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「ソロモンの偽証」宮部みゆき

2013年01月06日 10時34分31秒 | 読書(小説/日本)
「ソロモンの偽証」宮部みゆき

宮部みゆきさん、久々の現代ミステリ、それも大作。

ソロモンの偽証 第1部・・・「事件」、741ページ
ソロモンの偽証 第2部・・・「決意」、715ページ
ソロモンの偽証 第3部・・・「法廷」、722ページ

宮部みゆきさんと言えば、傑作「模倣犯」(2001年)を思い出す。
その後、私は、「誰か」(2003年)、「名もなき毒」(2006年)を読んだ。
(『誰か』より『名もなき毒』の方がずっとおもしろい。「ひがみ」「悪意」の描き方、キャラクター造形が絶妙だから)
そして、今回の「ソロモンの偽証」である。
学校を舞台にした、現代ミステリ。
物語は、1990年12月24日から始まり、1991年8月20日で終わる。
「模倣犯」では、犯人が少年から大人になるまでを描き、犯人側と追い詰める側の両面から描いた。
「ソロモンの偽証」では期間が短い。
けれど、約50人の登場人物・・・中学生を中心に、その両親、教師集団、刑事、マスコミの人間を描き、その組織、商店街、地域、そしてバブルがはじける寸前の「時代」を描いている。見事である。

12月24日、校舎屋上から落ちた少年は自殺なのか、他殺なのか?
第3部・法廷シーンが圧巻だけど、そこに至る過程に1部+2部(約1450ページを費やしている)。
その過程だけでも、充分におもしろく、すばらしい内容だ。
(第2部の後半あたりから、「伏線」が見えて、「タネ」が分かるように読者に親切(すぎる)に書いてくれているのは、意見が分かれるかもしれない)
それでも、充分におもしろいし、キャラクターも魅力的である。
いくつか文章を紹介する。(以下、「ネタバレ」ありなので、未読の方注意)

第1部、P374
 同級生や級友だからといって、一切の隔てがないわけではない。現実は逆だ。成績。容姿。運動能力。適切な場面でみんなにウケることを言えるかどうか。性格の明るさと暗さ。ありとあらゆる物差しで、生徒たちは互いを計り、計られる。そして付き合う相手を決める。先生たちは、人間は平等につくられているというけれど、そんなのは嘘だ。大人の社会に区別や格差があるように、学校のなかにもそれはある。子供は誰でもそれを知っている。理解している。認めている。
 そうでなければ、生きていかれない。

第1部、P385
自己中心的だということは共通しているが、この年頃の子供はみんなそうだ。そうでなかったらかえっておかしいくらいだ。十代前半から半ばまでの年頃は、徹底して自己チュウであって、自己チュウであるこを隠すだけの用心深さと狡さを持ってはいない。だからこそ、手痛い経験を積んで自己チュウの限界を知り、社会と折り合いを付ける方法を学んでゆくことのできる時期なのである。
 ただ問題は、世界の中心にいる自分自身の、そのまた中心にあるものが何か、ということいだろうと、礼子は思う。

第3部、P681
十四歳はそんなもんじゃないのか。みんな自意識過剰で、まわりとゴリゴリぶつかって、不安定な心は優越感とコンプレックスのカクテルで、傷ついたり傷つけたり、何年かそういう時期を過ごして、満身創痍になって抜け出していくんだ。

【キャラクターについて、あれこれ】
いままで他作品で、悪意、毒のあるキャラクターを絶妙に描いてきた著者であるが、本作品にも2人登場する。
垣内美奈絵と三宅樹理である。
ただ、他作品と異なるのは、行く手に一脈の光明を投げかけていること。ほったらかしにしていない。「救い」を与えている。

本作品で一番かわいそうなのは、浅井松子でしょう。気の毒すぎる。

一番ほっとするキャラクターは山崎晋吾。(著者も気に入ってる?)
P207・・・いついかなる時でも、必要とされる時と場所にきちんといる男。この学校裁判の、奇跡の男はこいつだ。

登場人物の中で、幼少なのは藤野涼子の妹・翔子と瞳子。単に可愛いだけの子供じゃなく、小さいなりの「悪意」を描いている。そのあたり、さすが、である。

古野章子、山埜かなめ・・・他の小説だったらヒロインになってもおかしくないキャラクター。でも、本作品では脇役にすぎない。

大出俊次・・・本作品は、単に粗暴なだけでなく、細かい心理と行動まで描いて深みをもたせた。悪役がさえないと、物語に奥行きがでない。彼のおかげで、第3部までもった、とも言える。

事件発生直後の人物相関図

【ネット上の紹介】
クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した14歳。彼の死を悼む声は小さかった。けど、噂は強力で、気がつけばあたしたちみんな、それに加担していた。そして、その悪意ある風評は、目撃者を名乗る、匿名の告発状を産み落とした―。新たな殺人計画。マスコミの過剰な報道。狂おしい嫉妬による異常行動。そして犠牲者が一人、また一人。学校は汚された。ことごとく無力な大人たちにはもう、任せておけない。学校に仕掛けられた史上最強のミステリー。

【参考図書】



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