橡の木の下で

俳句と共に

「選後鑑賞」令和6年「橡」3月号より

2024-02-27 16:02:56 | 俳句とエッセイ
選後鑑賞      亜紀子

紅さして薩摩野路菊老い初む  前薗真起子

 昨年十二月号、宮地玲子さんの特別作品「諸処流転」の中で薩摩野路菊を知る。
 玲子さんの句 
岬までさつま野路菊ひろごれる

潮風に吹かれながら咲きひろごる野菊とはどんな花かとゆかしく思われた。鹿児島、熊本、屋久島の海岸に咲く日本固有の野生ギクで、園芸種の原種の一つだという。写真で見ると白い小柄な一重の花、葉裏に銀白色の毛が生えているそうだ。勁く可憐。東北のハマギクを思い起こす。掲句によればこの白い花の終わりは紅色がかって枯れていくのだろう。その景色もまたゆかしく思われる。

伊吹背に湖に揃ひて漁始    岡田まり子

 伊吹山を背景にして琵琶湖に並び出た漁り船。今年は暖冬ゆえ山が白くなることも少なく、果たして今朝の姿はいかに。漁師はもちろんだろうが、眺める作者にも新しい気持ちが満ちているようだ。

唐辛子撒く手も赤き雪晒し   新井実保子

 純白の雪の上に撒かれた唐辛子。最も寒さの厳しい寒の内の作業。さぞやその手も冷たかろう。多分手袋くらいは嵌めていると想像するのだが、手の冷たさをいうことで、雪と唐辛子の紅白のコントラストが一層際立つようだ。雪晒しで唐辛子のえぐみが抜けるとのこと。この唐辛子を使ったかんずりは食卓の共。

正月を救援物資粥啜る     島崎善信

 元旦の北陸激震、その後明らかになった被災状況。
言葉もない。作者は七尾の人。一帯はまさに掲句の状況とお見舞い申し上げる。句稿を頂戴していささかの安堵。

着ぶくれて釦ちぐはぐ軒雀   鈴木月

 ふっくら膨らんだ寒雀の姿。コートの釦を掛け違えているとは気が付かなかった。そう言われればその通り。

毛糸帽目深に尼の庭掃除    上中正博

 小柄な尼様。暖かい毛糸帽はおつむりに必須。身軽に立ち働けるようにお召し物は案外な薄着。てきぱきと朝の庭を浄めて、、という情景を一読にして思い浮かべた。

総立ちにオペラ沸き立ち年詰る   熱田秦華

 年末コンサート。ブラボーの渦に幕が降りたようだ。「立ち」の語の重なりが作者の胸の内の去りやらぬ感動を伝える。


初泣や姉につづきて弟も    はせ淑子

 幼の喧嘩だろうか。お姉ちゃんが叱られて泣けば、弟も一緒に。何が原因だったのか、どちらがどうしたのか、今となっては何がなんだか。賑やかなお正月がめでたい。

野水仙能登は底から揺さぶらる   熱田千瓜

 能登半島を中心の今回の地震はまさに底から揺さぶられたよう。海岸も隆起。水仙は北陸を思い起こす花。
福井辺りはそれでも無事で、例年の水仙まつりも開催されるようだ。

蒼白き月光被き冬桜      南雲節子

 昼間もどこか物寂しい冬桜の風情。夜の姿は青白い月光が似合うようだ。納得。





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