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「ヒストリア」池上永一

2017年10月31日 20時07分56秒 | 読書(小説/日本)


「ヒストリア」池上永一

久しぶりに、池上永一作品を読んだが、とても良かった。
629ページで読みごたえもあった。
戦争末期の沖縄から物語は始まる。

ヒロイン・知花煉は、米軍の沖縄上陸作戦で家族をすべて失ってしまう。
九死に一生を得て、戦後をたくましく生きる。
しかし、米軍のお尋ね者となり、ボリビアへと逃亡せざるを得なくなる。
全部で13章あるが、第3章からボリビアが舞台となる。
ボリビアでの描写も詳細を究める。
風景、風俗、音楽、食事、特に飛行機のメカ描写に感心した。
背景となる歴史も重要なポイント。
ボリビア革命が起き、キューバ危機も描かれる。
なんと、チェ・ゲバラも登場。
読んで良かった、今年度トップクラスの作品だ。

P119
「その口ぶりじゃあ、まだ本当の恋を知らないだね」
 私はその言葉にカチンときた。恋と酒は本質的に同じものなのだ。一口の泡盛で酩酊する人もいれば一升瓶をラッパ飲みしても素面の人もいる。きっと私は後者なのだろう。

P198-199
 ボリビア革命はアシエンダ農地解放を断行すると同時に、開拓を行った。サンタクルスから百キロメートル先の北東部が開拓地と位置づけられた。それに伴い大量の移民を募るという。
 (中略)
 ボリビア革命から間もない1954年のことである。

P522
「残念ながら革命以外、世界を変える方法はない。人に正論を吐くなら、レンの意見を聞こうじゃないか。どうすれば貧しい国の人たちを救えるんだ?」
 この男はわたしが口籠もるとでも思っているのか。
「私なら――。五十年かけて人材教育をする。まずは経済の仕組みを学ばせるわ。憲法や法律は豊かになった後、社会に合わせて変えていけばいい」
「権利より生活を取るなんて奴隷根性だ」
「生活を捨てて権利を取るのは死人だけよ」

P535
スペイン語の語感では名前の最後の音がAで終わると女性になり、Oで終わると男性名になる。日本では一般的な「幸子」とか「麗子」とか「美智代」は男性だと思われてしまう。だから娘が生まれたら絶対にAで終わる名前をつけたかった。あとAでも「茉莉花」は絶対ダメだ。[marika]はスペイン語でオカマという意味である。「真理子」はもっと悲惨だ。(強調表現の「オカマ野郎」という侮蔑語になるそうだ)

P616
私はAサインバーにふらりと入った。米軍から公衆衛生で優良店とお墨付きを得た[APPROVED(承認済)]店のことだ。看板のどこかに「A」が図案化されていたり、許可証が入口に貼られている。

【おまけ】
編集者は上・下2巻にするか迷ったのではないか。
結局、厚い1冊となった。
文庫本化されるときは、2冊になるかも。
あるいは、「テンペスト」のように4冊になるか?

【おまけ】
読んでいて、なんとなく、古川日出夫さんの「ベルカ、吠えないのか?」を思い出した。


【ネット上の紹介】
第二次世界大戦の米軍の沖縄上陸作戦で家族すべてを失い、魂(マブイ)を落としてしまった知花煉。一時の成功を収めるも米軍のお尋ね者となり、ボリビアへと逃亡するが、そこも楽園ではなかった。移民たちに与えられた土地は未開拓で、伝染病で息絶える者もいた。沖縄からも忘れ去られてしまう中、数々の試練を乗り越え、自分を取り戻そうとする煉。一方、マブイであるもう一人の煉はチェ・ゲバラに出会い恋に落ちてしまう…。果たして煉の魂の行方は?著者が20年の構想を経て描破した最高傑作!