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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

大津市子どものいじめの防止に関する条例(中間案)に思うこと

2012-11-11 10:59:29 | ニュース
先日、ある方から、「大津市子どものいじめの防止に関する条例(中間案)」を見せていただきました。
この条例案を、現在、大津市の第三者委員会が最終報告と提言をまとめる前に、大津市議会では12月議会に提出、可決成立させたいと思っているようです。なおかつ、これに類似の条例を各地で制定しようという動きや、これを国レベルの法律にしよう(たとえば「いじめ対策法」のようなもの)という動きもあるようです。
みなさん、これ読んで、どう思いますか??
自治体が子どもに関する条例をつくることを「いけない」という気はありませんが、私はこの条例案なら、作るのをやめてほしいと思いました。
本当に条例案を作りたいなら、せめて12月をめどに第三者委員会が出してくる最終報告を待ってから動くべきだし、市民、特に大津で暮らす子どもたちの意見を反映させてつくるべきだろう、と思いました。
ある意味、「子どもの権利条例」や「子どもの人権オンブズパーソン条例」を作ることに対する「妨害」のようなものかな、とすら思います。(参考までに、川崎市の子どもの権利条例のHPを書いておきます。どれだけ、川崎市の条例のほうが格調高く、子どもへの信頼・愛情に満ちているかわかります。 http://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/60-2-1-1-0-0-0-0-0-0.html
以下、条文の内容を読んで、気づいたことをまとめます。具体的な条文は、下記に書いてあります。
「家庭の責務」や「子どもの役割」などを条例で定めて、今まで以上に当事者である子ども、そして我が子がいじめている・いじめられているかもしれないということで悩んでいる親たちを追いつめて、どうするんだろう、と思います。
特に6条などを見ると、いじめが起きるのは家庭教育の責任、だから、家庭教育の強化ということから「親学」導入を・・・と、「親学」推進派が大喜びするような中身になっていますね。
また7条の「子どもの役割」で、いじめを受けた子どもは「相談するものとする」と。それが簡単にできない状況に追い詰められている、そこをどう考えるのか。一番しんどい状況にある子どもに、「お前らが動かないからダメなんだ」と言っているようにも思えます。
あるいは「学校の責務」を定めているのなら、それを学校が実施できるように徹底したバックアップ体制を市がとるべきだと思うのですが、条例のなかには14条で「適切な財政的措置」という言葉がひとつあるだけですね。
たとえば、もしも学校がこの責務を十分に果たすためには、大量の教員の増員が必要と判断されたときには、大津市は「適切な財政的措置」ということで、市費負担教職員を増やすんですかね?? あるいは滋賀県・県教委や文科省に増員の要求を出すんですかね?? そんなときには、大津市及び大津市議会は、市の財政負担をタテにとって、きっと増員に難色を示すと思います。
さらに、5条や11条との関係を考えると、一応「人権」という言葉をかぶせつつも、実態としてはこれ、「道徳教育強化」条例です。
ほかにも、3条でいう学校に高校と特別支援学校が入りますが、県立・私立・国立の高校、あるいは県立の特別支援学校に、市の条例で5条でいう「責務」を課すことができるのかどうか。もしも今の法解釈上、大津ではこれが「できる」というのであれば、当然、川西市の子どもの人権オンブズパーソンは、川西市内の県立高校でおきたいじめ自殺事案に介入してもいい、ということになるでしょう。
あるいは、18条の「委員会への協力」。一応、この条例では第三者委員会を常設して、その第三者委員会が日常的にいじめなどの相談・調整などに応じるシステムにしていますが、この「協力」義務を負う立場に、「市の機関」って入っていないですよね。条例3条でいう「関係機関等」って、警察署や児童相談所などを想定しているようですし。たぶん3条の「関係機関等」の解釈で、なんとか市教委を入れるのでしょうけど。でもこれ、18条の条文を字面どおり解釈したら、市教委の対応に問題があったとき、市教委はこの「協力」義務、自分らには適用されないとか言い出しかねないですね。
総じて、「子どもが安心して学ぶ環境」を「社会全体でつくる」というタテマエに立ちながら、市は計画つくって、啓発キャンペーンやって、第三者委員会さえ開いていればそれでOK。あとは学校現場にややこしいことを丸投げし、また、いじめの解決は子どもと家庭(保護者)の責任でなんとかしろ、というかのような条例です。
要するに、前文などで掲げているタテマエを、個々の条例が裏切っていく。いちばん困っている子どもや、その子どもの過ごす家庭を支えたり、困難を抱えた子どもたちと真剣に向き合おうとしている学校現場を、大津市及び市教委で全力で支えようとする条例にはなっていない、ということです。

■(資料)「大津市子どものいじめの防止に関する条例」(中間案)全文(2012.09.14)
全ての子どもは、かけがえのない存在であり、一人一人の心と体は大切にされなければなりません。子どもの心と体に深刻な被害をもたらすいじめは、子どもの尊厳を脅かし、基本的人権を侵害するものです。このようないじめを防止し、次代を担う子どもが健やかに成長し、安心して学ぶことができる環境を整えることは、全ての市民の役目であり責務です。いじめを許さない文化と風土を社会全体で創り、いじめの根絶に取り組まなければなりません。ここに、いじめの防止についての基本埋念を明らかにして、いじめの防止のための施策を推進し、その対策を具現化するためにこの条例を制定します。
(目的)
第1条 この条例は、子どもに対するいじめの防止に係る基本理念並びに責務及び役割を明らかにするとともに、いじめの防止及び対策並びにいじめの解決を図るための基本となる事項を定めることにより、子どもが安心して生活し、学ぶことができる環境をつくることを目的とする。
(基本理念)
第2条 子どもが安心して生活し、学ぶことができる環境を実現するため、市、学校、保護者、市民、事業者及び関係機関等は、それぞれの責務及び役割を自覚し、主体的かつ積極的に相互に連携して、いじめの防止に取り組むものとする。
(用語の定義)
第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) いじめ 子どもが一定の人間関係のある者から、心理的又は物理的な攻撃を受けることにより、精神的又は肉体的な苦痛を感じるものをいう。
(2) 子ども 小学生、中学生及び高校生をいう。
(3) 学校 本市の区域内にある小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校をいう。
(4) 保護者 親権を有する者、未成年後見人その他の子どもを現に監護する者をいう。
(5) 市民 本市の区域内に居住し、通勤し、又は通学する者をいう。
(6) 事業者 本市の区域内で営利を目的とする事業を行う個人又は法人並びにスポーツ少年団、ボランティア団体その他の各種の事業活動を行う個人又は団体をいう。
(7) 関係機関等 子ども家庭相談センター、警察署その他子どものいじめの問題に関係する機関及び団体をいう。
(市の責務)
第4条 市は、子どもをいじめから守るため、必要な施策を総合的に講じ、必要な体制を整備しなければならない。
2 市は、だれもがいじめを許さない社会の実現に向けて、いじめに関する必要な啓発を行わなければならない。
(学校の責務)
第5条 学校は、教育活勤を通して、子どもの自他の生命を大切にする心、公共心及び道徳的実践力を育成しなければならない。
2 学校は、いじめを予防し、又は早期にいじめを発見するための体制を整えなければならない。
3 学校は、いじめの防止に取り組むとともに、いじめを把握した場合には、その解決に向け速やかに、組織対応を講じなければならない。
4 学校は、子ども自身がいじめについて主体的に考え行動できるよう、それぞれの学年に応じた学級の環境づくりに努めなければならない。
5 学校は、子どもがより良い人問環境を構築できるよう必要な取組を行わなければならない。
(保護者の責務)
第6条 保護者は、子どもの心情の理解に努め、子どもが心身ともに安心し、安定して過ごせるよう愛情をもって育まなければならない。
2 保護者は、いじめが許されない行為であることを子どもに十分理解させるよう、家庭教育を行わなければならない。
3 保護者は、いじめを発見し、又はいじめのおそれがあると思われるときは、速やかに市、学校又は関係機関等に相談又は通報をしなければならない。
(子どもの役割)
第7条 子どもは、互いに思いやり共に支え合い、いじめのない明るい学校生活に努めるものとする。
2 子どもは、いじめを受けた場合には、一人で悩まず必ず家族、学校、友達、関係機関等に相談するものとする。
3 子どもは、いじめを発見した場合(いじめの疑いを含む。)及び友達からいじめの相談を受けた場合には、家族、学校、関係機関等に相談するものとする。
(市民及び事業者の役割)
第8条 市民及び事業者は、それぞれの地域において子どもに対する見守り、声かけ等を行い、子どもが安心して過ごすことができる環境づくりに努めるものとする。
2 市民及び事業者は、いじめを発見し、又はいじめのおそれがあると思われるときは、速やかに市、学校又は関係機関等に情報を提供するものとする。
(関係機関等の役割)
第9条 関係機関等は、いじめの防止に関する啓発活動等を積極的に実施するとともに、市との連携及び協力に努めるものとする。
2 関係機関等は、いじめに関する情報を入手したときは、速やかに市に報告するものとする。
(行動計画の策定)
第10条 市は、基本理念にのっとり、いじめのない子どもが安心して生活し、学ぶことができる社会の構築を総合的かつ計画的に推進するため、いじめの防止に関する行動計画(以下「行動計画」という。)を策定するものとする。
2 前項に規定する行動計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
(1) いじめに関する市、学校、保護者、市民、子ども、事業者及び関係機関等のそれぞれの役割等に関すること。
(2) いじめのない学校づくりに向けた子どもの主体的な参画に関すること。
(3) いじめの防止に向けた教育及び人づくりに関すること。
(4) いじめの防止に向けた普及啓発活動に関すること。
(5) 次条に規定するいじめ防止啓発月間に関すること。
(6) いじめを早期に発見するための施策に関すること。
(7) いじめを防止し、及び解決するための施策に関すること。
(8) いじめに関する相談体制等に関すること。
(9) いじめを受けた子ども及びいじめを行った子ども並びにその家庭に対する支援に関すること。
(10) 前各号に掲げるもののほか、いじめのない社会を実現するために必要なこと。
3 市は、第1項の規定により行動計画を策定したときは、これを公表するものとする。
(いじめ防止啓発月間)
第11条 子どもをいじめから守り、社会全体でいじめの防止への取組を堆進するために、毎年6月をいじめ防止啓発月間(以下「啓発月間」という。)とする。
2 市は、啓発月間において、その趣旨にふさわしい広報啓発活動を実施するものとする。
3 学校は、啓発月間において、人権及び道徳に係る教育を実施するとともに、子どもが主体的にいじめの防止に向けた活動を展開できるよう支援及び指導を行うものとする。
(相談又は通報)
第12条 何人も、いじめを発見し、又はいじめのおそれがあると思われるときは、市に相談又は通報をすることができる。
(相談体制等)
第13条 市は、いじめに関する相談、通報等に速やかに対応するとともに、全ての子どもが安心して相談できるよういじめに関する相談体制を整備するものとする。
2 市は、いじめを未然に防止し、いじめから子どもを守るため、いじめに係る情報の一元化を図り、関係機関等との相互の連携及び迅速かつ適切な対応ができるよう組織体制を強化するものとする。
3 学校は、学校におけるいじめに係る相談体制の充実のため、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー等の配置に努めるものとする。(財政的措置等)
第14条 市は、この条例の目的を達成するため、適切な財政的措置を講ずるものとする。
2 市長は、前条第3項に規定する相談体制の充実のため、国及び滋賀県に対して適切な措置を講ずるよう要請するものとする。
(大津の子どもをいじめから守る委員会)
第15条 相談、通報、報告又は情報の提供(以下「相談等」という。)を受けたいじめ(いじめのおそれがあるとして相談等をされたものを含む。以下この条において同じ。)について、必要な調査、調整等を行うため、市長の附属機関として、大津の子どもをいじめから守る委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、市長の諮問に応じるほか、相談等のあったいじめについて、その事実確認及び解決を図るために必要な調査、審査又は関係者との調整(以下「調査等」という。)を行うものとする。
3 委員会は、特に必要があると認めるときは、関係者に対して資料の提出、説明その他必要な協力を求めることができる。
(委員会の組織等)
第16条 委員会は、委員5人以内をもって組織する。
2 委員会の委員は、次に掲げる者のうちから市長が委嘱し、又は任命する。
(1)臨床心理士等子どもの発達及び心理等についての専門的知識を有する者
(2)学識経験を有する者
(3)弁護士
(4)前各号に掲げるもののほか、市長が適当と認める者
3 委員の任期は、2年とする。ただし、委員が欠けた場合における補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
4 委員は、再任されることができる。
5 前各項に定めるほか、委員会の組織等に関して必要な事項は、規則で定める。
(是正指導)
第17条 市長は、委員会の調査等の結果を受け、必要があると認めるときは関係者に対して是正指導を行うことができる。
2 市長は、是正指導をしたときは、その後の経過の確認を行い、その結果を委員会に報告するものとする。
3 是正指導を受けた者は、これを尊重し、必要な措置をとらなければならない。
4 是正指導を受けた者は、当該是正指導に係る対応状況を市長に報告するものとする。
(委員会への協力)
第18条 学校、保護者、市民、子ども、事業者及び関係機関等は委員会の調査等に協力するものとする。
(活動状況等の報告及び公表)
第19条 委員会は、毎年の活動状況等を市長に報告するものとする。
2 市長は、前項の規定による報告の内容を、市議会及び市民に公表しなければならない。
3 市長は、必要と認めるときは、是正指導及びその対応状況の内容を公表することができる。
(個人情報に対する取扱い)
第20条 市は、この条例の施行に当たって知り得た個人情報の保護及び取扱いに万全を期するものとし、当該個人情報を業務の遂行以外に用いてはならない。
2 委員会の委員は、正当な理由なく、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
3 いじめに関する相談、通報等に関係した者は、正当な理由なく、その際に知り得た個人情報を他人に漏らしてはならない。
(委任)第21条 この条例の施行について必要な事項は、市長が定める。
附則この条例は、平成25年4月1日から施行する。