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ドリーシュのエンテレヒー Hans Driesch's entelechy 走書き

2012年08月30日 13時56分09秒 | 生物哲学
2012年8月30日-3
ドリーシュのエンテレヒー Hans Driesch's entelechy 走書き

 ハンス ドリーシュのエンテレヒーは、

  「心の概念と同様に、それは物質的な物体にたいしてなんらかのはたらきかけをする非物質的ななにものかである。ドリーシュはそれをなんがあるかをいうのに、ほとんど、それが何でないかということでいいあらわそうとしている。〔略〕「それ自身が現実性からはばんでいたもの、つまりそれがこれまで押さえていたものを、解放して、現実化できるものである。〔23=『Science and Philosophy of Organism 有機体〔生物体〕の科学と哲学』、vol.2, p.180〕」
 〔略〕
 「二つの系が物理学的-数学的にあらゆる点で絶対的に同一であっても、それら二つの系が生きた系であるならば、それらは絶対的に同一の条件のもとでちがった行動をとることができます。なぜなら、生体〔organism、だろう〕の特質ぜんたいのなかにはあるきまったエンテレヒーの特殊性というものが含まれており、そしてこのエンテレヒーにかんしては、物理化学的にものや関係についての知識はまったく何も教えないからです。」〔略〕
 ドリーシュは自分のたてたエンテレヒーの概念が、物理学者たちの公理的概念と??質料、エネルギー、力など??が有意味のものになったと同様に、知用されて有意味のものになることを願った〔略〕」
   (スミス『生命観の歴史 下 現代への展開』: 467頁)。

 質料やエネルギーが有意味のものになったとは、どういう事態を言うのか? 或る理論体系内での科学的営為として、なんらかの有用な概念として交信できるということか? 質料にしろ、エネルギーにしろ、それらは門外者にわかる言葉で定義されているか? →概念操作による実在性。
 エンテレヒーは、静的なパターン(種パラメータ)[ただし動的に、つまりエネルギー(または方向性を持つエネルギー、つまり力)が使われて、維持されているのかもしれない]なのか、あるいは作用する力(構築力)なのか?
 システム的には、システムが作動して、その種の持つ、たとえば(おそらく常に起動待機状態にあって、個々の生物体に働きかける)(幾多のしかし上位観点からは統一されている)発生メカニズムが起動して、したがって(制御水準というメタ的)力(諸エネルギーの活動)が働いて、パターン(種パラメータ)を参照し、具体的な構造物体(たとえば蛋白分子)を合成する。
 蛋白分子から細胞は、いかにして? 細胞は細胞から、である。
 問題は、三次元的分子形態を指示していても、細胞かに構成される器官や組織は、どのように作られるのか、である。
 たとえば、損傷した皮膚の再生、水晶体の再生、たとえば爬虫類での四肢の再生。どのような信号とその信号が関わるメカニズムが推定されるのか。

 生物体の発生において、種システムは一定の環境的諸条件を前提としている。整わなければ、また欠如実験下で、発生途中で死亡したり、『不具合』な生物体が産出されるかもしれない。それはしかし、いわば事故である。生物体発生は、質料(物質的材料)も揃わなければならない。母体の栄養不足の場合には、小さな生物体とかが生まれるかもしれないが、それはその種に属するとわれわれは(おおよその場合、訓練を積めば(パターン認識))同定できる。
 種システムは、頑健なのである[このメカニズム的意味は後述]。たとえば体長を比率尺度で測れば、正規分布的になる。この平均値は、種システムの作動結果の(統計的)要約値である。システム的には、観測される個体変異の分布から(近似的には頻度分布など)、理想的分布を推定する。

 「ドリーシュは核を分割したことがなかったが、もしそれをやってみたらエンテレヒーも二分されることを発見したにちがいないと、かれ〔テオドール・ボベリ〕はいう。」(スミス『生命観の歴史 下 現代への展開』: 468頁)。

 可能だとして、どう分割するかによって異なるかもしれない。問題は発生制御のメカニズムまたは(そのメカニズムを持つ)システムの推定である。理論構築!。細胞分裂時のどの段階で分割するか? 『物理的』に物体を分割するには、たとえばDNA分子のどこかでの結合力を無化すること(切断)になろう。
 どういう考え方(の筋道)で、エンテレヒーも二分されると言ったのか?
 
       
 可能態    →  実現態
 或るイデア  →(或る構造の)物体
 或る概念   →或る物体
 或る(類の)船  →或る(具体的な)船[特定のテセウス号]
 形相的同一性 → 質料構造的同一性  × 質料個体的同一性
 構造(関係体)→機能的過程の作動

 システムは生物体に具備されている参照項(ゲノム〔『遺伝子』総体〕物体など)にもとづいて、メカニズムを起動(作動開始などの時間的制御、というより、時間的ではなく環境『条件』的制御。
 『条件』としたのは、生物種によってどのような種類の環境入力に応答するかは異なるからである。なお、認識的には、Haefner 1970のエビに関する実験から、隠れた環境条件が存在する可能性がある。これは、実践的または経験的に解明するほかない。


[D]
Driesch, H. 1907 (1979). Science and Philosophy of the Organism Volume I. viii+329pp. AMS Press. [B991007, $103.95/2+30.80/5]

Driesch, H. 1908 (1979). Science and Philosophy of the Organism Volume II. xvi+381pp. AMS Press. [B991007, $103.95/2+30.80/5]

Driesch, H. 1922. Geschichte des Vitalismus. x+213pp. Johann Ambrosius Barth. [PT19860506]

ドリーシュ,ハンス.1914.(米本昌平訳,2007.1)生気論の歴史と理論.xviii+363pp.書籍工房早山.[ISBN:4-88611-504-7; y2,940][The History and Theory of Vitalisms]
[ 伊勢田哲治氏による言及がある。
 米本昌平先生および書籍工房早山さんへの手紙
http://tiseda.sakura.ne.jp/works/yonemoto.html


ドリーシュ,H.1928.(長島 壤,1931)人間と世界像.270+5pp.畝傍書房.[Der Mensch und die Welt.] [1円50銭, B910731]
 
[S]
スミス,C.U.M. 1976.(八杉龍一訳,1981)生命観の歴史 上:古代からデカルトへ.xx+306pp.岩波書店.[2300円][B19820812]

スミス,C.U.M. 1976.(八杉龍一訳,1981)生命観の歴史 下:現代への展開.x+307-532+9 pp.岩波書店.[2300円][B19820812]