大沢在昌/光文社文庫
1997年8月20日初版、2005年11月10日29刷。著者の作家デビューは1979年、この作品は1997年が初版なので、この間18年がある。「烙印の森」から始まって「涙はふくな、凍るまで」「砂の狩人」「影絵の騎士」「らんぼう」と読み継いできた。新宿鮫シリーズは、前後して「炎蛹」「風化水脈」を先に読んでいるので、その出だしはどんな作品なのか気になっていたが、どうやらその機会がやってきたようだ。
「新宿鮫」を読んでみて思うことは、「新宿鮫」以前の大沢作品は、「新宿鮫」を書くための前座、あるいは試行作品のようにも思えてくる。本人は真剣な試行錯誤であったかもしれないが、書道家が筆の良し悪し、馴染み具合、書き具合をいろいろ試してみるような。そしてここにきて集大成となったような作品である。長編でありながら、中だるみすることもなく一気にラストシーンを迎える面白さがある。
登場人物の配置、ストーリー展開、いずれも無駄が無い。かといって主人公は超人的ヒーローという訳でもない。曖昧で不確かな中で絶妙なバランスを掴んでいるように思う。この感覚が維持される限り、「新宿鮫」シリーズは生き延びるのではないだろうか。その後、TVドラマ化されたものは見ていないが、ここにきて是非見てみたいような気もする。この不条理で矛盾に満ちた、それでいて泥臭い至高の正義をどんな風に描いたのか。
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