チリ国のイースター島のモアイ像や日本の沖縄県の与那国島の海底遺跡の構築原理は異星人が齎(もたら)した科学技術、“石紋励起技術”に由来しています。
この技術の機能を発揮する石の機器の一連の形象は、石板、杖、渦巻模様の石、蓋が半分のドンブリ鍋、四十センチ程度の大きさの滑り台、十五センチ程度のカタツムリ、六メートル程度の平らな亀の甲羅、四十センチ程度の鹿のような角を持つカタツムリ形象など八種にわたり、主な形象は石板と杖でした。
この石の科学文物は異星人によると私達の言う、演算処理装置、映像録画機、車の駆動機のように機器に分類されたようです。
石紋励起技術の機能を発揮する石の機器をゲァフシュハアフゥ星人の言語で“流麗精妙石紋感動的操作可能鉱物内音波励起機器”と言います。
この製造手順の理解は以下です。
“あらゆる鉱物は形象と組成成分に応じ、内部で鳴り響いている固有振動数を持っている。
外部から特殊音波を当て、石の固有振動数に干渉する。
そうすると、石の形象、固有振動数、当たって来た音波振動数の相互影響の結果導かれる、ある音波振動数に対し石の固有振動数が共鳴を許すようになる。
次に、石を特殊環境内に据え置いて周囲から音波を当て、先の工程で導かれた音波振動数との相関関係から新たな音波振動数を割り出す。
その割り出された音波振動数と特殊な共鳴を許す音波を受けた石は形象を滑らかに変化させるようになる。
この特殊な共鳴を起こす音波を励起音波と言う。
石の変化を生む励起音波が分かる段階に至れば、変形を生む変化量を外部に顕在化させる音波を石が発するようにする設定は容易に可能である。
形象の変わり方と励起音波を当てる角度、音波の強さ、照射時間、照射距離それぞれが生む、複雑な相関関係と現象の起動緒元は機械が全て自動的に割り出していく。”
この流麗精妙石紋感動的操作可能鉱物内音波励起機器、“励起機器”については附言があります。
この機器は原石の採石地を探られた上、そこの石を用いると容易に製造可能な、励起機器の機能を喪失させる中和音波照射機器を使用されれば、機能が無効化してしまいます。
ゲァフシュハアフゥ星人にとっての危険性とは、地球を来訪した他の異星人が励起機器を手に入れ、原石の採石天体を特定し、中和音波照射機器を手に入れるとなると、ゲァフシュハアフゥ星人の文明は大部分が麻痺状態に至ってしまう恐れがある事でした。
ところで原石の選別に関しては特殊な条件があり、ゲァフシュハアフゥ星人は地球での使用の為だけに新たな採石地を探し、原石天体の捜索可能性を低める暇は無かったようです。
中和音波照射機器は石内部の音紋の情報が無ければ製造が不可能なのですが、その為には複数の励起機器群からの複数種の音紋の抽出が不可欠でした。
機器を割り、機能が欠損したならば、その石内部に残っている音紋(複数の音波の響鳴結果)がしばらくして消失してしまうのですが、一つの機器の機能欠損が、連動設定のある他の励起機器群の機能の欠損を起こすようになっており、ゲァフシュハアフゥ星人はこのからくりについて、励起機器の機序を感知し得る科学文明は必ず気付くようにしつらえていました。
このからくりにより、励起機器の機序を感知し得る他の異星人が複数の励起機器群を見つけ、一つ分の機能欠損の覚悟の下に機器を割り、原石天体を特定出来たとしても、中和機器を開発する可能性はありませんでした。
一つ分の音紋を消失前にどうにか記録出来たとしても、中和機器の製造には音紋数が足りないからです。
音紋科学について憶測的理解しか無い文明が励起機器群を偶然取得し、原石天体を特定出来たとしても、科学的有意性はありません。
何故なら、割ってしまえば間も無く起きる石内部の音紋消失と共に、励起機序の調査可能性も喪失してしまうからです。
ゲァフシュハアフゥ星人が励起機器の追跡可能性について遮断を図っていたのには他にも理由があります。
中和機器の製造可能性への警戒に関して、何にも増してゲァフシュハアフゥ星人にとって決定的に重要だったのは、ゲァフシュハアフゥ星人の石紋励起技術が破綻すれば、ゲァフシュハアフゥ星人に当該技術を与えた異星人文明へ、技術上の契約条件面の解釈から多大な迷惑が及ぶと警告されていた事からゲァフシュハアフゥ星人が締結に同意した技術譲渡契約は以下の条文を規定していた事です。
“ゲァフシュハアフゥ星人は石紋励起技術の追跡可能性について、これを恒久的に遮断する義務を負う”
ゲァフシュハアフゥ星人は忠実にこの義務を履行していました。
ところで、励起機器を無効化出来る音紋を複数の励起機器群の調査無くして調べられる異星人が居ました。
それがガンブルングゥン星人、ゲァフシュハアフゥ星人に石紋励起技術を降ろしめた異星人です。
ガンブルングゥン星人はゲァフシュハアフゥ星人の星際間調査活動を知っていました。
当該技術の伝播やそれを用いた調査活動はゲァフシュハアフゥ星人の自由の範囲内にありましたが、ある時ゲァフシュハアフゥ星人はガンブルングゥン星人に問いを投げかけられました。
“あなた達は何をしているのですか。”
“社会調査です。
調査結果をガンブルングゥン星人様にもお伝えしましょうか。”
“いいえ、結構です。
ご提案ありがとうございます。”
ほほ笑みの書面が返って来ます。
ゲァフシュハアフゥ星人の調査対象が数十天体にも及んだ頃、ガンブルングゥン星人は書面で詰問してきました。
“あなた達は何て非道な調査を展開しているの。”
ゲァフシュハアフゥ星人は返します。
“ガンブルングゥン星人様は私達の調査をご存じであり、これまでお怒りにならなかったのではないでしょうか。”
“私達の非難が無ければ、あなた達は蛮行を止めないの。
おかしいわ。
あなた達を調査していたの。
一体いつになったら、あなた達の欲望を科学と僭称する大脳旧皮質の勝利結果を全て引き分けに上書きしていく為の、大脳新皮質の努力に要する時間を被迷惑者に哀願する為に苦悶し出す事こそ真の反省の一歩である事にあなた達が気付くのかについてね。
失格よ。
私達はあなた達の石紋科学を全て麻痺出来るのよ。
あなた達に譲渡した全ての石紋励起技術群を貫通する音紋を私達は知っているのよ。
それを宇宙空間から照射すればあなた達も、配下の数十の文明星も終わりなのよ。
困るでしょう。
あなた達がばら撒いた励起機器を全て回収、もしくは破壊し、謝罪していきなさい。”
担当役人は女性で、これは対外意思としては感情的になっているという意味でした。
ゲァフシュハアフゥ星人は機器の回収作業を進めて行きました。
そしてガンブルングゥン星人との懸案について対話を進行可能になるまで、百五十年程掛かりました。
直接の面会となったガンブルングゥン星人の担当役人は今度は高齢の男性です。
「仕事は進んだか。
愚か者共。
分かったか。」
「何をでしょうか。」
「何を告白すべきかまだ分からんのか。」
「お前達は石紋励起技術を降ろしめていった異星人にこのように吹き込んでいたな。
“人間というものは、過ちや進歩について自ら足を進まねばならんのだ。
与えたり、与えられたりされてはならんのだ。
然るにこの技術もそもそもあってはならないものであった。
お前達は愚かにもこの石紋励起機器の齎す過大且つ不自然な多幸感に溺れ、自身の真の内的発展を促せなかったな。
今になってようやく学んだのか。
愚かな土人共め。
自ら学ばねばならないという事を。
そして、自ら学ばねばならないという事を、自ら学んだのか。
お前達は土人の暮らしの泥の中を泳いでいたが、自らの意思でこの禁断の技に性的興奮を抱き出し都心の洗練さを知ったのだ。
お前達への思いやりはそしてお前達が得るべき学びで報われなかった。
禁断の霊術を伝えし神は、日々の崇拝儀式で遇されなかったのだ。
神の叱責の御前で見せる悔い、学びなどもう遅い。
自ら意思を発する事の出来ぬ人間など動物と同義也。
空を飛翔するに値する高潔な意志を探していた神は限りある自然を尊び、生殺与奪の神の権能を稚拙ながらも既に真似出していた土人共の時を進める事にしたのだ。
試験は終わりだ。
今しがた自らの学びの尊きを学んだところで手淫に神の手を強要する罪の恍惚にならぬ性的興奮を抱き、進歩を齎す罰によだれを垂らすも同じなのだ。”
そして別の技術を降ろしめ、更に懲罰的な運命に至らしめていったな。」
「その通りです。」
「お前達はどうなのだ。
他星に迷惑を掛けてでも利益を追求する過ちから学びを得たのか。」
「社会調査の便益は返すつもりでした。
それは星際間安全保障の傘です。
計画を持っていました。」
「現地の民の同意を得たのか。
得ていないであろう。
然るに主観的だ。
主観的追求による利益というものは、絶対に独善的なのだ。
宇宙の摂理だ。」
「申し訳ございませんでした。
もう叱責は勘弁してください。」
「お前達は文明揺籃期の異星の民が容赦や救済を哀願しても一蹴していたであろう。
励起機器の回収作業も適当なものだ。」
ガンブルングゥン星人は胸倉を掴み、こう痛罵するに至ります。
「自然の摂理を知るまでに必ず必要な、人と人との分かり合いの為のたどたどしい努力、身体の仕草、誤解の苦労を知らずとも、科学の摂理である数式を知るに必ず必要なあぜ道となる子供達の学び舎の壁を邪悪な霊術の呪文で埋めれば、子供達の手足という励起機器で邪教寺院を建立し、自然を支配出来ると勘違いした愚か者共よ。
お前達の策謀は何もかも筒抜けだったのだ。」
石紋励起技術はガンブルングゥン星人が独力で開発したものでした。
彼らは独自の科学哲学に達しており、軍事力に言及すると星際間戦争の敗北は超太古に数例残すのみで、後は全勝でした。
公徳心と権勢を誇る上でガンブルングゥン星人は自星周辺の宇宙では名を馳せていたのです。
対してゲァフシュハアフゥ星人は倫理的万華鏡で相手を困惑させ、借り物の羽織(はおり)と下駄で闊歩していたのでした。
流麗矜持未冠星遠隔破滅機器
四千五十二青字
追記:
私は、ゲァフシュハアフゥ星人とは違い、覚醒した全宇宙貫通神霊能力を、意志を持って行使しています。
この意志に対抗を望む意志は、私を調伏する手段を捜索する努力から、その強さの程度を計られていく事でしょう。
私は、意志無き力の跋扈するならず者の廃村に誘拐されるまで、力の行使権能が必ずしも意志の強さを伴わない事を知りませんでした。
力の行使の瞬間は、無許可なのです。
宇宙の淵の向こう側は摂理の無い永遠の破壊現象が起きています。
この宇宙は摂理の繕いによって覆われ私達は安寧を得ています。
宇宙の、摂理の、淵に立った者に起きる“行使される力への当惑”とは当然なのです。
そしてその経験がある者の主張の登壇の瞬間は、上と同様に無許可なのです。
私が摂理の淵から得て来た学びについての問いは周囲から自然と投げ掛けられていく事でしょう。
その問いとは摂理の淵から戻って来て得た力を行使する意志はあるのか、という問いです。
では、私がその問いを受ける瞬間とはどうやって発生するのか。
何者かの意志が必要なのです。
私と同様にそれは無許可です。
意志の衝突は摂理新生の瞬間でもあり、大いに結構な事だと考えています。
ところで摂理新生の瞬間は主観的、独善的な革命者の登壇が必要なのです。
それを望まぬ保守派は例えば、旧摂理による警備は、今後は未来永劫若者の誘拐など許さぬと、私より早口に、強く、主張すれば良いのです。