田中雄二の「映画の王様」

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『ウィズ・ザ・ビートルズ』(松村雄策)『女の足指と電話機』(虫明亜呂無)

2016-12-01 12:14:15 | ビートルズ

『ウィズ・ザ・ビートルズ』(松村雄策)



 デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』から、ラストアルバム『レット・イット・ビー』までの14枚の分析、というよりも、それぞれのアルバムにまつわる筆者の私的体験を語ったエッセイ。

 まあいつもの“松村節”ではあるのだが、「やっぱりビートルズを語らせたらこの人だよなあ」と思いながら一気に読んでしまった。

 自分が好きなものに対して、愛を込めて誠実に語るという姿勢には見習うべきところが多いし、何より『ウィズ・ザ・ビートルズ』というタイトルが筆者の思いを表していると感じた。宇野亜喜良のカバーイラストもいい。

 ところで、“~節”というのは、文体や言葉の選択も含めて筆者の個性や文章の味を差すのだろうか。

 そういう意味では、文学、映画、演劇、音楽、恋愛、スポーツなどの幅広いテーマを語った名エッセイ集『女の足指と電話機』の文庫化がなった虫明亜呂無の文章も“虫明節”としか言いようがない魅力がある。



 ここでは、リタ・ヘイワース、マリー・ラフォレ、ドミニク・サンダ、シャーロット・ランプリング、及川道子、ジル・クレイバーグといった、新旧の女優たちへのオマージュが読める。

 中でも、スポーツニッポン紙上に連載された「うえんずでい・らぶ」で書かれたコラムの見事さには今さらながらうならされる。

 短い文章の中に厳選された言葉があふれ、一見、無関係と思える話から本筋へと入っていく呼吸が素晴らしい。あとがきにもあるように、まさに“華麗なる散文 ”といった趣がある。

 これらを集めて一冊の本とした編集者の功績は大きなものがあるが、惜しむらくは、『第三の男』のラストシーンを語った「ウィーンの朝」でのジョセフ・コットンとトレバー・ハワードの誤記をそのままにしたところだ。

 原文に忠実であることは原則だが、誰にでもミスはあるのだから、この場合、編集者や校正者が、亡くなった筆者の名誉のためにも、あえて「注釈」を入れるべきではなかったかという気がした。

コメント
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