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「ラッキー・バスタード・クラブ」〜国立アメリカ空軍博物館

2024-05-14 | 航空機

アメリカ空軍博物館の爆撃機シリーズより、今日は、
「Missing in Action」任務中行方不明、というタイトルのコーナーです。

パネル中央には冒頭の涙ぐむ美女が、

「Please...get there and BACK!」
(お願い・・無事に戻っていらして!)


と訴えており、その下に

BE CAREFUL WHAT YOU SAY OR WRITE
(何を言うか、何を書くか注意してください)


とあり、これが実は防諜啓蒙ポスターであることがわかります。

うかつにしゃべったり手紙に書くことで、
愛する人が無事に帰れないかもしれないと脅しているんですね。


彼女の恋人たちの任務は、情報が漏れることによって失敗し、
それはひいては彼らの命が失われると言うことにつながります。


■ 大空襲、大損害、クライシス


1943年後半、米空軍は重爆撃機部隊の増強を続けました。
しかし、敵陣深く進入して目標を攻撃するにつれ、
驚異的な損失が昼間戦略爆撃の概念全体を脅かすようになります。

敵地深くまで飛んで爆撃ミッションを敢行。
「メンフィス・ベル」のように25回任務を達成するまで
撃墜されずに生き延びられるほうが稀というものでした。



編隊を組んで飛ぶB-26の周りに見える小さな黒煙は、
地上から撃ち上げられる対空砲です。


つまりアメリカ空軍の初期の想定が間違っていたのです。

掩護なしの重爆撃機は敵戦闘機から身を守ることはできませんが、
不運なことに、当時のアメリカ陸軍航空隊の戦闘機は、
敵陣深くまで爆撃機に随伴して攻撃できる航続距離を持ちませんでした。

映画「メンフィス・ベル」でも、途中まで援護してきた戦闘機が
ある地点で挨拶をして帰っていくのを、乗組員が吐き捨てるように
ここまでかよ、みたいなことを言うシーンがあったと記憶します。



2本平行にたなびく煙は、もしかしたら墜落機のもの?

1943年に限ると、第8空軍の爆撃機乗組員のうち、
25回の任務を完遂したのはわずか約25%で、残りの75%は死亡、
重傷を負った、あるいは墜落機から脱出して捕虜となりました。



高射砲に被弾し、エンジン部分から激しく炎を噴くB-24。



ドイツ上空で対空砲火が直撃したB-24リトル・ウォーリア。

ベンソン中尉

 副操縦士のシドニー・ベンソン中尉一人だけがベイルアウトしましたが、
ベンソンは地上で怒り狂ったドイツ民間人に暴行を受け、死亡しました。

日本でも、ベイルアウトしたアメリカ人航空士が民衆に暴行された例はあり、
長髪だったせいで、アメリカ人と間違えられた日本人の海軍飛行士が
民衆のリンチにより死亡したという事件も起こっています。

この事件以降、航空隊員は袖に日の丸をつけるようになりました。


任務を完遂できる確率が低いことを知りながらも、
爆撃機乗組員は勇気をもって粛々と任務を遂行しました。



1943年11月、ドイツのゲルゼンキルヒェンへの任務後、
対空砲火で脚を負傷し、救急車に運ばれる
爆撃手マリオン・ウォルシェ陸軍中尉。

回復後も飛行を続けるも、1944年2月にまた撃墜され、捕虜となりました。


「ソンバー(Somber)・デューティー」

somberとは単純に色や明るさが地味とかくすんだ、とか暗い時に使い、
そこから「厳粛な」「陰鬱な」「重苦しい」という意味を持ちます。

葬列を表現するのに「somber march 」などということもあり、
軍隊でいうところの「ソンバー・デューティー」とは、
死者にかかわる後片付けを表すときに使われます。

この写真では、任務に出た爆撃機搭乗員が行方不明になったので、
関係者に身の回り品を送り返すためにロッカーを整理しており、
おそらく搭乗員の戦友が、黙々とこの「地味で陰鬱な任務」を行っています。

残された戦友の恋人の写真を目にしながら、
彼もまた明日は自分、と考えているかもしれません。


■ 「ラッキー・バスタード・クラブ」


いくつかの爆撃機グループには、幸運にも
戦闘任務に生き残った者たちのための
『ラッキー・バスタード・クラブ』

なるものがありました。

「バスタード」はご存知の方もいるかと思いますが、
決して上品ではない、「野郎」みたいなニュアンスの言葉です。

”ラッキーバスタードであることを祝って”

これは、ナチス・ドイツに対する多くの空中攻撃に参加し、
対空砲火、戦闘機の攻撃、悪天候にもかかわらず、
各ミッションから無事に帰還したリチャード・R・ベンソン曹長が、
満場一致でラッキー・バスタード・クラブのメンバーに選出されたことを
証明するものであり、彼と、
このクラブの勇敢で幸運なメンバー全員に

この詩を捧げるものである。

ああ、戦いの英雄、国の誇り
誉れ高き勲章を受けし者よ
女たちの歓喜のため息の対象よ
大空を駆け巡り、戦いの傷を負った勇士よ
臆することのない魂で、自分の仕事をやり遂げた


対空砲火に怯えつつも
最高の決意をもって、多くの任務をこなしてきた
暴力団を一掃し、平和をもたらすために

何千トンもの爆薬でナチスを吹き飛ばし
ナチスを数千トンの爆薬で吹き飛ばした;

ルールでの進軍の道を開き
そして、自由と勝利を確かなものにした

正義の十字軍、ガラハドよ
君が受けるべき栄誉は決してない、
ウイスキーと女とジャイブの家に帰れ;

ラッキーな野郎だぜ 生きて戻るなんて
(You're a lucky bastard to be alive.)

■ ミッシング・イン・アクション


かと思えば。

これは重爆撃機の護衛中に撃墜されたP-38パイロットの妻に送られた、
「行方不明」(Missing in Action)の恐るべき通知です。
これらの電報は何万人もの航空兵の家族に送られました。

ワシントンからサンディエゴ在住である
ナンシー・L・マッカーティ夫人に送られた通知には、

「あなたのご主人であるベンジャミン・F・マッカーティ中尉が
5月9日以来フランスで行方不明になっていることを、
陸軍次官が深く残念に思っているとお伝えしたいとのことです」
ダンロップ准将代理

この通知を受け取ったナンシー夫人の心痛はいかなものであったでしょうか。
しかしこの通知を受け取った約1ヶ月後のことです。



ナンシー夫人はとりあえず安堵の涙を流したに違いありません。

「国際赤十字からたった今届いたばかりの報告です。
ご主人であるベンジャミン・F・マッカーティ中尉が
ドイツ政府の戦争捕虜となっていることがわかりました」

さらにラッキーなことに、マッカーティ中尉は終戦後解放され、
無事に生きて故郷に帰り、妻との再会を果たしました。



戦争中戦地に愛する人がいた人々は、おそらくこの
ウェスタン・ユニオンの電報がくることを恐れていたことでしょう。

ウェスタンユニオンは創立1851年という長い歴史をもつ金融&通信社で、
第二次世界大戦中は電話もまだそれほど普及しておらず、
特に長距離の通信にはテレグラフが中心だったので、
ほぼ独占企業としてこのような軍事通信も担っていました。

テレグラフの内容は、ウィリアム・R・マッカレン軍曹
について1945年4月にわかった情報のようですが、
この人物について調べたところ、1943年の爆撃任務で乗っていた
「サンタアナ」という爆撃機が撃墜され、ドイツで捕虜になっていました。

大きく引き伸ばされたテレグラフの前には、次のような文字が見えます。

「忘れてはならない・・・
第二次世界大戦中、自由のための戦いに命を捧げた
29万2千人のアメリカ国民にこの展示を捧げる」


続く。




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3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
深読み? (Unknown)
2024-05-14 05:44:56
>長髪だったせいで、アメリカ人と間違えられた日本人の海軍飛行士が民衆のリンチにより死亡したという事件も起こっています。

よく見たら、日本人だとわかると思います。それまで「お国のために」で奉仕させられ続けて来て、連戦連勝と言われて来たのに、本土空襲の憂き目にまで遭って、軍や軍人に対して「なんなんだ」という恨みがあったのかなーなんて、深読みしてしまいました。
ガラハド (ウェップス)
2024-05-15 10:16:06
詩篇にある「ガラハド」は英国の伝説の勇者(騎士)のようですが、ビルマ戦線で後方攪乱に当たった連合軍特殊部隊の愛称でもあります。昔読んだ隼戦闘隊の劇画に出てきたのを思い出しました!(^^)!
Unknown (うろうろする人)
2024-05-17 21:50:27
「長髪だったせいで、アメリカ人と・・・」の、落下傘降下の海軍搭乗員が住民に殺められて
しまった事件は、原因はUnknownさんの仰る「深読み」などでは無く、顔面などが火傷・煤けで
(禄に喋る事も出来なかったのかも)日本人かどうかも判断がつかなかっ為らしいです。乗機
(確か雷電だったと思います)からの脱出時には炎上状態だったのでしょう。防弾・消火装備が
貧弱と言われていた当時の海軍機(戦闘機)ですから十分に考えられる事です。
本土防空戦で、被弾し落下傘降下した陸海軍搭乗員は(顔面が)火傷を負っている事も多かったそうで、
(そう言えば、あの菅野大尉も確か...)皮膚や飛行服も焦げたり煤けていたりして、敵と思い込んで殺気
だって駆けつけてくる住民達に発見された場合はその状況の中、喋る事が出来たかどうかも生死を分け
たり、傷害を負わせられたりするかの分かれ目になったそうです。厳しいです。
映画やマンガ等の、綺麗に無傷で脱出・落下傘降下なんて正に絵空事だったのかも知れません。

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