老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「なだいなだ 常識哲学-最後のメッセージ」(筑摩書房)

2014-05-28 16:51:23 | 社会問題
なだいなださんが亡くなって間もなく一年が経とうとしています。最近、なださんが生前に書きとめていた原稿に講演原稿やブログに書かれた文章を追加してまとめられた本が、筑摩書房から出版されました。タイトルは「常識哲学」。なださんが最後まで拘っていたテーマです。

この本によれば、なださんが「常識」を‘有用な’哲学であり得ると着想したスタートは、精神科医としてアルコール依存症の患者を治療してきた時代に溯ります。若い医師としてアルコール依存の患者に向き合ったなださんは、この病の治療とは、従来常識とされていた‘医師が治す’というものではなく、‘患者自身が(断酒に)挑戦し続ける’という性質のものだと気づきます。そして、「偏見」とは「古い常識」であり、「新しい常識」にとって変わられるべきものとの認識に至ります。

その認識は更に発展し、「常識」は、宗教や倫理、あるいは神がくれたとされる「理性」のような「絶対性」「権威」を持たず、変化が宿命付けられた「相対的」「謙虚」なものである。しかし、この「常識」こそが、生身の人間や社会を変える上で‘有用性’を持つと、考えるようになります。

さらに、アルコール依存症の患者たちが「断酒会」を作って、仲間と一緒に断酒に挑戦し、成功していることから、有用なノウハウは自分たちの体験から生まれ蓄積されるもの、つまり常識そのものであると、なださんは「常識」への確信を高めます。

そうして長い時間をかけてたどり着いたのは、「特別なことをやる必要はない」「常識的にやればいい」「常識は偏らない、中庸である」という考えであり、その底流には、『常識には内部からブレーキをかけ行動を規制する、調和的な要素がある』という人間に対する本来的な楽観主義が垣間見えます。

なださんは、亡くなる5日前の最後の講演会では、「世界に常識的な政治家が少なくなった。自分もいつかは年を取るんだよということがわかる、そういう常識を持った政治家がいてくれたらいい。」「そう極端なことはやりなさんな。常識的にやりなさい。常識があればみんな平和を求める」と、「常識」の言葉を使って、今の政治について批判的に言及していました。

実際のところ、なださんが立ち上げた「バーチャル政党・老人党」の中でも、そこに繰り広げられた議論は、調和的な世界とは程遠いものでした。更に、現実の政治の世界では、「偏見」ならともかく、「非常識」が「今の常識」のような顔をして大手を振って闊歩し、世界中で謙虚や調和や寛容が通用しないような風潮が高まっています。

なださんの「常識哲学」と、こうした現実とのギャップついて、なださんはどのように考えていらっしゃったのかは、今となっては不明です。私自身、「常識」というある意味暢気な基準で今の事態が打開できるのかと、正直疑心暗鬼になる昨今です。

しかし、そうであれば尚のこと、本の最後のページに載っているなださんの温かな笑顔と、最後の講演の締めくくりに語った「常識という言葉があったことを広めて欲しい」というメッセージを、これからを生きる若い人たちが、「なださんの最後の贈り物」として真っ直ぐ心に留めてくれるようにと、今は願うばかりです。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
笹井明子

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庶民の常識、政治家の常識 (おとなのおやつ)
2014-06-11 16:05:12
 なだいなだ著「常識哲学」を読みました。常識には古い時代の常識と、今これからの時代の進化した常識があるということですが、私は少し見方をずらせて、常識を庶民のそれと政治家のそれに分けてみたり…
 「常識」という語は英語のコモン・センスが明治の初期に、仏教哲学者井上円了あたりに和訳され日本に広まったとは夏目漱石も言っていると「常識哲学」には書かれている。
 意識、無意識、知識、見識とかの識と、無常の常が合体した常識は、江戸時代「当たり前」「アタリキ」などと言われていたことを替わって代弁するようになり、あっという間に日本中に広まり、今では韓国、中国でも「ジョウシキ」で通用するそうですね。
 ところで今回、下村博文文化相の、捏造ありとしてNature誌編集部からスタップ細胞論文の自主撤回を促されそれに従った小保方晴子氏を、理研の検証実験へ参加させろの要求は、政治家の常識なのかなと思われます。そして、それが例えば、プロ野球で八百長が発覚したときスポーツ担当大臣的な人がその選手を「いいじゃないか、そのままゲームに参加させろ」と強く求めたとき、それはプロ野球にとって致命的な要求になるのではないだろうかと、多くの八百長などしない他の選手たち、野球を楽しみにしている観客たちは白けちゃって球界は大きいダメージを受け、ヤンキースで活躍している田中投手のような日本の誇り的選手は出現しない質の落ちた球界になる。科学技術の世界だッて…。
 ヒロシマとナガサキ、一国で2個も原爆が降ってきた歴史、日本庶民が「戦争はもうしない方が良い」と考えるのは常識で、その常識の中へ安倍晋三首相はよう入ってこない人なのかな?などとも私は政治家について思います。
政治家の常識は少し違うらしい (Unknown)
2014-07-12 01:18:03
>おとなのおやつさん
『常識哲学』をお読みくださった上でのコメントをありがとうございます。

>日本庶民が「戦争はもうしない方が良い」と考えるのは常識
ですよね~。戦争がゲームのように思えるごく一部と、武器制作会社と武器商人以外の人は、殆どの人の常識では「戦争は嫌だ」でしょう。

この政治家の暴走を止められないことが、なんとも哀しい日本の現実。
でも、あきらめずに、声を上げていくことだと思っています。
滋賀県に三日月さんが輝けり (おとなのおやつ)
2014-07-15 12:07:12
Unknownさん、こんにちは。

 滋賀県知事に三日月さん、きれいですね。
 そしてその三日月知事誕生を助けた嘉田由紀子前知事のことは、日本未来の党代表だった頃から私は応援でした。あれから色々と経験をつまれ今日の成功があったのでしょうか。今回のことはかなりの自信になると思います。私の素人考えそのものなのだけど、麻生、安倍氏らのナチ真似政権に対峙する野党のまとめ役、つなぎ役などに嘉田氏が一役をかってくれたらなぁなどと…
 段階的に原発を無くす「卒原発」、新知事に引き継がれていってほんとに良かったですね。地震が多い日本に54基もの原発、無くしてゆくのがどう考えても常識だと私は思います。
Unknown (珠)
2014-07-24 10:58:12
>おとなのおやつさん
前のコメント投稿に名前を入れ忘れてしまって、失礼いたしました。
「原発は要らない」という常識が、ようやく政治にも通ったと言うことでしょうか。市民がちゃんと意見を言っていくこと、よく考えることが、一層求められる時代になったと思います。

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