ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「戦争と人間」の女たち

2011-11-29 | 映画

1970年日活作品、五味純平原作、山本薩夫監督作品
「戦争と人間」
を見ました。


1部「運命の序曲」
2部「愛と悲しみの山河」
3部「完結編」

合間に全て「休憩」を挟み(DVDも休憩用音楽が入っている)
総上映時間9時間半。
これを映画館で見る試みがあったといいますが、
観に行くのはよっぽどお好きな方だったのでしょう。
DVDが、それもレンタルショップに行く必要もなく借りられてしまう
今日でなければ、わたしのような「この手の戦争映画嫌い」には
一生縁のないままだったでしょう。

でね。
映画評をインターネットで検索しても、不思議なサイトしか出てこなくって。
たとえば「バカウヨども」と連呼しているサイトとかー。
「この映画なら韓流好きの奥さんにも満足してもらえると思う」
なんて妙な薦め方をするサイトとかー。

そして、この戦後最大規模、お金も時間もたっぷりかけた超大作を
皆やたら褒めまくっているんですよ。
「よく見ろ日本人」とか。「戦後最高の戦争映画」とか。

だがしかし。

不肖エリス中尉、戦争映画を色々とウォッチングしてきましたが、
はっきり言ってこの映画はこれだけの長大な時間を使って

「日本軍部の侵略主義とそれで肥え太った日本企業のせいで
起こった戦争によって虐げられた可哀そうな中国と朝鮮と日本の労働者」


という偏った方向からしか物事を語っていません。
そういう一面も勿論否定しませんよ。でもね。

「戦争の勝ち負けは正義の問題ではない」と
「映画『プライド』とパル博士の日本無罪論」で言いました。

戦争は疑うべくもなく絶対的な悪ですから、
それまでの世界の覇権主義、帝国主義を全く語ることなく

「日本がある日いきなり権力の横暴を行使して私利私欲から
平和だったそれまでの世界で最初に戦争をおっぱじめた」


という大前提にしてしまえば、実にお手軽な善悪の二元論で
全てを片付けてしまえるわけです。

その「悪玉」「善玉」論をわかりやすく、かつ例外なく映像にした、
それがこの映画といえばわかっていただけるでしょうか。

軍、財閥は

「ぐふふふ、越前屋、おぬしも悪よのう」「お代官様こそ、げへへへ」

的に描かれるというお約束。

そして財閥の伍代家では親に反発する4人兄弟のうち純情で清廉な
次男(北大路欣也)末娘(吉永小百合)
は、労働者の境遇に思いを寄せる左翼活動に走り、
これもお約束のように、特高に酷い目に会います。

それに対して、親の会社で後継ぎになる長男(高橋悦治)
満人の娘(栗原小巻)

 


を会うなりいきなり手ごめにするという鬼畜です。

「労働者と左翼青年、中国人と朝鮮人に悪漢なし」
「軍部財閥特高と陸軍上等兵に善人なし」


のすがすがしいくらいの徹底ぶりが泣かせます。

当時、反論検証なしで事実化していた

「軍の行為としての南京大虐殺」

に至っては異常なくらいの時間を使って描かれ、
なんと彼ら中国抗日軍の民族魂を雄々しく歌いあげる

「中国国家フル演奏(歌詞字幕付き)」

も挿入されるという念の入れよう。

山間にあるただの一般民間人の村を悪魔の軍隊である日本軍が
全兵力で攻撃します。(何のために?)
そこに突如現れて、略奪強姦真っ最中の日本兵を蹴散らすのが、
そう、正義の味方八路軍なのです。

おいおいおいおい(笑)

朝鮮関係についても酷いですよ。
伍代産業の社員(高橋幸治)満人の妻(松原智恵子)
をさらって強姦し、自殺させる朝鮮人暴徒のリーダー除(地井武男)。
彼は幼い日に日本人に父母を虐殺されているという設定。

悪人には(日本人以外には)悪人になる(それも日本のせいという)
ちゃんとした(?)理由があるのです。

ちなみに朝鮮民族の誇り高い歌(字幕付き)もまたフル演奏されます。


いくつかの映画評を見ましたが、そのほとんどが、

「スケールが」「俳優陣が」「ソ連軍の協力による戦車が」素晴らしい

しかし

「左翼がかっているという気もするが」

と、ひっそりお断りを入れているのがなんとも言えません。
王様は裸だ、って誰も言えないのね。

じゃ言っちゃいます。
この映画、酷いです。トータルで言うと駄作です。
単純で短絡的な史観で善玉悪玉的描き分けをしているのもですが、
当時の純粋な青年が夢中になった、共産主義の理想面だけを
無条件で美化しているのも問題です。

当時中国は文化大革命という大虐殺行為のまっただ中。
しかしマスコミはこぞって中国共産主義を礼賛し、
北朝鮮を「地上の楽園」と持ち上げていた頃ですね?
そう思ってみれば、この頃のジャーナリズムの向かう方向性が
露骨にこの映画に表れているのに気づくでしょう。

そしてこの映画、予算の関係で3部で完結してしまい、
登場人物がどうなったのかも全て尻切れトンボ。
これだけでも映画としては大失敗と言えるのに、
さらに匂う強烈な「日活臭」

そう、ある年齢以上の方は「にっかつロマンポルノ」という
一連の性風俗映画について耳にしたことがおありでしょう。
その「日活」作品ですから、無理やりなラブシーン、ベッドシーン、
強姦シーン、入浴シーンを挟んできます。



伍代享介(芦田伸介)満州で暗躍する謎の中国女(岸田今日子)入浴中。

この映画に出る女優さん、なんと吉永小百合も含め、全員が脱がされています。
肌見せ度は人によって違いますが、この岸田今日子と栗原小巻は全裸に近く、
エキストラ級の女優はもう遠慮なし。
完全な全裸露出要員として片桐夕子というロマンポルノの女優まで
出演させているのです。

描かれる恋愛模様も酷いですよ。
女性の方が激しく迫り、色々な事情から最初は拒む男性は我慢できずに、
というパターンばっかり。
戦前の女性って、こんなに積極的な人たちだったのかなあ。



北大路欣也と不倫の恋に落ちてめそめそする人妻(佐久間良子)
この表情からもお分かりかと思いますが、よよと泣いてばかりで実にうざい。

しかし、この映画で一番あきれたのが時代考証のものすごさ。
女性の服装化粧、エキストラの髪型が思いっきり高度成長期。
思いっきり1970年代。サイケデリックってやつですか。



だいたいこんなつけまつげのヒトが戦前どこにいたのよ!
結婚式シーンの「もみあげに小さなくるくるカールのつけ毛」ってこれ何よ!

浅丘ルリ子の登場場面は、もう全く頭っから時代考証放棄。
最新流行のスタイルでないと、当時人気絶頂の超絶美女と言われていた彼女は
映画に出ないとごねたのではと勘ぐるくらい凄いです。

でも可愛い。
もう、無茶苦茶でいいや、だって可愛いんだもーん。

昔から映像を見て「派手な女優」くらいにしか思っていなかった
彼女の可愛さに感動して、登場シーンをつい全部写真に撮ってしまいました。


彼女が身を包むブランドはディオール、サンローラン、ピエールカルダン。
冒頭写真なんか、全身ピンクのパンタロンスーツ(当時最新流行中)です。

 

財閥令嬢はピアノを弾きつつ登場するものです。

いつもショパンの「幻想即興曲」を弾いています。
このピアノの曲で彼女の心情を表わすという陳腐な演出も何度か使われ、
気分を害したとたんモーツァルトをベートーヴェンに変えて、さらに
バーンと鍵盤を叩いてやめたりします。

ちなみに、左は最初の登場シーン。
このパーティで既婚者である伍代産業の社員(二谷英明)を誘惑してキスさせます。
悪い女や。

 

陸軍諜報部の柘植中尉が彼女、伍代由紀子の本命。
「わたしが司令官になるから答えてちょうだい」
柘植中尉は立ちあがって敬礼、
「伍代司令官の指令を拝命いたしますっ」
「よろしい」などと、
「なんちゃって司令官プレイ」で盛り上がる二人。
右のピンクのスーツはディオールかな。

 

勿論戦前の令嬢ですからお着物自慢もね。
この人の魅力って、眼は勿論ですが、実は頬骨ですよね。

 

ベッドルームで髪をとかしていたら柘植中尉が来たので着替えましたー。

首の共布のチョーカーが最新流行(70年代のね)アイテム。
この後二階の本棚の隙間で柘植中尉を誘惑。初めてキスにこぎつけます。

このあと柘植中尉は金沢の連隊に行ってしまうのですが、
ある日突然彼女は金沢に押しかけます。

 

こんな恰好で。
うーん、これはエマニュエル・ウンガロ?それともカルダンかしら。
あまりにも時代を無視した格好をしているので
みんな(今から売られていく娘たちと女衒)に見られてますよー。
何故押しかけたかと言うと、柘植大尉と結ばれるため。
お嬢さん強引です。 



なぜか寝室に強風が吹きまくって髪が激しくそよいでいます。

 

なんだか形も色も変なセンスの服ですね。
ピエール・カルダンっぽいわ。
でも、美人だから何着ても似合ってしまう。



戦前の流行りの髪型であった「マルセル・ウェーブ」「耳隠し」かな?

 

丸い詰まったネックにロングスカート。花柄のシフォンドレス。
こういうのも70年当時流行っていたようですね。

柘植大尉からの電話に「出ないわ」などと意地を張ったり、
嫌味をいうため「やっぱり出るわ」と言ってみたり。

金沢まで押しかけて行ったのに諜報部に勤務になり
音信不通になった柘植大尉にお嬢様はお怒りです。



ところがなんとかこぎつけたデート当日、ウキウキとおめかし中、
柘植大尉からドタキャンの電話。
当然ぶち切れる由起子。

「女はいつまでも待っているものではなくってよ!」

だから相手は軍人なんだってば。

 

由紀子の妹、順子(よりこ)

伍代家に居候していた左翼青年(山本圭)
ハープの向こうでこれも強引に迫り、青年あっさり陥落。

この頃の吉永小百合に迫られて落ちない男が果たしてこの世にいるだろうか。



駆け落ちして家を出た妹を訪ねてきて伍代家に戻ることを説得する姉。

つっぱっては見たけど、銀行頭取の息子との政略結婚におめおめと身を任せ、
柘植大尉とのことは「夢だったのよ」と言い切る回顧モードはいってます。
所詮はブルジョア娘の自分探しだった、ってことですかね。

山本圭は特高からリンチに会い、中国戦線で古参兵からリンチに会い、
無実の中国人を殺戮させられて遂には八路軍の攻撃に斃れ、投降、
という辛酸を嘗め尽くします。

この青年が戦後日本共産党の党首になる、に100人民元。

この後戦死の報に打ちひしがれる順子のもとに特高がやってきて、
順子は夫の生存を確信するのでした。



・・・・確信しますが、話はここで終わってしまいます。
orz



こちら日本人医師(加藤剛)とやはり強引に結ばれた満人の娘。
この映画の女性はつまり全員が同じパターンで相手と結ばれます。

二人が満州脱出しようとしたとき、駅で加藤剛が特高につかまり、
拉致されますが、彼女は他人のふりをして自分だけ逃げます。

おいおいおいおいお(笑)


こちら東京。
ピンクづくめの服装で車に乗っていた由起子は柘植大尉を認め、
二人はしばし語らいます。



彼女は既に人妻。
大尉は中国大陸に向かうことを彼女に告げます。
これで所詮は違う世界の人間と納得しあう二人でした。

確かに非常時にこういう恰好をする人では軍人の妻は務まりますまい。

柘植大尉はこの後中国戦線において戦死します。
最後の突入で全力疾走する柘植大尉を
演出なし平面アングルで映し出す非情のカメラワーク
このひと(高橋英樹)の上から大、太、短の体型に、このシーンはキツかった。
もう少しかっこよく死なせてあげて!と思わず叫びました。←



大尉戦死の報に接し、黒いドレスで幻想即興曲を弾く由紀子。


五味純平氏の原作は勿論読んだことはありません。
しかし、少なくとも情報から察するに、
原作はここまで偏った史観に基づいてはいないようです。

それにしてもこの映画を評価する論陣を見て思うのですが、
特に先進国、大国にはどの国にもある歴史的加害者の一面を、
ここまで躍起になって糾弾する自国民がいるのは、日本だけではないでしょうか。
それが真に良心に基づいてのみなされていることだと仮定すれば、
日本は世界一自省する国だといえないこともありません。

しかし、そのために史実を曲げたり相手に阿るに至っては

すでに自虐・売国

です。
戦争に善悪はありません。
いかなる国においても「反省するべき誤った歴史」などは存在せず、
史実を未来への教訓とするかどうかだけが国の在り方を決めます。

この映画のように、事実を曲げたり、史観に思想誘導することを目的に、
映像による印象操作を行って自国に対する自虐を誘ったりはもとより、

対等であるべき現代の国同士において

「であるから我が国は対等にすらなる資格がない」

という贖罪感ばかりを国民に植え付けることは果たしてどうなのか。

そういう時代に作られた映画だとはいえ、今観るとその意図が
余りに露骨すぎて、辟易してしまったというのが正直な感想です。 


というわけで、一部の熱心な支持者の正体すら怪しく思えて来るレベルの
「なんだかなあ」感満載映画ではありますが、
歴史の流れに沿って描かれているだけに、突っ込みどころには事欠かず、
自宅で知人とわいわい言いながら、さらに女優さんたちの可愛さを愛でつつ観る、
というのが正しい鑑賞法かと思われます。

一緒に観るお相手は、歴史観にあまり違いが無い方が無難かもしれません。
映画そっちのけで険悪になってしまう怖れがあります。

以上感想でした・・・・はあ疲れた。








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