透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「快適都市空間をつくる」

2007-01-03 | A 読書日記

 
善光寺の参道で見かけた松飾(070102)

■「繰り返しの美学」という概念は対象を建築から街並み・都市へと広げても適用できる、と考えている。昨日、フィレンツェからの中継番組を見ていて「美の都」は同じデザインコードが使われた建築の繰り返しによって成立しているのだと改めて感じた。ゆるやかな統一、秩序によって創り出される都市の美。

『快適都市空間をつくる』青木仁/中公新書  

最近このての本を手にするようになった。「快適都市空間」は安全性、利便性などが求められる総合的な概念だが、「美しさ」も欠くことが出来ない要素だ。

著者は、**(前略)欧・米・日という類似の先進諸国の間に、なぜこれほどの生活環境の差、都市空間の質の差が存在するのだろうか?**という問いの答えをいくつか示している。

○地震や台風といった天災が起こりやすい上に、建物の構造が木造であるという性格から火災に弱く、耐久性に乏しい。(中略)都市・建築ストックの蓄積が難しかったこと。
○東(南)アジアの地域性として、静的な永続的秩序の固定よりは、その時々の活力に応じた更新を可能にする融通無碍さを好む気風が強いこと。
○(前略)そもそも富を積み上げるよりは、富を清算してしまうことに価値観を見いだす風潮があったこと。

私はこの説明だけで「なるほど」と納得してしまったが、著者は更に続けて日本が明治維新以来、国富のほとんどを国家開発のために注ぎ込んできたこと、そこでは生活は二の次、生産優先の論理で全てが計画されたこと、その結果として都市の生活空間が無視されてきたことを挙げている。

この本の前半で著者はいかに日本の生活空間が「ひどい」か繰り返し指摘し、後半では他国の美しい都市の事例もとり上げている。そこにはロンドンの美しい街並みのことも紹介されているが、その部分の小見出しは「環境装置としての樹木の重要性(建物と緑と道の関わり)」となっていて、先日(061230)私が書いた「都市にもっと「緑」を!」と趣旨が一致している。

この著者は最後の章で「快適な生活空間創造のための五つの提案」をして、論考を終えている。

総じて中公新書は中身が濃いと思う、この本も例外ではなかった。 

(注)街並みは町並みとも表記されます。私は道に沿って連なる建築によって構成されている場合を「街並み」、俯瞰することで捉えることができるような建築の平面的な連なりを「町並み」と、両者を区別することにしています。