集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
 旧ブログ同様、昔の話、兵隊の道の話を続行します!

通常営業・「クラッシャー」としてのU系・フルコン論

2017-07-09 18:20:17 | 格闘技のお話
 私が現住している島は、離島には珍しく書店が4軒(ふつうの本屋さんが3軒、古本屋さんが1軒)あり、至極便利なのですが、先日、島の古本屋さんで「キック・ザ・ちゅう」(なかいま強原作、杉崎守画 ジャンプコミックス)8巻セットが1200円で売られているのを発見。即買いしました。

 おそらく、弊ブログをお読みの物知りの皆様でも、「キック・ザ・ちゅう」を知っている人は少ないかな?と思いますので、まずは作品の注釈をお話し致します。
 同作品は「月刊少年ジャンプ(現・ジャンプSQ)」平成3年1月号から5年9月号まで、約2年半に亘り連載されていた格闘技漫画です。
 「キックボクサーを父に持つ少年がタイで修行、帰国し、プロレスラーや実戦空手の大会などで活躍していく」という、少年漫画によくあるストーリーの作品なのですが、今読み返しましても、正確な技の描写やお話の作り込み度合いは少年漫画の範疇を超える素晴らしいものがあり、ぜひ集英社文庫あたりで復刊してほしいと願う名作です。
 この作品に描かれている「格闘技の世界」は上記の時期…当時、世の中で「実戦的!最強!」の名をほしいままにしていたのは、U系のプロレスと極真に代表されるフルコン空手。同作品ではその世相をモロに反映し、おそらく高田延彦をモチーフにしたと思われる「松田章彦」というU系のレスラーと、明らかに極真会館がモデルと思われる「誠鸞会館」という空手団体が登場します。

 この極真会館、昭和の中頃には漫画の影響もあり、「既存のカラテをぶちこわす、すごい存在」としてセンセーショナルに登場、一時は自他ともに認める「地上最強の空手」として威勢を振るっていましたが、現在のフルコンは「空手を利用した、ある競技のいち形態」という地位に落ち着くようになっています。
 フルコンは空手というものの知名度・社会的認知度を飛躍的に高めるという役割を果たした半面、誤解を恐れずに言いますと、伝統ある空手の文化を破壊し、「空手のチャンプルー化」を加速させた「罪人」としての側面もまた見逃すことはできません。
 U系プロレスは「実戦最強」を謳いつつ、数次に及ぶ分裂、糾合の結果、結局ファンの前で見せた「リアルファイト」はプロレスの範疇を出ないものであり、その線引きをあいまいにし続けた結果、ファンはプロレスを離れ、総合格闘技に流出していくきっかけとなりました。
 
 「キック・ザ・ちゅう」で取り上げられた2つの格闘技、U系プロレスとフルコン空手は、「革命者」としての新鋭性と、「伝統を破壊する罪人」の二つを併せ持ち、その始まりから終わりまでを並べてみますと、恐ろしいほど団体としての特色が酷似しています。
 思いつくままに列挙してみたいと思います。

1 異端の「カリスマ」の存在
 U系プロレスは佐山聡、藤原喜明、そして前田日明。フルコンはもちろん、大山倍達。
 「才能があるのに不遇の存在」に、一種の選民思想を持つファンはしびれました。

2 既存の「プロレス」「空手」の否定とガチンコ思想…とその裏側
 U系、フルコンとも、既存のプロレスや空手にケンカを売り、「ガチンコ勝負での勝者こそ尊い」という思想を啓蒙。
 ただ、ガチの格闘経験がないレスラーが異種格闘技戦で本当に勝つのは難しかったと見え、第二期UWFでは、前田日明がクリス・ドールマンやジェラルド・ゴルドー、ドン・中谷・ニールセンにフィックスドマッチ(要するに八百長)を頼み、「U最強」の伝説をマッチポンプ式に作ったということは、「1984年のUWF」(柳澤健著・文芸春秋)で明らかにされています。
 いっぽうの極真は大会を開催、オープンに最強を決めるということをうたい文句にしていましたが、トーナメントに様々な「忖度」があり、強そうな他流派の選手や地方支部の選手は、強い者同士でつぶし合うような予選櫓に入れたり、それでも負けない場合には判定で負けるように仕向けるという事実があったということは、「人間空手」(中村忠著・福昌堂)を筆頭に、複数の極真関係者の著書で明らかになっています。
 最強伝説を作るのは、タダではできないっつうことですね。

3 後進が続かない
 U系とフルコンは、必ず内輪争いが起き、分裂を繰り返します。
 「ガチの勝負を繰り返す」ことは、自分の強さや稼ぎを脅かす後輩の芽を摘むことに直結、「門外不出、オレだけの技術や練習」を抱え込むことと≒となり、本当に強くなる機序を構築することを故意に阻害するようになります。
 これは技術屋によくありがちな「ひとり一派」の風潮を助長することとなり、それはそのまま、後に続く若い世代の闊達な発展を阻害することに直結します。特にプロレスのように、「強い伝説≒稼ぎに直結」という業界ではなおさらです。
 極真はまあ、現状を見れば説明をしなくてもわかると思います。正道会館も最近、同じ轍を踏んでおります。
 U系も結局、船木誠勝など、目端の利く若い衆はパンクラスという新団体を設立、いかがわしい後輩しかついてこず、滅亡の憂き目を見ています。

4 マジの「異種格闘技戦」でつまづく
 U系は、フィックスドマッチではない、ガチのヒクソンとの戦いで一気にその名を落とし、団体消滅に追い込まれました。
 極真はK-1に送り込んだ選手が全て対グローブマッチへの練習を怠ったため、フランシスコ・フィリオ、ニコラス・ペタス、黒澤浩樹といった、極真の大会でその名を謳われた強豪が全て凡戦に終始。「極真最強伝説」凋落の大きな第一歩を踏み出してしまいました。
 関係書籍を読みますと、「あいつがこんなことをした」みたいな話が乱れ飛んでいますが、種々読み込んだ結果、これは他の誰かが悪かったわけではなく、組織維持のための内向きな努力?しかしていなかったヤツが受けるべき当然の報い、としか形容のしようがありません。

5 最後は主導権争いの末、先細り
 U系最後の団体となったUインターは、ヒクソン戦のちょっと前に消滅。新日との共催をしないと興業が成り立たないほど組織が劣化していたUインターは結局、自らが「古き悪しきプロレス」と禁忌していた新日と対戦、団体エースの高田が四の字固めで敗れるに至って、「結局、Uもプロレスだったか」ということが認知され、あれだけプロレスファンが熱狂した「Uのプロレス」は結局、ただの一過性の百姓一揆のような存在として、その幕を閉じました。
 極真はアマチュアの空手団体なので、現在もその命脈を保っていますが、組織はいくつもの団体に子別れ、孫別れして、今や全く訳の分からない状態になっているということは、皆様ご存じのとおりです。

6 その後の新しい格闘技底流の「捨て石」としての存在
 「1984年のUWF」では、現在パラエストラ東京の代表として活躍し、総合格闘技・BJJの大立者として活躍中の中井祐樹先生が、自らU系プロレスに熱中し、また、シューティングの選手として活躍した過去をふまえ、「日本の格闘技はプロレスから生まれた。過去を否定してはいけないと思います」とお話しされています。
 私も中井先生には2度お会いし、その高潔でお茶目な人柄に魅了された一人ですが、であるがゆえに、この発言は非常に重みがあると思います。
 U系プロレスもフルコンも現在、総合格闘技、あるいはキック系競技に前途有為な選手を多数輩出し続けていますが、その選手たちの師匠に当たる世代がまさに、この「U・フルコン狂騒曲」の中で生きていた世代。若い人につまらない苦労をさせたくないという師匠の心遣いがわかります。

 昭和から平成の頭にかけて、ほぼ軌を一にして発展し、そして消滅、あるいは先細りしていったU系プロレスとフルコン空手。
 現在、その「罪」の部分を断罪する書籍が多数出ており、その書籍に書かれてあることは間違いなく事実です。
 しかし「盗人にも三分の理」と言いますように、物事には必ず表裏があり、少なくとも多くの人間が関わることについて、一方だけの視点から論じることは厳に戒めなければなりますまい。
 現にわたくしもフルコンから格闘技をリスタートし、そのおかげでグラップリングやグローブ空手、アマチュアレスリング、総合と様々な格闘技の世界を体験できたのです。その最初のカギは間違いなくフルコンにあり、その恩は一生忘れてはいけないと思っています。

 しかし、U系プロレスと極真…本当に時代のあだ花、でした。



6 コメント

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Unknown (老骨武道オヤジ)
2017-07-11 12:22:36
いつもおんなじ人間が書き込むのもどうかな?と思いますがついつい書いちゃいます。私が30数年前、伝統系大学空手道部に入部し、「寸止めなんぞ、くそくらえ!」で試合で負けそうになったら「このままで終わるな!反則負けなら許す!!」と試合相手より恐ろしい先輩らの声援を受けて本当にぶん殴り、相手からもむきになって殴り返され・・結局双方とも危うく「反則負け=没収試合」寸前で惜敗した頃、「寸止めなんざ実戦じゃねえ!フルコンこそが実戦空手じゃ!」とのたまう極真空手の登場に「俺たちをバカにしてんのか!この野郎!!」とムキになってのめりこんだのが私の伝統空手でした。老骨になった今でも後悔してませんな・・ハイ、言いたいことはそれだけです。
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訂正! (老骨武道オヤジ)
2017-07-11 12:42:19
私の昔話、30数年前ではなく40数年前でした。失敬!・・ちなみにアンデイフグの命日がたまたま私の“知人”の誕生日です。誕生日がくるたびに彼も思い出します・・
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いつもありがとうございます! (周防平民珍山)
2017-07-11 21:24:05
 老骨武道オヤジさま、いつもありがとうございます!
 弊ブログは1日あたり80~100人のお客様がいらしており、普通であれば、意見の異なる方からの罵詈雑言や、きつい意見があるべきなのですが、意外とそうした方は中々いらっしゃいません。私の記載内容が変質的すぎるからとは思うのですが、反省するところでございます。
 そのため、老骨武道オヤジさまの書き込みは大変貴重であり、弊ブログを彩る花となっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 以前もお話しいただきましたが、出始めのフルコンと伝統派との間には、当然と言えば当然ですが、そうした火花バチバチ!みたいな状況があったのでございますね!
 私も5年ばかり、沖縄の古い空手を練習して思ったことは…「フルコンでやっている型っていったい何なの?」でした。
 極真は昇級・昇段審査で古流の型をやっていますが、それが何か役に立っているのかといえばそんなことはなく、「空手と名乗っているからしょうがなくやってます」みたいな色彩が濃い。
 その「フルコンが古流の型をやる意味って何?」と思ったことが、本稿記載のきっかけとなったわけですが、本当に雑文に終始し、お恥ずかしい限りです。

 アンディは、フルコンからグローブに転向できた極めて少ないトップファイタ―であり、その高い精神性、技術、そしてはかなく散った人生。今も思い出すすばらしい強豪であり、私もその死を深く悼むものでございます。
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調子こいてもう一言・ (老骨武道オヤジ)
2017-07-12 22:12:51
私の大学空手道部現役時代が、ちょうど伝統空手系の寸止め試合のボチボチ確率しつつある時代だったかな?「反則負け」はぶん殴って相手が戦闘不能になった状態でやっと適用されました。よって事実上のKO勝ちなんで先輩達に「よくやった!」と負けても褒められるのは当然でした。顔面を何度も殴られれば当然相手にも自分にもダメージが残り、必然的にバカになって大学の単位は取れなくなりますので、何となく二三発殴り合ったら後はボデイの殴り合いになったような・・今の一般的な伝統空手系の選手はその意味ではルールと一流の審判に守られ、殴られ弱い気がするかな・・・でも、ナショナルチームクラスは間違いなく「史上最強!」ですよ!!!
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ありがとうございます! (周防平民珍山)
2017-07-13 21:38:10
 老骨武道オヤジさま、さらなるお話しありがとうございます!
 そういえば、愛媛県にある某国立E大学空手部(←E大空手部といえば、芦原会館)OBの方の回顧録(非売品)で、当時、大学同士の試合は全空連ルールだけであったが、芦原信者のE大学は試合で直接相手を殴ることを選択。「この、殴られて倒れている方が勝者ね」みたいなことを自慢げに嘯く先輩がいた、みたいな著述がございました(昭和50年代半ばころのお話です)。
 今回のお話で、その当時のある意味混沌とした?空手界の貴重な証言を頂けて、大変感謝しております!

 今の伝統派のナショナルチームは、DVDなどでしか見たことがないですが、すさまじいスピードとテクニックですね!特に、松久功選手の速さと正確さは憧れの的でございます。
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またまた調子こいてひと言・ (老骨武道オヤジ)
2017-07-15 00:00:58
某国立E大学空手道部とは一昔前、私の指導する国立N大学空手道部が対戦しております。たまたまN大学最強時代の時だったんでフルコンの看板技「上段回し蹴り」をN大学主将が見事に決め「やったぞ!!」と驚喜した思い出があります。・・その後、N大学の学生は弱体化し見る影もありませんが・・中々強さを継続させることは難しいものですな・・
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