<本宮町・静川地区>
本宮町・静川地区の山深い断崖絶壁の一本道に至り、
「退避スペースのない場所での対向車出現」という、
絶対に避けたかった事態に遭遇した私は、
「やはり無謀な試みだったか…」と、
無計画のチャレンジを激しく後悔したものの、
さすがに相手は熊野で生きる山の民でした。
私があたふたと前後左右を確認している間に、
颯爽とギアをバックに入れ替えるやいなや、
ものすごいスピードで後ろへと引き返し、
気づけば遥か彼方の尾根の向こうへと、
露のごとく消えてしまったのです。
まるで山々を縦横無尽に駆け回る
八咫烏を思わせるようなその雄姿を、
あっけにとられながら見送った私は、
記憶の底に追いやっていた当初の不安を、
このタイミングでようやく思い出したのです。
そして同じ年代であろうその運転手 (しかも女性)
のたくましさに感服するとともに、
どこか遠いところで私の到着を待っているはずの
勇敢な女子に心からの謝意を述べるべく、
ホッとひと息ついて車を前進させたのでした。