詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中村不二夫「ロールキャベツを作る」、星野元一「雪の中のホタル」

2023-06-12 21:45:30 | 詩(雑誌・同人誌)

中村不二夫「ロールキャベツを作る」、星野元一「雪の中のホタル」(「蝸牛」70、2023年04月20日発行)

 中村不二夫「ロールキャベツを作る」を読む。

ぼくは妻のためにロールキャベツを作る
(もとより妻から伝授されたものだが)
霧降高原 産地直送のキャベツを使う
包丁を新調し まな板も磨いた
今日そこに人は在りて 命を食す
そんな日々の循環があればよい

キャベツに切り込みを入れる
包丁で硬い芯を取り 葉を広げる
(葉の大きさは適切でなければならない)
枚数は全部で四枚 予備に一枚
(人の体のようにわけもなく損傷してしまう)

 「予備に一枚」の一句がとても重い。五枚ではなく、あくまでもその一枚は「予備」。ここには「予備」をこころがけるひとの力がある。
 それは(もとより妻から伝授されたものだが)も隠れている。妻が中村に作り方を伝授したのは「予備」としてなのだ。本来ならば、妻が作る。しかし、作れないときもある。そのときの「予備」として、作り方を教えておく。そして、それを受け入れる中村の生き方も「予備」をこころがけたものの美しさをただよわせる。「まな板を磨く」の「磨く」の美しさ。
 (人の体のようにわけもなく損傷してしまう)は、妻が体調を壊していることを暗示している。それが「予備」にもつながる。
 最後の連にも「予備」に通じる美しいことばがある。

素敵な一日のため これからもぼくは
飛び切り上出来の味で
毎日の糧を整えよう
そのための時間と労力を惜しまない
この世に神がいない日がないように

 「労力を惜しまない」は「予備」を含むことであり、それは「整える」ということでもある。日々を整えるために、労力を惜しまない。「予備」は「予備」のままでおわるにこしたことはないが、「予備」が動き出すとき、それは日々を乱してはいけない。「整えた」ままの日々であり続けるために、「予備」には「予備」のための「労力を惜しまない」ことが重要なのだ。

 星野元一の「雪の中のホタル」は、「予備」をつきやぶる、「予備」がつきやぶられるときの切なさを書いている。

雪の降る夜だった
小さな提灯を持って
ホタルが一匹
飛んでいった

(略)

あれは確かに
ホタルだった
天の裂け目から
もろもろと湧き出る雪華にまぎれて
逃げ出してきたのか

もう忘れたいのに
明朝の贖罪のことでいっぱいなのに
何で飛び出してくるのだ

 「もう忘れたいのに」も切ないが、「何で飛び出してくるのだ」がさらに切ない。それは、「逃げ出してきたのか」と強く結びついて、濃密な時間になる。

 

 

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