テキスト主体

懐中電灯と双眼鏡と写真機を
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(当然、その他についても、語ったりする)

戦車砲弾の変遷

2013-11-24 23:52:00 | シロートの戯言
火縄銃の時代、銃身の内部は滑らかな円筒(スムースボア)で、その中に、炸薬と弾頭を込め、点火して発射していました。つまり、銃身の長さに沿って進むことで、弾頭は方向性を得て、目標へ向けられるわけです。射程距離が長くなるにつれ、銃口を射出された後の弾丸が、空気抵抗で、銃身の方向からずれたりする影響が無視できなくなり、銃身の内部に旋条が刻まれ、銃身の中を進みながら、弾丸に回転を与え、ジャイロとなって跳ぶことで、弾道を安定させるようになり、飛躍的に命中率が上がりました。決闘用の短銃などでは、旋条(ライフリング)は卑怯とされ、銃身の後ろ半分のみに旋条を刻んだ、見た目には滑らかな従来のスムースボアなものも、つくられたりもしたようです。この銃火器におけるライフリングが、黎明期の冶金製鉄と金属加工、そして火薬を飛躍的に発展させることに繋がったのですが、ここではそれは別の話で、短銃であれ、火砲であれ、銃身とそのライフリング、口径(銃身長)と弾丸、炸薬、それらが高度に洗練されて兵器の中核となったのです。
戦車が登場すると、当然、それに対抗する兵器がつくられるようになります。当初の歩兵随伴の強固な移動トーチカという役割から、戦車同士の対戦が主体となり、戦車砲の役割は相手戦車の装甲を貫通し、破壊することに主眼がおかれるようになり、徹甲弾が開発されました。硬く尖った弾頭を装甲板に強くぶつけ、貫通することに特化した弾頭です。
AP(Armor Piercing)弾と云われる弾頭は硬く重い金属(タングステンなど)を弾芯、あるいは弾頭被帽として構成され、命中するときの運動エネルギーを貫通力としていました。発展型の粘着被帽を被せたAPC(Armor Piercing Capped)弾、空気抵抗を低減する被帽をも被せたAPCBCなども、より高い貫徹力を目指し、弾頭は重量あたりの空気抵抗を減らすため、細長くなりましたが、余りに細長い弾頭は、砲身のなかで、スムースに進行することが難しくなり、APDS(Armor Piercing Discarding Sabot、装弾筒付徹甲弾)が開発されます。
※弾頭のみでなく、ゲルリッヒ砲、口径漸減(スクイーズド・ボア)砲というものも考案されました。砲口へむけて口径の減少していく砲身内を柔らかい金属の覆いを被った弾芯が進行していくことでライフリングにより柔らかい部分が削られ、比較的小口径で、非常に初速の早い弾頭を打ち出す砲、砲身の寿命が短いのが欠点

APDSは、砲身よりかなり細い弾頭を2つ以上に分離するカバーで覆い、砲身内でスムースに進行し、軽い装弾筒の為に初速が向上、砲口から出た後は遠心力と空気抵抗で装弾筒が外れ、細長い弾芯のみが飛んでいくというものです。当然、より細長く、という改良が模索されましたが、弾芯の直径と全長の比が6を越えると、ライフリングによる高速回転のジャイロ効果では、弾頭の安定が保てなくなってきます。細長い回転体は偏芯ブレを起こしやすく、背の高いコマのようにスリバチ現象を起こして弾道が安定しません。故に、ライフリングの高速回転を緩和して、かつ弾道を安定させるよう、小さな翼を付けたものがAPFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot、翼安定式装弾筒付徹甲弾)として開発されました。APDSの装弾筒に空転するベアリングを付け、ライフリングによる高速回転を弾芯に伝えにくくし、矢羽根のような翼で弾道を安定させる、細長い矢のような弾頭です。

ここに来て、従来のライフリングで弾体を回転、安定させるという大前提が、対戦車徹甲弾については必要無くなり、また対戦車榴弾の発展形であるHEAT(成型炸薬弾、モンロー、ノイマン効果により金属の内張でコーン状に成型された炸薬は、その漏斗の開口部に向かって非常に指向性の高い爆発噴流を発生、装甲を溶かす。バズーカ、パンツァーファウスト、RPG-7等の対戦車火器の弾頭はすべてこれ)弾も、回転しない方がよい(遠心力で爆発が散開する)ので、HEAT-FSとなり、滑腔砲、スムースボアが復活しました。諸国の第三世代以降のMBTでは軒並み滑腔砲が採用され、MBTの主砲に限ってはライフリングのある砲は希少種となってしまいました。滑腔砲にも使用弾頭が全て複雑高価な翼安定式弾頭に限られるという欠点がありますし、先駆者のソ連の滑腔砲では、初期に装弾筒に斜めの穴を幾つか設けて、発射時の一部のガスを弾頭に緩い回転を与える為に使っていたことは、初期のAPFSDSの若干の不安定さを窺わせます。
上図のように、非常に長い砲弾なので、装填の負担は大きく、狭い砲塔内で効率的に装填を行うため、APFSDS弾を使用する戦車では自動、半自動の装填機構が必須のようになっています。
防御側の装甲も、複合装甲や爆発反応装甲などにより、従来型の対戦車榴弾の優位性が揺らぐ中、APFSDS弾は非常に有効な対戦車砲弾としての位置を堅持しています。

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