(この記事は日記ではなく小説です!)
最近買ったばかりの真新しいカーテンが風に靡いて揺れている。
通販で買ったレースのカーテンで、私はなかなかに気に入っていた。
そのカーテンが掛かっている窓の下、そこには私お気に入りのソファーが置いてあるのだが、彼はそこに横たわり、顔の上に旅行雑誌を広げて見ていた。
「フランスに行きたいな」
唐突に彼は言った。
見ると彼の読む雑誌、今月はフランス特集である。
「フランス、っていったらパリ?」
「そうだな、パリに行ってみたい」
彼は雑誌から目を離し私の方を向いた。
「パリっていったら芸術の都でしょ?あなた美術の成績最悪じゃない」
「世の中は成績で決まる訳じゃない。どんなに美術の成績が悪かろうと僕は芸術が好きである!」
「そんな事言ったってあなたの描く絵はとても芸術には見えないわね」
あんなちびっ子の落書きみたいな絵、と呟く私から彼は即座に視線を逸らした。
「はいはい、先生は絵がうまいからねぇ」
「あら、私を先生って言うんなら、これからでも絵の勉強をさせてあげたってよろしいのよ?」
「残念、俺が好きなのは国語だ。先生、国語が大好きです」
彼はくつくつとふざけたように笑った。
「ジャパニーズが好きな生徒がよくフランスに行こうと思うわね。あなたフランス語話せる?」
「残念ながら俺はジャパニーズは好きだがフレンチは好きではない」
私は盛大に溜息をつく。
「なぁに、現地に行けば翻訳してくれるガイドさんがつくさ。心配はいらない」
私はそう、とだけ短く返事を返し、少し話題を変えた。
「あなた、フランスに行ってどうするの?美術館巡りでもするわけ?」
「それもいいなぁ」
彼はにこにこと笑いながら雑誌をめくる。
「でもフランスといえば美食の国でもあるだろう?」
「そうなの?私フランスの事なんてほとんど知らないから」
「芸術の本場だっていうのは知ってるくせに?」
「それは私は絵が好きだからこそよ。食にはあまり興味はないわ。ま、フランスパンくらいはしってるけど」
「そう、それだよ!」
彼はいきなりソファから飛び起きた。
目を丸くする私をよそに彼は話を続ける。
「そのフランスパンに上質なチーズとワイン。最高だね!」
私ははぁ、と気のない返事を返す事くらいしかできない。
「それにフランスといえばエスカルゴだ。ぜひ食してみたい」
「えぇ?何で蝸牛なんか好き好んで食べなくちゃいけないわけ?あなた正気?」
「正気に決まっているじゃないか。珍味だよ、珍味!死ぬ前に一度食べてみたいと思っているんだ、僕は!」
私は蝸牛やナメクジのあのぬめぬめとした体を思い出し、それを食べると思うと体中に鳥肌が立った。
人間は何でも食べる。
よくもまぁあんなぬめぬめぶにぶにしたものを食べようと思い立ったのだ。
最初にあれを食べようと思った人は正気の沙汰とは思えない。
「そんな風に見た目で判断しちゃいけないよ。それだから君は食わず嫌いなんだ。ウニもイクラも生魚もだめじゃぁ、寿司が食べられないではないか」
「あんな生臭いもの私は食べたかないわ!」
「君は人生を損している!」
「い、今は、エスカルゴの話でしょう?寿司の話じゃないわ」
私が言うと彼はむうんと唸り、腕を組んだ。
そして不意に手をぱちんと打った。
「よし、いつか一緒にフランスへ行こう。そして一緒にエスカルゴを食べるんだ。きっと君の食わず嫌い克服のきっかけとなってくれる。蝸牛は君の人生を切り開く鍵となってくれるさ!」
「いや、私は芸術には興味があるけど、食には・・・」
「食だって美しく盛りつければ芸術だ!よし、僕はこれからもりもり働くぞ!」
「も、もりもり?」
かくして彼と私は半ば強引に一緒にフランスへ旅行する約束を交わした。
風に揺られるレースのカーテンは白地に赤と青の模様。
奇しくもフランス国旗のような色調であった。
:
「寿司って美味しいわね。エスカルゴに比べれば、うんと」
私は彼との約束を果たした。
エスカルゴも食した。
私はそれで勇気をもらい、あれだけ食べる気の起きなかった寿司をもりもり食べるようになった。
「まったく、そんなんじゃ太るぞ。僕はスリムな奥さんがいい」
ちなみに、私達の新婚旅行先はフランスであった。
最近買ったばかりの真新しいカーテンが風に靡いて揺れている。
通販で買ったレースのカーテンで、私はなかなかに気に入っていた。
そのカーテンが掛かっている窓の下、そこには私お気に入りのソファーが置いてあるのだが、彼はそこに横たわり、顔の上に旅行雑誌を広げて見ていた。
「フランスに行きたいな」
唐突に彼は言った。
見ると彼の読む雑誌、今月はフランス特集である。
「フランス、っていったらパリ?」
「そうだな、パリに行ってみたい」
彼は雑誌から目を離し私の方を向いた。
「パリっていったら芸術の都でしょ?あなた美術の成績最悪じゃない」
「世の中は成績で決まる訳じゃない。どんなに美術の成績が悪かろうと僕は芸術が好きである!」
「そんな事言ったってあなたの描く絵はとても芸術には見えないわね」
あんなちびっ子の落書きみたいな絵、と呟く私から彼は即座に視線を逸らした。
「はいはい、先生は絵がうまいからねぇ」
「あら、私を先生って言うんなら、これからでも絵の勉強をさせてあげたってよろしいのよ?」
「残念、俺が好きなのは国語だ。先生、国語が大好きです」
彼はくつくつとふざけたように笑った。
「ジャパニーズが好きな生徒がよくフランスに行こうと思うわね。あなたフランス語話せる?」
「残念ながら俺はジャパニーズは好きだがフレンチは好きではない」
私は盛大に溜息をつく。
「なぁに、現地に行けば翻訳してくれるガイドさんがつくさ。心配はいらない」
私はそう、とだけ短く返事を返し、少し話題を変えた。
「あなた、フランスに行ってどうするの?美術館巡りでもするわけ?」
「それもいいなぁ」
彼はにこにこと笑いながら雑誌をめくる。
「でもフランスといえば美食の国でもあるだろう?」
「そうなの?私フランスの事なんてほとんど知らないから」
「芸術の本場だっていうのは知ってるくせに?」
「それは私は絵が好きだからこそよ。食にはあまり興味はないわ。ま、フランスパンくらいはしってるけど」
「そう、それだよ!」
彼はいきなりソファから飛び起きた。
目を丸くする私をよそに彼は話を続ける。
「そのフランスパンに上質なチーズとワイン。最高だね!」
私ははぁ、と気のない返事を返す事くらいしかできない。
「それにフランスといえばエスカルゴだ。ぜひ食してみたい」
「えぇ?何で蝸牛なんか好き好んで食べなくちゃいけないわけ?あなた正気?」
「正気に決まっているじゃないか。珍味だよ、珍味!死ぬ前に一度食べてみたいと思っているんだ、僕は!」
私は蝸牛やナメクジのあのぬめぬめとした体を思い出し、それを食べると思うと体中に鳥肌が立った。
人間は何でも食べる。
よくもまぁあんなぬめぬめぶにぶにしたものを食べようと思い立ったのだ。
最初にあれを食べようと思った人は正気の沙汰とは思えない。
「そんな風に見た目で判断しちゃいけないよ。それだから君は食わず嫌いなんだ。ウニもイクラも生魚もだめじゃぁ、寿司が食べられないではないか」
「あんな生臭いもの私は食べたかないわ!」
「君は人生を損している!」
「い、今は、エスカルゴの話でしょう?寿司の話じゃないわ」
私が言うと彼はむうんと唸り、腕を組んだ。
そして不意に手をぱちんと打った。
「よし、いつか一緒にフランスへ行こう。そして一緒にエスカルゴを食べるんだ。きっと君の食わず嫌い克服のきっかけとなってくれる。蝸牛は君の人生を切り開く鍵となってくれるさ!」
「いや、私は芸術には興味があるけど、食には・・・」
「食だって美しく盛りつければ芸術だ!よし、僕はこれからもりもり働くぞ!」
「も、もりもり?」
かくして彼と私は半ば強引に一緒にフランスへ旅行する約束を交わした。
風に揺られるレースのカーテンは白地に赤と青の模様。
奇しくもフランス国旗のような色調であった。
:
「寿司って美味しいわね。エスカルゴに比べれば、うんと」
私は彼との約束を果たした。
エスカルゴも食した。
私はそれで勇気をもらい、あれだけ食べる気の起きなかった寿司をもりもり食べるようになった。
「まったく、そんなんじゃ太るぞ。僕はスリムな奥さんがいい」
ちなみに、私達の新婚旅行先はフランスであった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます