ぱんくず日記

日々の記録と自己分析。

ルルドのアメ

2007-02-03 14:00:10 | 
東京に帰省中のマイミク、
大福さんが
わざわざカトリック高円寺教会の売店まで行って
買って送って下さった、
ルルドのアメ。
ルルドの水を練り込んだアメだそうだ。
このアメ、
井上の大好物。
素朴な甘味にうっすらミントの味がする。


十数年も前に、
勤務先に入院していたカトリック信者の方から
イースターに頂いた。
それがこのアメとの最初の出会いだった。


その方は目が不自由で
視力を殆ど失いかけていた。
いつもラジオで早朝の福音放送を聴く事が
楽しみだと言っていた。
ベッドサイドに女の顔と子供の顔の
木彫りのレリーフを置いていた。
私は当時
まだ脳外科に就職して間もない看護助手で、
ベッドの周りを雑巾で拭いていて、
その木彫りに気がついた。
キリスト教の方ですかと聞いてみた。


 「はい。
  そうです。
  あなたもですね。」


どうしてわかりました?


 「そこの御像に目を留められたから。
  これは聖母、これはキリスト。
  どちらの教会に行ってらっしゃるの?」


すみません。
私はカトリックではないんです。
白石区にあるメノナイト教会で
去年洗礼を受けたんです。


 「洗礼を受けられたの。
  それはよかった。
  私達は同じですね。
  ただお一人の神様を信じて救われた。
  一緒です。
  よろしくね。」


私はその人との会話を霞がかかったように
ぼんやりと憶えている。
自分は洗礼を受けてからやっと
今頃になって聖書を読み始めたとか、
日曜日も出勤する事が多くて
礼拝も休む事が多いとか
そんな話をした。
その方は幼児洗礼で
ずっとカトリックとして生きてきたが
聖書を読んでみたいけど
そう思った時には重症の糖尿病で
視力を失っていた。
でもラジオの福音放送で心が慰められる、
ずっと入院中で教会には行っていない、
そう言っていた。


仕事は結構忙しくて
バタバタ走ってばかりいて
一人の患者さんとゆっくり話する事など
殆ど出来なかった。
でもその方は何度か廊下に歩いて出て来て、
私を待っていた。
声と物音でわかったのだろうか、
目が不自由なのに
廊下を走る私によく声をかけてきた。


「井上さん、これ。
 これ、休憩時間に食べて。
 私、間違って売店で買っちゃったの。」


そう言って
ジャムパンを手渡してきた。
ある時は
りんごとカスタードのデニッシュパン、
ある時は
金時豆のパン。


糖尿病で目の不自由な人が
わざわざ売店まで行って
間違って菓子パンを買う筈はない。


一度、
受け取らずに言ってみた。
せっかく売店まで行って
買って来られたのに、
ご自分で食べられないのですか?
すると


 「私は糖尿病なので
  食べられないんです。」


・・・p(=_=;)・・・?


休憩室で看護師長が私に言った。


 「貰ってあげなさい。
  お友達になりたいのよ。」


その方は間もなく別の病院に転院して行った。
転院する事が決まった時、
その人は言い難そうに本を差し出した。


 「こういう本、
  読んで頂けるかどうかと思って・・・
  こういう本、
  お嫌いじゃなかったら・・・」


あるカトリック司祭の著書だった。


 『聖母マリアの交響曲』
   (鵜野泰年著 中央出版1991年)


私はありがとうと言って
感謝して受け取り、
その本はすぐ読み終えてしまった。


翌年のイースターに、
その方から郵便が自宅に届いた。
イースターおめでとうと書かれた、
手紙が添えてあり、
中にはアメが入っていた。
お礼の手紙を書いた記憶がある。
目が不自由でも
きっと身近の誰かが読んでくれる。


その頃は教会で不愉快な事があって、
足が遠退いていた時期だった。
素朴な味のアメで励まされた気がした。


それがこのアメ。
たまに取り出して
大事に1個ずつ食べていた。
当時コルクの蓋付きのビンに移して
袋のラベルをビンに貼っていた。
そのビンが今も残っていたので
同じようにしてみた。


懐かしい味がする。