子共に無事な確率は低く、ジョニーは出産に反対したがサラは聞き入れなかった。そこにはフランキーに対する彼女の思いが関係していた。脳腫瘍が発覚する直前にフランキーが階段から落ちたことをジョニーもサラも自分達の不注意と責めていて、新たな赤ん坊の誕生はそんな思いを変えてくれる、サラはそう信じているようだった・・・。
*
貧しい生活を描きながらもジメジメしないのは、サラとエマに扮したボルジャー姉妹の可愛らしさのおかげでしょうか。しっかり者のお姉ちゃんが、フランキーの死に重荷を感じていたのも泣かせるし、その愛らしさで近所の人気者になったアリエルの自然な演技も驚きでした。
マテオの描き方が最初は危険な匂いを漂わせていたのは少し反則気味。最終結果の対比として誇張して描き、彼のエピソード全体をファンタジーっぽくしたかったのかも知れません。
アイリッシュを騙ってジョニーに金を借りようとする男が出てきたり、サラが働いているレストランに親切なウェイトレス仲間がいたりと、ニューヨークの下町描写も雰囲気が出ていました。
「ギター弾きの恋」とは違った生々しい女性を演じたサマンサ・モートンは、これで2003年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされ、その他助演男優賞(フンスー)、脚本賞にもノミネートされたようです。
音楽も印象的。挿入歌“Time Enough For Tears”は歌曲賞にノミネートされたそうですが、クリスティーが学校で唄う「♪デスペラード」もストーリーの流れに合っていてしんみりします。
尚、クリスティー役のサラちゃんは、現在公開中の話題作「スパイダーウィックの謎(2008)」に出演中。スチール写真では大分お姉ちゃんになっているようで、ダイアン・レインの子供の頃のようでした。
妹のエマちゃんは、実写板「ハイジ(2005)」のハイジちゃん。これも未見です。
▼(ネタバレ注意)
クリスティーの三つの願い事。
最初は国境の検問で引っかかりそうになった時の、<追い返されませんように>。
二つ目は、うだるような夏の暑さに苦労をして取り付けたクーラーもヒューズをとばして万事休す、涼しい映画館で一家で「E.T」を見た後、夏祭りの夜店で“E.T”人形をねだるアリエルの為にジョニーがボール入れに挑戦するも、全財産を無くしそうになった時の、最後の<ボールが入りますように>。
さて、最後のお願いは・・・(泣かせる)。
▲(解除)
・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】
私も好きな作品です。
お教えいただきありがとうございました。
>姉妹の可愛らしさと、大人の危うさのバランスが観ていてハラハラさせる・・・
そうですね。アンバランスな部分がまぜこぜになりながら、一線を踏み外さないところがイイですね。
「ハイジ」は私も観ました。宮崎アニメのファンだったので、これは急ぎ足で駆け抜けた感じの映画でした。エマちゃんはここでも可愛かったですね。
とても丁寧に書かれたブログですね。
映画は姉妹の可愛らしさと、大人の危うさのバランスが観ていてハラハラさせるものの、ラストのさよならは明日を感じさせてくれるものでとても素敵に感じました。
あの子観たことあるなぁと思ったら「ハイジ」に出てたんですね、ここで気付きました。
>ラストは、お姉ちゃんに泣かされました。
彼女が主人公と言ってもいいくらいでしたね。「スパイダーウィックの謎」はまだ観てないです。
コチラこそ宜しくお願いします。
これは、いいお話でしたね。見る前は、内容も知らず、あまり期待もしていませんでしたが。
はじめ、マテオは怖い人のイメージが強かったですよね。正体不明な隣人のイメージは、実際にあったことなのかもしれませんね。
ラストは、お姉ちゃんに泣かされました。
我が家のレスは後ほど(夜?)に。
またよろしくお願いいたします。
レンタルすることを考えれば、それもしゃーないかとも思いますが。
アイルランド出身らしいボルジャー姉妹。要注目ですね
あのクーラーの挿話は、呼吸が良くて楽しく、お気に入り。
好きな作品なので、保存版DVDを作ろうと思いましたが、結局やめてしまいました。
後年後悔しなければ良いけれど。
彼女がどんな女優になるか楽しみです。
>けっこう、シンドイ話なのに、ジメついてなくて
リアルな表現と誇張された部分がまぜこぜになっていながら、一線を踏み外さない演出が不思議な後味。夜空にポッカリ浮かんだ満月がメルヘンチックなのも印象的でした。
一度目は★三つくらいの印象でしたが、観るほどに子供たちの可愛さと上手さで★一つ追加となりました。
(平井の堅ちゃんも丁寧に丁寧に歌ってる~^^)
あの娘さんが歌う「デスペラード」は、ほんと、すばらしいっ!
本作、小さな劇場でひっそりと上映されている時、観ました。
先日録画しましたので、大事に大事に鑑賞したいと思っていました。
けっこう、シンドイ話なのに、ジメついてなくて、大好き!いい映画です。