―浅見光彦シリーズ76―
内田康夫/講談社文庫
2014年10月15日初版。東京品川と馬籠宿、妻籠宿が舞台、入れ替わりの殺人事件。いくつかの密室(トリック)型殺人と考古学という隔絶世界の話し。皇女は中山道(馬籠宿、妻籠宿)を通った和宮のこと。直接の関係は無いものの、もしもの時の霊柩を用意したという一件をからめたストーリー。結果的には「霊柩」よりも、増上寺、徳川家の墓から出た副葬品の乾板写真「烏帽子の直垂の男」の方がはるかにミステリアスだと思う。こちらも「霊柩」には違いないが。
婿養子であることに不満があったとしても、それは自らが招いた結果であって誰の責任でもない。研究者といえども、仕事をせずに名誉だけで席を暖め続けることは許されない。適時に仕事の成果を出してこその研究者である。「皇女の霊柩」に副葬された写真の存在は歴史を覆すほどの、考古学上の発見につながるものであった。自己中心的な怠け者の学者にとって、喉から手が出るほど、どんな不正をしてでも、人を殺してでも欲しかったに違いない。
中山道の妻籠宿は30年ほど前だろうか、一度訪れたことがある。宿は著者の描写の通りである。そこで私は並んだ土産物店のひとつから檜材の下駄を調達した。その下駄は今も健在で、夏の一時期、大切に使っている。そして下駄を履く度に、あの時代劇のセットのような妻籠の宿を思い出している。こんな形で妻籠宿に再会できるとは思わなかった。
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