上の写真=龍基金の最後に過労障害を乗り越えた橋さん一家から中島代表(左から2番目)に花束が贈られました
~「過労死をなくそう!龍基金」第10回中島富雄賞授賞式報告~
今回で「過労死をなくそう!龍基金」と中島富雄賞は終了します。
皆さんの10年間のご支援とご協力に心より感謝を申し上げます!
ワタミ過労死遺族の「ブラック企業と闘う望基金」がスタートします!
これからも引き続き過労死のない社会をめざしてともに闘いましょう!
過労死をなくすために活動している「過労死をなくそう!龍基金」は2016年8月7日、第10回中島富雄賞授賞式を東京・葛飾で開催し、居酒屋チェーンのワタミで長女が過労死した問題で昨年12月に画期的な内容で解決を果たした父の森豪さんと母の森祐子さんを今年の受賞者として表彰しました。今回で龍基金と中島賞は終了する一方、ワタミ過労死遺族の森夫妻が新たに「ブラック企業と闘う望基金」を発足させました。
上の写真=過労死の犠牲者に133人の参加者が黙とうを捧げました
会場には満員の133人が集まりました。冒頭、すかいらーくで過労死した中島富雄さんと前澤隆之さん、ワタミで過労死した森美菜さんへの哀悼を表して全員で黙とうを捧げました。
中島さんの妻で、龍基金代表の中島晴香さんが「夫が亡くなって12年になるが、昨日のことのように感じる。今も横に夫が寝ているような錯覚に陥る。企業のトップは現場で働く人たちのことを奴隷のように使い、殺している。殺された人もつらかったが、残された人も一生悲しみを背負って生きていかなければならない。日本から過労死という言葉がなくなるように祈ります」とあいさつしました。
その後、龍基金の事務局から、当初の継続目標としていた中島富雄さんの13回忌にあたる10年目を今年迎えたことから、龍基金と中島賞を終了することが報告されました。
中島賞選考委員からは玉木一成さん(弁護士/過労死弁護団全国連絡会議事務局長)、平野敏夫さん(医師/東京労働安全衛生センター代表理事)、石川源嗣さん(NPO法人労働相談センター理事長)の3人が発言しました。
授賞式では、ワタミ過労死闘争のDVDが上映され、森夫妻に中島代表から表彰状などが贈られました。
また、森夫妻がワタミからの損害賠償金の一部を使って新たに発足させた「ブラック企業と闘う望基金」について事務局から、労働組合を作ったり入ったりした労働者がブラック企業に対して裁判等で争う場合に弁護士費用などを援助する旨の説明がありました。
受賞した森祐子さんは「娘はワタミに入社して2カ月と12日で亡くなった。勤務時間だけではなく、実際には早朝や日中に研修やボランティアを強制されていた。そのうえ夜中に店舗勤務が終わっても始発まで帰れない社宅だった。いったい、いつ眠って休めるのか」とワタミでの過酷な労働実態について説明。そのうえで「2012年に労災認定されたことでワタミと闘えると希望を持った。しかし、周囲は無理解で、孤立無援の状況だった。そんなときに中島賞を2012年に受賞させてもらった。そこで私が考えていることは間違っていない、ワタミと闘おうという私たちを応援してくれる人がいる、この先も闘っていいんだと確信できた」と、ワタミ過労死闘争に至る思いを語りました。
昨年12月の「和解」については、「和解は本当は嫌だったが、ワタミ側が全面的に責任を認め、損害賠償金だけではなく、当時娘と一緒にいた他の社員にも未払い賃金を支払うという約束で応じた」と述べました。そして「居酒屋で働いているんだから深夜の残業なんて当たり前と言われる中で、他方の渡辺美樹はカリスマ経営者としてもてはやされていた。しかし、この闘いを通して、ワタミの実態を広く知ってもらうという目的はある程度かなえられた。娘は帰ってこないが、娘の名誉は回復できた」と結びました。
森豪さんは「ワタミ闘争は母親の怒りの一念で始まった。東部労組から『話し合いに社長が出ていないのがおかしい、一番事情を知っている人と面と向かって話すべきだ』と言われてその通りと思った。そこから東部労組の支援を受けて闘ってきた。その結果、娘が死に至った労働実態を見極めたいという思いが実現された形の解決になった。支援の皆さんに感謝したい」と話しました。
上の写真=記念パネルディスカッション「ワタミ過労死解決とブラック企業との闘い」
授賞式の第2部として記念パネルディスカッション「ワタミ過労死解決とブラック企業との闘い」が行われました。パネリストは森夫妻に加えて、玉木一成さん(ワタミ過労死裁判弁護団長)、中澤誠さん(『検証ワタミ過労自殺』著者、東京新聞記者)、寺西笑子さん(全国過労死を考える家族の会代表)。司会進行を須田光照さん(全国一般東京東部労組書記長)が務めました。
ワタミとの闘争中、経営者の渡辺美樹が自民党公認候補として参院選に立候補することに抗議するため、2013年6月に自民党本部前で抗議行動を行ったことについて、森豪さんは「素っ気なくあしらうような自民党側の態度に、自分の娘は何のために死んだのか、過労死を出した経営者を国会議員に認めて、根本がおかしいのではないかという憤りでいっぱいだった」と振り返った。
ワタミ過労死裁判の解決について、玉木弁護士は「事実関係として過労死はワタミの業務に原因があると法的責任を認めさせたことが大きい。会社だけではなく渡辺美樹ら役員個人に責任を認めさせた。通常の慰謝料よりも一歩踏み出た『懲罰的慰謝料』を取れたことも成果。さらに具体的な再発防止策として、労基署の是正勧告を全従業員に周知させることや募集の際に基本給と固定の深夜労働手当を分けて説明することなど、判決以上の成果を勝ち取った。これからの労働者や被害者に役立たせていく」と話しました。
ワタミとの解決後に渡辺美樹が森美菜さんの墓参りをしたいと希望したことを拒否したことについて、森祐子さんは「今もその姿勢は変わっていない。今年の娘の命日に渡辺美樹から手紙が来たが、読んでもいない。会社からは花が届いたが、送り返した。それ以降は何も言ってきていない。何を考えているのか」と述べ、いまもワタミとその経営者への怒りを示した。
ワタミ問題を踏まえて過労死のない社会をつくるためとして、中澤さんは「ワタミを取材していたころから法的な規制が必要だと痛感してきた。制度として労働時間の上限規制を行うべきだ。安倍政権は景気回復のためには企業にやさしくと言っているが、足元で一人一人の労働者が疲弊していてはどうにもならない。もう一点は労働組合が大きなキーポイント。中島富雄さんのすかいらーくでも労働組合があった。それでも外部の東部労組に頼るしかなかった。すさんだ労働環境に労働組合が手をさしのべないといけない」と話しました。
夫を過労死で20年前に亡くした寺西さんは「二度と遺族を作ってはならないという思いから過労死をなくす運動に進んでいった。どうすれば夫は死なずにすんだのか。そういう思いで過労死を出した企業名の公表を求める訴訟を行った。また、過労死防止法成立後は過労死防止全国センターとして活動し、とくに大阪では大阪労働局に加えて、過労死問題を広めるためには労働三団体の参加が大事だと思い、連合・全労連・全労協に登壇してもらっている。どこの職場でも過労死は起きるわけではないが、他人事ではない。経済成長のために命の使い捨てがあってはならない。ブラック企業で働いている人には勇気をもって相談してほしい」と話しました。
パネルディスカッション後、グリーンディスプレイ過労死の遺族と支援するNPO法人POSSE、さいたま新都心郵便局過労自死の遺族と支援する郵政ユニオン、固定残業代を悪用した長時間労働とサービス残業に反対して裁判で闘っている全国一般東京東部労組多摩ミルク支部からそれぞれ支援要請がありました。
その後、アジア商事という石油会社で夫が過労障害で倒れた際に、龍基金とともに会社と闘い、解決を果たした橋美智代さんが一家そろって登壇し、「夫は過重労働でくも膜下出血で倒れて、奇跡的に一命はとりとめたが、重い障害が残った。夫が倒れた際、龍基金の新聞記事の切り抜きを持って、7カ月の長男を抱えて東部労組を訪ねた。1年半かかったが、納得いく解決を得ることができた。長時間労働や労働者へのいじめなどをなくしていかなければならない」と発言しました。
最後にあらためて中島晴香代表が「夫は倒れる前日、『会社を正すのが僕の使命だ』と言っていた。私も命あるかぎり、夫のように精一杯生きていきたい。これまで龍基金へのご支援、本当にありがとうございました」とあいさつ。橋さん一家から中島代表に花束が贈られました。
8/7「過労死をなくそう!龍基金」第10回中島富雄賞 授賞式
「ワタミ過労死解決とブラック企業との闘い」パネルディスカッション(龍基金授賞式)
■授賞式を報道したTBSニュース http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2839753.html
■「ブラック企業と闘う望基金」に関する問い合わせ先
全国一般東京東部労働組合(担当:須田光照)
電話:03-3604-5983 FAX:03-3690-1154 メール:info@toburoso.org