なのでゆっくり寝てゆっくりスタートします。
ですが、装備変更だし2日分だし気温が違うし雨予報だしで、準備に2時間かかりました。
僕はいつもそう。
でもE君はサッとしまって、翌朝適当に突っ込んで出ていくタイプです。
どうやったらそんなに簡単に出来るのか分かりません。
続々とバスやタクシーでスタートする人達を横目に、僕らは水ヶ塚駐車場をあとにします。
歩いて反対側の登山道へと入って行きます。
須山口登山道を使いました。
ガラン沢経由のルートだと、来た道をだいぶ戻ることになるためです。
道はしっとりとした樹林帯です。
富士山は裸の山と思われがちですが、ちゃんと森だってありますよ。
昨夜はやっぱり雨でした。
初めからレインウェアを着込んでの出発です。
富士山は雲の中。
雨はだんだんと弱くなります。
今日はなんとか雲海荘まで何事もなく到着し、一日目のダメージを三日目に残さないのが目標です。
昔の僕だったら二日間で仕上げただろうなと思いましたが、還暦ですからねやるだけマシだと自分を慰めます。
苔むした山道脇に実をつけた植物。
水はけが良いので生息出来る植物は限られているんじゃないかな。
まずは道標に従って進むのみ。
ここは一合五勺。
「御殿庭」でルート3776に合流します。
綺麗でござんしょ?
富士山だってバカにしたもんじゃないのかもですよ。
よく言う『富士山は見る山、登って楽しい山じゃない』という言葉、だいたい登ってない人が言ってる気がします。
なんとなくのんびり気分です。
ここで軽く食事します。
ポットに氷を入れてきたので常に冷たい飲み物が飲めてリフレッシュします。
森林限界を越えると、いきなり雲が切れ下界が見えました。
富士山らしいザレた溶岩質の斜面は足元がすくわれやすく、1歩が半歩の幅に戻されてとても疲れます。
サーっと霧が晴れ、宝永山と新七合目の小屋が見えました。
先行していたE君がなにやら大人数の軍勢を掴まえておしゃべりしています。
近づいてみると、
『東京学芸大の学生さんたちだって。ワンダーフォーゲル部。全員でゼロ富士やってるって!』と。
おお!
すごい。
若者たちよ良くぞ山の世界へ来てくれました。
『明日山頂アタックだって。俺たちと同じ』E君が興奮ぎみにしゃべっています。
その後『みんなでヤッホーいく?』と部長さんかな? が言いました。
横並び一列『せーの、ヤッホーーー』
ちゃっかり僕もE君も参加していました。
(画像の使用は許諾済です)
着きました「雲海荘」です。
この日はお母さん(80歳過ぎてるとか)とその娘さんとそのまたお嬢さんが迎えてくれました。
予約でお電話した時の受話器の向こうはたぶんお母さんの娘さんですね。
すごく親しげで、声を聞いただけでも泊まってみたくなるようなお話しぶりでした。
僕『こんにちはー、予約した高橋です。今日はよろしくお願いします』
娘さん『はーい、お待ちしてましたよー。それじゃねとりあえずここ座ってて』
めっちゃ明るい方でした。
お母さんもニコニコして『えーと、えーと何するんだっけ』なんて言いながらパタパタと動いていました。
壁には芸能人や有名人の色紙がたくさん。
ここを利用されたんでしょうね。
こんな写真もありました。
この写真の人を知らない日本人ってかなり少ないんじゃないかな。
この小屋はとても多くの人達に愛され、利用されているんですね。
富士山で宿泊することはほとんど無いのですが、なぜここを選んだのかと言いますと、ルート3776のチェックポイントだからです。
僕『あの〜、ルート3776のスタンプありますか? なんか忘れちゃいそうで』
娘さん『はーい、じゃこれね。明日山頂?』
僕『はい、だけど天気が激しく崩れそうで⋯』
娘さん『そうねぇ、今夜から悪くなるのはもう分かってることだから⋯』
お母さん『ここはいつも朝に風が強くなるのよ』
お母さん『〇〇ちゃーん、高橋さん達のお部屋出来たー?』
お孫ちゃん『はーい、出来てる出来てる。うふふふ』
お孫ちゃんはとにかくよく笑います。
部屋に通され、といってもついたてのある布団だけの場所ですけどね。
『じゃ、ここでーす。なんかあったら言ってくださーい。うふふふ』
とりあえず明日の準備をして⋯
と思ったらE君、すでに高いびき。
僕に『迷惑かけるといけないからコレ使う?』と言って耳栓をくれました。
いつでもどこでもすぐに寝れる特技は国宝級です。おやすみ3秒ってまさにこの事です。
僕はだいたい1時間寝ました。
E君は3時間ぐらいかな。
食事の時間になったので、下に降りました。
カレーです。
お味は、ふふふ。
そこで娘さんに聞いてみました。
僕『今から出るって言ったら、朝ごはん帰ってきてから食べてもいいですか?』
娘さん『かあさーん、高橋さん今から出るってー。朝のお弁当帰ってきてからでもいいよねー』
お母さん『今から出るの? 気をつけてな。荒れるっていうから』
僕の考えは風がさらに強くなる明け方以降に下山するという、いわば賭けに出たわけです。
今なら風速20mを超える前に山頂から下山できる。
そうと決まればサッサと用意して出発だ。
お母さんとお孫ちゃんが見送ってくれました。
お母さん『気をつけてなー。なんかあったら入り口叩いてよー、すぐに開けるからー』
お母さんありがとうございます。
お孫ちゃん『じゃ気をつけてー。帰りまってるねー、ふふふふ』
手を振って出発します。
18時55分でした。
スタートはこんな感じでした。
まだ少し明るさも残っています。
でも、それはあくまでもこの時はだということです。
ん?誰か降りてくるぞ?
えっ? えーっ?
ヘッドライトなし。懐中電灯もなし。
これ、下山出来ないぞ。
君たち何やってるんだ!
次、えっ? えーっ?
スマホライト1つだけで2人降りてきました。
き、君らもか!
何やってるんだ!
さらに次。
えっ? えーっ?
ビニールの100円カッパ。
薄着、やっぱりライトなし。外国人。
『あのスイマセン、チュシャジョウ(駐車場)まであとどのくらい?』
僕『1時間半はかかりますよ』でもそれは普通に歩ける人の時間で、この状況では2時間以上はかかると思います。
なんせ見えないんだから。
外国人女性『えー1ジカン? ハァ⋯』
いや、もっとかかると思いますけどとりあえずうなずいておきました。
救助の対象になりそうだな。
そのあとも何組かの外国人グループ(だいたい2人組の男女)を追い越しました。
みんなスウェットみたいなズボンにとりあえずのジャンパー、それに上だけの100円カッパ。
セパレートのゴアテックスじゃないと死ぬよ?
新七合目を過ぎ、元祖七合目の小屋の影で100円カッパを着ようとする女性。
手に取った瞬間『キャー』
強風で飛ばされてしまいました。
少し探していましたが、真っ暗ですからみつかりません。
これで下山決定だな。それが良いと思いますよ。
えっ? えーっ?
なんと100円カッパ、見つけてきたようです。
い、行くの?
行っちゃいました。
風は勢いを増し、ものすごいガスで矢印やすぐ脇のロープを見るのがやっとの状況です。
そして遂に吹き上げるような雨が降り出しました。
分かってることだけど、山頂には立てない確率が高くなりました。
そこからしばらく登ったところでE君が⋯
その4へ続きます。