自分の運命を変えることになる少年と、ミエは今相対していた。
飼い犬のムンクが、突然彼の前で吠えたからだ。
まるで時が止まったかのように、二人はその場から動けない。
はっ
一瞬の後、少年は我に返って立ち上がった。
突然動いた彼を見て、ミエはビクッと身を揺らす。
ゴシゴシと目元を擦った後、少年は再び動きを止めた。
暗闇の向こうに立つ人物を、そのままじっと見つめている。
「あ・・・」
そう小さく呟くミエのことを、少年はじっと見据えて動かない。
「・・・・」
ミエはそんな少年に向かって、何か言わなきゃと口を開いた。
「あ・・・あの・・」
「? 誰・・」
「その・・・」
その時だった。
ワンッ! 「あっ!?ムンク!!また?!」
目にも止まらぬ早さで、ムンクは少年の元へと走って行く。
「ぎゃっ!ムンクアンタ何してんのっ!やめなさい!」
「こっちおいで!」
「やめなっ!」
ミエは大声で叫びながら、ムンクをパッと抱き上げた。
「ごめんねっ!びっくりしたでしょ?!」
突然、二人の間合いがゼロに近くなった。
少年はただ目を見開いて少女を見る。
ミエはポカンと口を開けたまま、至近距離で少年のことをじっと見ていた。
そしてふと、口を開く。
「あ・・」
[ミエはとりあえず挨拶しなきゃと思った] らしい。
そのままたどたどしい様子で会話を続けるミエ。
そう会話を続ける最中にも、(本当に中学生?怖いくらいデカい 首痛っ)とミエの心の声は止まらない。
するとふと、ミエはあることに気がついた。
「あれ?」
「なんか目が・・・」
少年は思わずバッと顔を隠した。
「あっ」
突然くるっと向きを変えた、少年の靴が脱げる。
「あっ?!」
「大丈夫?!」
[靴のかかとを踏んづけて履くのはやめましょう]
少年に贈る言葉である。
ミエはあたふたしながら少年に駆け寄った。
「けっけがしてない?!」
「どうしよう!!ごめん!」
倒れたまま動かない少年を見て、ミエは慌てた。
転がっていたスニーカーを差し出す。
「これ、靴!」
バッ!
スニーカーをぶん取った少年は、ゆらり・・と立ち上がったかと思うと、
そのまま一目散にその場を後にした。
「およ?」
少年の心はもう、これしかないだろう。
<一人になりたくて>
「およよ?!」
少年は靴も履かず、そのままヨロヨロと路地裏に消える。
「家そっちじゃないっしょ!?」
ミエは少年がなぜそんな態度を取るのか分からなかった。
もう姿は見えないが、大きな声でもう一度謝る。
「ねぇ!ごめんね!びっくりさせて!」
「この子いつもはこんなんじゃないんだけど・・!」
少年の気配は、もう消えてしまっている。
ムンクの、いや自分のせいでこうなってしまったことに、ミエは後味の悪さを感じていた。
ギロッ
ミエは懐に入ったムンクにお灸を据える。
輝く満月の下で、ミエはしばらくムンクにお説教を続けたのだった・・。
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第三話①でした。
ついに二人が顔を合わせた回でしたね!
しかしスンキさんは本当に絵が上手いなぁ〜〜と改めて思います。
シンプルな線なのに、動きや表情の移り変わりまで伝わってくるというか。
チートラよりもおぼこい感じというか、そういう年齢の描き分けも上手だし、本当すごいと思いました。
そしてムンク・・可愛い・・
第三話②に続きます