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「エチュード春一番 第1曲」荻原規子

2016年01月21日 21時24分50秒 | 読書(小説/日本)


「エチュード春一番 第1曲 小犬のプレリュード」荻原規子

新シリーズ始動!
「RDG」が終わったのは残念だけど、このシリーズも面白い。
大学生・美綾の家に、迷い犬がやって来たことから物語が回り出す。
この犬が「わしは八百万の神だ」、と。
この声は美綾にしか、聞こえない。
過去の自殺と絡めて、ミステリ仕立てで物語が展開していく。
けっこう怖い話だけど、犬と村松愛里で救われる。
以下、ネタバレありなので、未読の方ご注意。

サブタイトルが「小犬のプレリュード」となっていたので、何かの比喩か、と思っていた。
実際、犬(パピヨン)が登場するとは思わなかった。
犬は「RDG」で一条が和犬になったのを思い出すが、美綾との会話は、深行と和宮を彷彿させる。
この犬(モノクロと名付けられる)と美綾のやり取りが、とてもいきいきと描写されていて愉快。
キャラクター設定は、過去の作品と相似形で、ある程度引き継いでいる。

美綾・・・泉水子ほど浮き世離れした内気さではないが、ピュアなところが相似形(だからこそ、八百万の神が顕現した・・・さらにつけ加えると、美綾は生娘、と推察される。巫女の基本だから)
智佳・・・「樹上のゆりかご」の有理を思いだした、さらに性格が悪いか?
モノクロ・・・カラスの和宮ほど、つっこみを入れない。体を張って美綾を助けるシーンは泣かせる

さて、今後の展開が気になる。
モノクロが最後に見せた3D映像を照射するテクニックが斬新。
美綾と一緒に授業を受ける可能性が出てきた。
物語に影響する伏線ととって良いだろう。
ただ、モノクロがどんどん世間に出ていくことを素直に喜んでいいのかどうか?
神さまの重要にして基本のひとつに「祟る」って行為がある。
移動「依り代」となったパピヨンが、世知辛い人間界に出てどうなるだろう?

【追加感想】
本来なら、暗くて後味の悪い作品になったかもしれない。
それを犬のモノクロと村松愛里、そして何よりヒロイン・美綾のキャラクターが救っている。
しかし、人によっては、飄々としてるヒロインのキャラクターに反感を感じるかもしれない。なぜなら、イケメンで他の女性が獲得したいとやっきとなるような男性が自分にアプローチしているのに、超然としている。(あるいは、そのように見えるから)ある種の人には、美綾を許せないでしょう・・・己の価値観を覆す存在だから。

【おまけ】1
いきなり文庫本、ってのは珍しい。
今までの作品は、単行本→文庫本、である。
読者層が広がるかもしれない。
表紙絵が勝田文さんなのも嬉しい。

【おまけ】2
12月に予約しておいた書店から電話が入ったのが1月19日の昼過ぎ。
忙しいので書店まで取りに行くヒマがない。
木曜日なら、そのまま土曜まで取り置きしてもらったかもしれない。
しかし、火曜から土曜まで5日も待てない。
急遽駆けつけて受け取った。

【新境地】
驚いたシーンがある・・・次の箇所。(P220)

駆け寄った美綾を自分に引き寄せ、そのまま抱きしめた。

「濡れ場」を描かないのが荻原規子さんの「作風」。
これは、いったいどうしたことなのだろう。
年齢とともに、人生がこなれてきたのか。
これを新境地と呼ぶのか、円熟味が増したと言うべきか?

【ネット上の紹介】
「あなたの本当の目的というのは、もう一度人間になること?」 大学生になった春、美綾の家に迷い込んできたパピヨンが「わしは八百万の神だ」と名乗る。はじめての一人暮らし、再会した旧友の過去の謎、事故死した同級生の幽霊騒動、ロッカーでの盗難事件。波乱続きの新生活、美綾は「人間の感覚を勉強中」の超現実主義の神様と噛み合わない会話をしながら自立していく──! 

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