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W. M. Wheeler 1928『創発的進化と社会の発達』[試訳]1

2011年09月21日 01時10分20秒 | 生物哲学
2011年9月21日-1
W. M. Wheeler 1928『創発的進化と社会の発達』試訳1

 
 Emergent Evolution and the Development of Societies
  by
 William Morton Wheeler
 W. W. Norton & Company, Inc.

 『創発的進化と社会の発達』


   第一部 [p.11]
 創発的進化と社会の発達

 「創発する emerge」、「創発的 emergent」、そして「創発 emergence」は、今では頻繁に用いられ、時々あまりに漠然と用いられるので、著者としては伝えたいと望む精確な意味を定義する必要がある。「創発すること to emerge」とは、もちろん、湖から出たカイツブリかアビのように、何かが浸された後で液体から出てくること、あるいは、雲が消散するときの太陽のように、何かが潜伏の後に視野に入ってくることを意味すると言える。この動詞はまた、ときたま、探究の結果として明らかになった事実について、あるいは突然に現われる疑問や困難について、使われる。もっと専門的な意味で昆虫学者によって使われるのは、蝶が(ドイツ語の「entpuppen〔正体を現す〕」という意味で)その準備期〔chrysalis 蛹〕から出現すると述べるときである。それは、「孵化する hatch」という言葉を避けるためであって、昆虫学者は孵化という言葉を、青虫が卵から出ることに限定するのである。困難という場合を除けば、これらの事例のすべてにおいて、出現しつつある何か something emergingは、前もって存在し、単に見えるようになるか顕在することだと想定される。「創発する emerge」または「生じる arise」と言われる困難は、自然と、「緊急事態〔突発事件〕 emergency」についての考察へと導く。緊急事態は、前からの存在を暗示〔connote〕しないが、出来事の危機的 criticalまたは偶発的 contingent 布置の突然で予期しない結末を、あるいは即刻に介入が求められる偶発事を、暗示する。そこで、「創発 emmergence」と「緊急事態」という言葉によって伝えられる二つの意味は、したがってそれぞれ前成的なことと後成的ことだとみなされるかもしれない。それらは前世紀の著者の幾人かによっては明瞭には区別されないし、時々互換的に使われる。このことは、形容詞の「創発的 emergent」とその名詞派生物についても本当である。「創発 emmergence」または「緊急事態 emergency」には、三番目の意味がある。それは、奇跡的という形容語句にふさわしいほどに、後成的である。Kallenは、その賞賛すべき著書『なぜ宗教か』において、「(クリスチャン・サイエンスという)宗派の創立者であるMary Morse Baker Glover Patterson Eddyは、彼女が「光になかへの緊急事態〔緊急に光のなかに入ること〕」によって不治の病がいやされたことを記録している」と述べている。Eddy夫人は、不治の病にある形而上学的蛹として前もって存在した後、健康な形而上学的蝶として霊的な光のなかへと突如飛び出したことを意味したのかもしれない。もっとも、彼女は、信仰の奇跡的変化という意味で、「緊急事態」を使うことのほうが、よりありそうなことではある。しかし、このような事例における評釈 exegesisはすべて、あまりにも当然と思われる。宗教的著作において、言葉はつねに、可能な最大数の意味を暗示するような仕方で使われる。そのため、神学者は職に事欠くことはないのであろう。[p.13まで。20110921試訳]

Wheeler, W.M. 1928. Emergent Evolution and the Development of Societies. 80pp. W. W. Norton & Company, Inc., New York.