前回少し書きましたが、30年前からほぼ変わらぬ仕様のままの大きな双眼鏡です。
船舶用としてデファクトスタンダードな7x50の完全防水の双眼鏡ですが、その明るさ、瞳径の大きさから、薄暮や星空観望にも適しています。
外洋船では、ワッチ、観測に、漁船ではナブラなどを追う為に、水平線までを観望する目的で船に積まれている双眼鏡ですから、過酷な環境でその性能を発揮する、堅牢至極な製品です。ラバー張りの外装は充分にホールドしやすく、ゴツイ手のヒトなら、握力で片手持ちも可能です。
プリズムハウスの下側は、ゴムのリブが短く、平らになっていて、ちょうど親指の腹がそこに当たります。よく練られていることを感じさせます。
対物キャップもラバー製で、その弾力を利用して折り返すようになっており、ブラブラすることはありません。ゴムの耐久性が気に掛かる処ですが、強い日差しや塩分、飛沫に耐えるゴムです。もともと日本製のゴムに対しては絶大の信頼感があって、長い間独逸製の車を乗り継いできましたが、ゴム(エンジンマウントのダンパーやマフラーの吊りゴム)だけは、日本製のリペアパーツのほうがずっと優れていたのは、身を持って知っています。
対物レンズの外側と、接眼の目側は、耐久性の高いマゼンタコート(モノコート)のままです。昔は、プリズムもマルチコートではなかったそうですが、いまはマルチコートされています。光学用機器のレンズコーティングとしては充分に耐久性の高いマルチコートが常道なのですが、船の道具として手荒い扱いにも耐えるマゼンタコートを残していたのだそうです。
アイレリーフは16mmだそうですが、折り返しゴムの短さと同様、もう少し短いというか近い印象です。裸眼での使用がベストでしょう。
合焦範囲は無限遠に合わせて、3~40mくらいからピントが合うようです。視野内の平坦性、歪曲の無さについては、より倍率の低い3機種を大きく上回っており、ビル群を視界に入れて左右に大きく振っても、さほど違和感はありません。ただ、カラーコントラストは低倍の機種より劣り、視界内に同時に原色が複数入るような観望では、ヌケが悪いような感じになります。おそらくは耐久性重視のマゼンタコートの影響かなと想像します。コントラストに影響されない観望対象では解像感は充分で、余裕のある光学経路のおかげか、周辺減光も極少です。ケルナー式の接眼ということなのですが、周辺像の減退は穏やかで、敢えて隅っこを見つめようとしない限り、大して気になりません。見掛け視界(新JIS/ISO)を倍率×実視界でWP6x30SB-Dと計算比較すると48.1°で差異がないのですが倍率と1000m視野で計算すると6x30の47.9°に対し7x50は48.3°となり、実際の見え具合でも優にその差以上に7x50のほうが広く見えます。
星見に使うと、7x50らしい明るい見え方です。まだ充分に暗順応してない状態でも、同じ50mm口径のSS10x50SK-Dに比べ、星々の色がよく分かる明るい点像です。近隣での観望でしたので、さほど暗い空ではなく、暗順応が進むにつれ、より灰色に見えてきたのですが、ヒアデス星団とその周辺の星々が、丁度一望でき、きらめく鋭い点像が美しく見えました。なにより、重さを充分に支えることが出来れば、神経を使ってブレを抑えなくても視界が揺れることなく観望出来るのは、SS10x50SK-Dには無い強みです。ちょうど目当てゴムに眼窩を軽く押しつけて支えられるので、天頂付近の観望も、重さほどの負担を感じません。丁度満月だった月の方向は、けっこうゴーストが出ますが、もともと月は仇敵なので仕方ありません。視線を地表に下げると、街灯の影になった橋桁の下など、肉眼よりずっと明るく見え、7x50の真骨頂です。
今回、WP7×50RB-Dを入手できたのは、当方の無理難題に応えて頂いた勝間光学機械さんのご厚意によるものです。あまたの7x50双眼鏡の中から勝間光学機械の製品を選んだのは、価格も手ごろであった為なのは間違いないのですが、同時に、アフター含めて、信頼できるメーカーであり、実際に拝見したことはないとはいえ、作り手、売り手のお顔がうかがえるような、ものづくりの姿勢に感嘆しているからです。
現行のSS7×50シリーズの方が、軽く、フルマルチコートで、上質な接眼レンズも含めてWP7×50RB-Dより、総合的に良い製品だと思います。その上で、WP7×50RB-Dの方を選んだのは、勝間さんの歴史上の逸品であり、おそらくはあまたのユーザーの信頼を受け続けてきたその重み、また現状でも充分高性能な変わらぬ価値を知りたかったからでした。