夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

バーニー・サンダースの新刊「資本主義に怒ってもいい」

2023-03-08 10:03:20 | 社会


 2月21日、バーニー・サンダースの新刊<It’s OK to be Angry About Capitalism >「資本主義に怒ってもいい」が、アメリカで出版された。日本語版はまだないので、読みたい人は、アマゾンで英語の電子版を購入するしかない。

 何が書いてあるのかは、サンダースが自らを民主社会主義者と公言してはばからないので、アメリカの民主社会主義者に聞くのが手っ取り早い。そこで、アメリカの民主社会主義誌"Jacobin"の、この著作に関する解説を要約する。
 因みに、ここで言う「民主社会主義democratic sosialism」とは、実際には資本主義の改良に過ぎない社会民主主義ではなく、あくまで社会主義を目指すが、その社会主義は、ソ連や中国といった「現実にあった社会主義」とはまったく異なる、民主主義を基本に置く社会主義という意味である。その意味では、マルクス主義に極めて近い、または、マルクス主義の一つの解釈とも言える。
 Jacobinはその”about us”によれば、「政治、経済、文化に関する社会主義者の視点での、アメリカの左派の主要な声であり、紙版は四半期ごとに発行され、購読者数は 75,000 人、Web の読者数は月間 3,000,000 人を超える」メディアである。一つの党派や運動組織の機関誌ではなく、社会主義者、左派の意見交換や社会へのアピールを目的としており、掲載される記事は、すべて記名入りであり、そこから議論されることを前提にしている。

 
 記事は「バーニー・サンダースの新刊からの8つの学び」と題され、重要なポイントを8つ取り上げている。意訳すると以下のようになる。

1. 資本主義経済システムが問題
 「ここ数年で米国に定着した超資本主義経済システムは、制御不能な貪欲と人間の品位に対する軽蔑によって推進されており、単に不当ではありません。それはひどく不道徳です。 」
 (超資本主義uber-capitalisimeとは、 サンダースは、飽くなき利潤追求による人間にとって著しい弊害をもたらすものになった資本主義というような意味で使用しており、資本主義を超えたシステムsupercapitalismとは異なる。)
2. 世界を変える要求をもっとしていい
「私は人々に、手に入れたものに満足するように、あるいは決して得られないものがあることを容認するようにとは言いません。私は人々にもっと要求するように言います。 」
3. 不平等の問題は体系的である
「アメリカの寡頭制との戦いは、(そしてそれを助長する金権政治への対応は)、人格とは関係ありません。不平等は個人の問題ではありません。これは社会システムの危機です。 」
4.すべての人にメディケアを提供することは、私たちの時代の中心的な要求です
「多くの場合、アメリカ人は、すべての場合において普遍的なメディケアプログラムに基づいた堅牢なメディケア制度を備えた国で人々が享受する安全性と、その制度への帰属意識を欠いています. 私たちの多くが絶望の病に屈するのも不思議ではありません。 」
5. 労働者の味方か、上司の味方か
「あなたはどちら側ですか?最近では、スターバックスやアマゾンなどの企業は、銃を持った凶悪犯を雇っていません。代わりに、反組合のコンサルタントや世論調査員、政治的につながりのあるロビイスト (その多くは民主党員) を雇って、組合の組織化を妨害しています。しかし、基本的な前提は変わりません。あなたは労働者と組織労働者の側にいるか、そうでないかのどちらかです。 」
6. 新しいテクノロジーは、所有権と支配権の古い問題を解決しない
「仕組みは変わったかもしれませんが、経済エリートと労働者階級の間の不均衡は変わっていません。 」
7. 民主主義社会はすべての人に平等な教育を要求する
「歴史的に、進歩主義者は教育論争の最前線に立ち、無料の公教育を確立し、すべての生徒に学校を開放し、都市部と農村部に優れた学校を建設し、それらに十分な資金を提供するために戦いました 。」
8. 来るべき闘争に妥協点はありません
「超資本主義の飽くなき貪欲と、労働者階級の公正な取引との間には、妥協点はありません。私たちが地球を救うかどうかについて、妥協点はありません。私たちが民主主義を維持し、すべての人を平等に保護する社会を維持するかどうかについて、妥協点はありません。」

 このサンダースの新刊の内容は、今までのサンダースの主張と変わるものではない。そのことは、サンダースが問題にしてきたものが、今までの彼の闘いの努力にもかかわらず、まったくと言っていいほど、解決していないことを意味している。
 サンダースは、特にアメリカのメディケア、教育、労働組合運動を問題にしているが、それは他の先進国と比べ、その問題については、アメリカが著しく劣っている現実が、一向に改善しないからである。公的な医療保険がないため、医療保険に入れない国民が1000万に以上存在し、経済的理由からまともな医療を受けられない。また、教育の公的支出、労働者に不利益な労働組合の法整備は、OECDの中でも最低と言っていい。
 それらの理由が、サンダースは、実は資本主義そのものにある、と言っているのである。だから、「資本主義に怒っていい」とサンダースは言うのだ。
 
 寡頭制はロシアだけでない。アメリカも寡頭政治家が動かしている
 サンダースは、この著作へのインタビューで「私が言いたかったことの 1 つは、もちろん、オリガルヒがロシアを運営しているということです。しかし、それだけだと思いますか? 寡頭政治家は米国も運営しています。それは米国だけではなく、ロシアだけでもありません。ヨーロッパ、英国、世界中で、少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めているのを見ています。世界的に寡頭制になっています。 」と言っている。(英紙ガーディアン)。
 サンダースのこの指摘は、完全に的を射ている。バイデンは、対ロシア・中国を「民主主義対専制主義」の戦いだと言う。しかし、バイデンの言う「民主主義」の先頭に立つアメリカは、労働者を中心とする庶民階層にとっては、先進国の中では最低の医療制度、教育制度、労働法しか有しない。「民主主義」と言いながらも、現実の社会は「少数の信じられないほど裕福な人々が自分たちに有利に物事を進めている」のが実態なのである。
 それは、バイデンの言う「民主主義」が、「人民による統治」という本来の意味とは別であり、単に敵と見なす国を攻撃するための口先だけの道具に過ぎないからである。
 その原因は恐らく、第一に代議制の選挙が、どこの「民主主義国」でも60%程度の投票率の中の、40%程度の得票率で与党が形成され、有権者に対する絶対得票率は24%程度に過ぎないという理由によるだろう。24%しか代表しない勢力が、裕福な少数者に有利な政策を実行しているという現実があり、悲観した貧しい庶民階層はますます選挙から遠ざかる傾向があるからである。
 また、「言論の自由」といっても、カネと権力のある側が、主要メディアから自分たちに都合のいい情報を大量に流し、それに抵抗する側の情報はかき消されてしまうという実態があるからである。
 第二次大戦後、世界的には民主主義の一定の前進があったが、21世紀は新自由主義の蔓延とともに、民主主義も形骸化しているのである。
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