石川遼が飛距離へのこだわりを捨てた。
いや、正しくは少々の飛距離を犠牲にしても得ようとしたものがあるというべきだろうか。
7月下旬に石川は使用ボールを変えた。
直径わずか4cmちょっとのボールを操るためにゴルファーは血眼になって練習している。そのボールを変えるということは、些細なことのようでいて、確たる意志がなければできないことだ。
これまで石川の使ってきたSRIスポーツ「スリクソンZスターXV」(以下XV)はどちらかといえば飛距離追求型。新しく切り替えた「スリクソンZスター」(以下Zスター)はスピン性能追求型である。
両者の違いは簡単にいえば、硬さにある。
とはいえ、いくら指で押してみてもボールがへこむわけではないし、見た目だけでは分からない。果たして実際にはどれほど違うものだろうか。
■新ボール「スリクソンZスター」は今までと何が違うのか?
ボールの硬さを表す指標として「コンプレッション」がある。
これは100kg以上の一定の荷重をかけた時の変形量を数値で示したものだ。XVとZスターでは、コンプレッション計測時の変形量の違いはわずか0.01mm単位。ミクロレベルの違いでしかない。
プロはその差を打感で把握するわけだが、われわれのようなアマチュアでもポンポンとリフティングをしてみると、手の感触や音によって違いを感じやすくなるという。
というわけで、石川にもリフティングした時の音を表現してもらった。
「確かに違いますよ。カンカンとポンポンまではいかないけど、カンカンとコンコンって感じですかね」
念のために説明すると「カンカン」が硬いXVで、「コンコン」が柔らかいZスターである。分かったような分からないような気もするが、その感触の違いはフェース面とシャフトを通じて確かに石川の手に伝わっているようだ。
■海外の硬いグリーンが飛距離へのこだわりを捨てさせた。
おおざっぱに言えばゴルフボールは、硬いと弾きが強くなり、スピン量が減って弾道が低く抑えられる。結果として飛距離も出やすい。
一方、柔らかいボールはクラブへの食いつきが増してスピン量が増える。そのことで弾道も高くなる傾向がある。
飛ばない統一球が話題となったプロ野球とは異なり、ゴルファーは自分のプレーに合わせて飛ぶボールや、スピンを重視したボールを選択しているのだ。
つまり石川の変更は飛距離よりもスピン量を増やすことを意図したもの。この決断の背景には海外メジャーでの経験があった。
「全英オープンとか全米オープンといったグリーンの硬いコンディションでは、ロングアイアンやミドルアイアンで打った時のランが半分に抑えられれば攻めの幅が広がる。一番の狙いはミドルアイアンのスピン量を増やすことでした」
■「その2、3ヤードをなかなか捨てきれないプロも多い」
メジャー仕様の硬いグリーンにボールを止めるには高い弾道とスピン量が必要になる。
石川は7月下旬のサン・クロレラ・クラシックの会場で、新しいボールでの各クラブのスピン量を計測。その結果、XVよりもZスターがベターであるという結論に至った。
硬さの違いはショートパットのタッチにも影響が出やすく、石川もそのあたりは心配していたというが、実際に使ってみると問題はなかった。
「ドライバーの飛距離は2、3ヤード落ちたかもしれないけど、これが自分の理想かな。飛距離に関しては、体を鍛えてスイングをよくしたり、ヘッドスピードを上げることで伸ばしていけばいい。道具に頼るのはやめました」
メーカー担当者も「その2、3ヤードをなかなか捨てきれないプロも多い。そういう意味では大したもの」と自らの考えに基づいた決断を評価する。
2、3ヤードの飛距離にあっさりと見切りをつけられるのは、プレーの課題がドライバーからアイアンに移行しつつあることとも関係している。
■飛距離よりも“止まる”ボールを選択した石川の変化。
加藤大幸キャディーは「“飛ばない”というよりは“止まる”というイメージ。そのことでコースの攻め方まで変わる訳じゃないけど、(ランを気にすることなく)安心して振れるか振れないかの違いは出てくると思う」と新ボールの効用を説明する。
ジャンボ尾崎のアドバイスを受けてアイアンショットを再構築している石川にとって、妥協のないボール選びは、自分のスイングを磨き上げることにもつながっている。
プロ転向直後は「違いがあまり分からない」と言っていた石川だが、ツアーで戦ううちにボールがもたらす影響の大きさを感じていったに違いない。もちろんそれはクラブ選びでも同じであろう。
間断なく開発が続くゴルフギアと絡み合うようにして、石川のゴルフも日進月歩で進化しているのだ。
(Number Web)
いや、正しくは少々の飛距離を犠牲にしても得ようとしたものがあるというべきだろうか。
7月下旬に石川は使用ボールを変えた。
直径わずか4cmちょっとのボールを操るためにゴルファーは血眼になって練習している。そのボールを変えるということは、些細なことのようでいて、確たる意志がなければできないことだ。
これまで石川の使ってきたSRIスポーツ「スリクソンZスターXV」(以下XV)はどちらかといえば飛距離追求型。新しく切り替えた「スリクソンZスター」(以下Zスター)はスピン性能追求型である。
両者の違いは簡単にいえば、硬さにある。
とはいえ、いくら指で押してみてもボールがへこむわけではないし、見た目だけでは分からない。果たして実際にはどれほど違うものだろうか。
■新ボール「スリクソンZスター」は今までと何が違うのか?
ボールの硬さを表す指標として「コンプレッション」がある。
これは100kg以上の一定の荷重をかけた時の変形量を数値で示したものだ。XVとZスターでは、コンプレッション計測時の変形量の違いはわずか0.01mm単位。ミクロレベルの違いでしかない。
プロはその差を打感で把握するわけだが、われわれのようなアマチュアでもポンポンとリフティングをしてみると、手の感触や音によって違いを感じやすくなるという。
というわけで、石川にもリフティングした時の音を表現してもらった。
「確かに違いますよ。カンカンとポンポンまではいかないけど、カンカンとコンコンって感じですかね」
念のために説明すると「カンカン」が硬いXVで、「コンコン」が柔らかいZスターである。分かったような分からないような気もするが、その感触の違いはフェース面とシャフトを通じて確かに石川の手に伝わっているようだ。
■海外の硬いグリーンが飛距離へのこだわりを捨てさせた。
おおざっぱに言えばゴルフボールは、硬いと弾きが強くなり、スピン量が減って弾道が低く抑えられる。結果として飛距離も出やすい。
一方、柔らかいボールはクラブへの食いつきが増してスピン量が増える。そのことで弾道も高くなる傾向がある。
飛ばない統一球が話題となったプロ野球とは異なり、ゴルファーは自分のプレーに合わせて飛ぶボールや、スピンを重視したボールを選択しているのだ。
つまり石川の変更は飛距離よりもスピン量を増やすことを意図したもの。この決断の背景には海外メジャーでの経験があった。
「全英オープンとか全米オープンといったグリーンの硬いコンディションでは、ロングアイアンやミドルアイアンで打った時のランが半分に抑えられれば攻めの幅が広がる。一番の狙いはミドルアイアンのスピン量を増やすことでした」
■「その2、3ヤードをなかなか捨てきれないプロも多い」
メジャー仕様の硬いグリーンにボールを止めるには高い弾道とスピン量が必要になる。
石川は7月下旬のサン・クロレラ・クラシックの会場で、新しいボールでの各クラブのスピン量を計測。その結果、XVよりもZスターがベターであるという結論に至った。
硬さの違いはショートパットのタッチにも影響が出やすく、石川もそのあたりは心配していたというが、実際に使ってみると問題はなかった。
「ドライバーの飛距離は2、3ヤード落ちたかもしれないけど、これが自分の理想かな。飛距離に関しては、体を鍛えてスイングをよくしたり、ヘッドスピードを上げることで伸ばしていけばいい。道具に頼るのはやめました」
メーカー担当者も「その2、3ヤードをなかなか捨てきれないプロも多い。そういう意味では大したもの」と自らの考えに基づいた決断を評価する。
2、3ヤードの飛距離にあっさりと見切りをつけられるのは、プレーの課題がドライバーからアイアンに移行しつつあることとも関係している。
■飛距離よりも“止まる”ボールを選択した石川の変化。
加藤大幸キャディーは「“飛ばない”というよりは“止まる”というイメージ。そのことでコースの攻め方まで変わる訳じゃないけど、(ランを気にすることなく)安心して振れるか振れないかの違いは出てくると思う」と新ボールの効用を説明する。
ジャンボ尾崎のアドバイスを受けてアイアンショットを再構築している石川にとって、妥協のないボール選びは、自分のスイングを磨き上げることにもつながっている。
プロ転向直後は「違いがあまり分からない」と言っていた石川だが、ツアーで戦ううちにボールがもたらす影響の大きさを感じていったに違いない。もちろんそれはクラブ選びでも同じであろう。
間断なく開発が続くゴルフギアと絡み合うようにして、石川のゴルフも日進月歩で進化しているのだ。
(Number Web)