透明タペストリー

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「城の科学」

2017-11-19 | A 読書日記


『城の科学 個性豊かな天守の「超」技術』萩原さちこ/講談社ブルーバックス

■ この本の著者・萩原さちこさんは**小学生のときに松本城を訪れて天守内部の軍事的な工夫に魅了されたのが、城に目覚めたきっかけでした。**(3頁)と書いている。書店でこの本を手にし、この件を読んで早速買い求めて読んだ。

縄張り、石垣、堀など、城には魅力的な要素がいくつかあるが、なんといってもその中心は圧倒的な存在感で一番目立つ天守。この本は天守に絞って国宝5城(*1)を中心に城の歴史、城の構成、築城技術、城の意匠という観点からその魅力を解説している。

以下に章立てを記す。

はじめに
第1章 城と天守の歴史
第2章 天守のつくり方 木造建築としての特徴
第3章 天守の発展 形式と構造の変化
第4章 天守の美と工夫

以上が一般論

第3章には天守が「望楼型」と「層塔型」というふたつの形式に分けられること、またその構成は独立式、連結式、複合式、連立式に分けられることが紹介されている。やはり取り上げる対象が何であれ、タイポロジーが研究の出発点であることを再認識した。

「望楼型」と「層塔型」の構造上の特徴とその違いの説明には なるほど!だった。


第5章 姫路城の漆喰 よみがえった純白の輝き
第6章 松本城天守の漆の秘密 日本で唯一の漆黒の天守
第7章 丸岡城の最新調査・研究事例 科学的調査で国宝をめざす
第8章 松江城の新知見 明らかになった独自のメカニズム
第9章 松本城・犬山城・彦根城天守の謎 天守に隠された変遷

以上が各論 

第9章で**松本城天守群は2時期にわたる増設で完成していますが、実は大天守そのものも別の時期に増築されて完成した可能性を秘めています。**(246頁)と萩原さんは書き、続けてこのように推論される根拠として、**下層階と上層階で部材の新旧や表面の仕上げ、番付、室内の雰囲気に違いがあります。**とした上で、そのことを具体的に説明しているが、更に**松本城大天守の増築説に明確な証拠はなく、現在のところは推論の域を出ません。(247頁)**としている。

このように注意深く書かれた説明文を読むと、この本が根拠も示さない眉唾本とは明らかに違うことが分かる。巻末に修理工事報告書などの参考文献が載っているが、よく調べたものだと思う。


*1 姫路城 松本城 彦根城 松江城 犬山城