はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 三章 その4 冷たい風のなかで

2024年05月22日 10時08分18秒 | 赤壁に龍は踊る 三章



風は北西から吹き付けてくる。
ぴりっとした寒さが、徐庶の青白い頬を痛めつけた。
なるほど、こんな風のなかで警備の仕事なんぞをしていたら、風邪のひとつもひくだろう。


そろそろ兵の調練がはじまる時刻である。
途中、曹操軍中の顔見知りともすれ違ったが、徐庶が挨拶しても、向こうは無視するか、あいまいにうなずくだけだった。
曹操のもとでは、張遼や張郃《ちょうこう》、そして蔡瑁《さいぼう》らを引き合いにだすまでもなく、かつては敵陣にいたが、その軍門に下ったという者は多い。
だが、徐庶のようにいまだになじみ切れていない者には、だれもがよそよそしさを隠さなかった。


そんな環境に慣れたとはいえ、このままでいいのかという、おのれへの疑問もわく。
母を失ってから、自分が臆病になっていることにも、徐庶は気づいていた。
無辜《むこ》の母をその手にかけた曹操は、つぎに歯向かえば、今度は潁川《えいせん》に残された一族に手をかけるだろう……
『かといって、隠遁する度胸もなし。どうしたものか』


そんなことを考えていると、仲裁役が教えてくれた長方形の建屋にたどり着いた。
横たわっている大魚のような、どこか威圧感を与える建物で、なるほど、仲裁役の男が言った通り、すぐには窓がみつからない。
やっとみつけたが、小窓で、それも閉じられていた。
黒塗りの木材で建てられたその大きな小屋の前には、一目で北方の兵とわかる長身で大柄の兵が一組いる。
かれらはあたりを睥睨《へいげい》しつつ立っていた。


『ずいぶん大仰《おおぎょう》だな』
と同時に、おかしいな、と思った。
具合の悪い兵士たちが休んでいるだけの建屋に、なぜ見張りがいるのか?
徐庶が建屋に近づいていくと、大柄の兵士たちが、徐庶を中に入れまいと立ちふさがった。
「医師の許しがない者を通すことはできませぬ」
「医師とは? 名を何という?」
「それは申し上げられませぬ」
と、兵士たちは徐庶の顔をろくに見ないで答えた。
ためしに、一歩、前に進み出ると、男たちは手にした矛《ほこ》を徐庶に突き出そうとする。
慌てて、徐庶は敵意がないということを示すべく、両手をあげた。
もとより、武器の類は持っていない。
「待った。帰るよ」
「そうなすってください」
兵士たちの表情は全く変わらなかったが、その声色のなかに、安堵の感情を徐庶は読み取った。


立ち去る間際、徐庶は小屋から流れてくる、饐《す》えたにおいに気が付いた。
『薬のにおいか? それにしては……』
立ち去ろうとして、ふたたび振り返ると、兵士たちは、今度はじっと徐庶を見つめていた。
おそらく、不用意に近づく者は容赦なく斬れとでも言われているのだろう。
やはりおかしい。
とはいえ、何も権限のない自分が建屋に無理に入ることはできなかった。


徐庶は来た道を帰りつつ、近くにいた別の作業をしている兵士を呼び止めた。
「あそこの建屋をあいつらに守らせている将は、だれだかわかるか?」
兵士はすぐに答えた。
「蔡都督です」
蔡都督……蔡瑁である。
「そうか、ありがとう」
礼を言いつつ、徐庶は建屋をふたたび振り返った。
あいかわらず、一組の兵士たちは、徐庶をじっと見つめている。


そのとき、どおん、どおんと銅鑼の音がひびきわたった。
兵の調練がはじまったのだ。
ほどなく勇壮な掛け声と、兵士たちの揃えた軍靴《ぐんか》の音が聞こえてきた。
徐庶のかたわらでは、昼食の当番の兵士たちが、鍋や食材となる豚や皿を持って移動していく。
「江東のやつらも飯を食ってるだろうな」
「魚ばっかり食っているんじゃないのか」
「どうしてさ」
「水に親しんでいるって話だからさ」
なんだ、そんな理由かよ、と与太話をしているのが聞こえた。
兵士たちにとっても、つねに対岸にいる江東の兵は気になる存在らしい。


一方で、徐庶は歩きながら考えていた。
『蔡都督か。襄陽にいたころから好きになれないやつだったが、なにか隠しているな。
だれから情報を得たらいいだろう。
荀軍師(荀攸《じゅんゆう》)あたりから探りを入れてみるか?』
そうしようと思い立ち、徐庶は荀攸のところへ向かった。


つづく

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とくに大きなお知らせ・変更はないんですけれども……
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