日本シリーズJTカップ最終日。2年連続賞金王を逃した石川遼は、今季最終戦をこう振り返った。
「日本にゴルフファンが何人いらっしゃるかわからないですけど、そのひとりひとりに感想を聞きたい。これだけ期待されていて初日にああいうプレイになってしまった。それに対して皆さんがどう思っているのか知りたいんです」
確かに、初日は6オーバーと大きく出遅れ、最下位発進だった。しかし2日目と最終日に猛チャージ。初日の会見で公言したとおり3日間で15打伸ばし、一時はトップと3打差まで肉薄した。逆転賞金王を逃したからといって、最終日まで奇跡の逆転劇を期待させた石川に、非難の目を向けるギャラリーなどいるはずもない。
また、大叩きもあるが、爆発力もあるハイリスク・ハイリターンの攻撃的なゴルフこそ、石川の最大の魅力。そういった意味では、石川のゴルフが凝縮された4日間だった。
今季を振り返っても、序盤に2度の予選落ちを経験するなど、快調なスタートとは言えなかったが、5月の中日クラウンズ最終日に史上最少スコアとなる「58」を叩き出して逆転優勝。9月のフジサンケイクラシックで大会連覇に成功すると、その後は安定して上位争いに加わった。11月には、タイガー・ウッズにヒントを得たスイング改造を行ない、直後の三井住友VISA太平洋マスターズですぐに結果を残した。
シーズン3勝を挙げ、海外メジャーでもマスターズこそ一打及ばずに予選落ちしたものの、6月の全米オープンでは予選ラウンドを2位通過するなど、昨季以上の成績を残した。
それでも、石川の胸中には賞金王ゆえのジレンマがあった。
「去年、賞金王になれたからといって、そんなにうまくいくものじゃないと思いながら戦っていました。自分はまだまだ“練習が足りない”“下手なんだ”と言い聞かせて練習してきたんですけど、やっぱり結果というものが気になる部分もあって……。09年賞金王が果たしてこういうプレイでいいのかという気持ちが常にあった」
賞金王の重責に苦しみ続けた1年だったというのだ。それが冒頭のコメントにつながる。
シーズンも終盤にさしかかり、ジレンマを拡大させる要因となったのが、賞金ランキングトップの金庚泰の存在だった。精度の高いショットで常に優勝争いに絡む金と自分を比べることで、足りない部分を痛感させられた。
その結果、金との差を埋めるべく、ドライバー以上に短い距離のアイアンショットやパッティングの練習に時間を割く石川の姿があった。賞金王争いを演じる中、ショートゲームの重要性に気付くと同時に、最終戦では新たな課題も見つかった。
「(最終日にダブルボギーを叩いた)13番はずっと打ちにくいなと感じていたんです。毎日クラブ選択に迷った中で、最終日に初めて“自分にはコースマネジメント力が足りないんだ”と気付いた。高い弾道の球や低い球、ドローにフェード……そういったものをもっとマスターできれば、ゴルフ場もこれまでと違う目線で見えるようになって、コースマネジメントのバリエーションも増えていく。この点が来年の課題ですね」
最後は「最高のシーズンを送れたとは思う」と殊勝に語った石川は、来季以降に向けた自信も口にした。
「賞金王を逃した今年のほうが最終戦で得たものが大きかった。初日に出遅れても、最後まで気持ちを切らさずに集中してプレイができた。マスターズにつながっていく大きな手応えを感じた一週間でした」
「マスターズ制覇」という変わらぬ夢と、進化を続ける攻撃的ゴルフ。すでに石川の視線は未来へ向かっている。
(スポルティーバ)