ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

映画「海兵隊魂とともに」Salute to The Marines 前編

2024-03-03 | 映画

原題は「Salute to the marines」なので、「海兵隊に敬礼」のはずですが、
なぜか日本でのDVDでのタイトルは「海兵隊魂とともに」になっています。

「海兵隊に敬礼」でなにがいかんかったのか。


当ブログでは連続して白黒の映画ばかり取り上げてきたので、
久しぶりにカラーで絵を描いてみたい気分になり、
「Uボート:235強奪作戦」を取り上げようと観てみたら、
あまりにくだらなくて悪食を自認するわたしですらその気を無くし、
次に見つかったカラー作品なら何でも、と適当に選んでしまいました。

しかし、この作品も観はじめてすぐに、不快感を感じました。

まず、この主役の不細工さです。
デブデブしたしまりのない体型、たるんだ顎、
現役の海兵隊員がこんな酒太りなわけあるか!

■ ウォレス・ビーリーという俳優

映画サイトで、元海兵隊員という人がこんなコメントを残しています。

「ウォレス・ビーリーは海兵隊員ではない。なんてだらしないんだ。
まるで贅肉に贅肉を重ねたような身体、一等軍曹役とはとても信じられない」


「ウィリアム・マンチェスター(『ジョン・F・ケネディ』の伝記作家)は、
映画『トリポリ魂に乾杯』”To the shore of Tolipoli ”の洒落た軍服を見て、
そのあまりのかっこよさに魅せられ、海兵隊に入隊した。
彼が観たのがウォレス・ビーリーがテントサイズの制服を着ようとして
格闘しているこの映画だったら、やめて沿岸警備隊に入隊していただろう」



ウォレス・ビーリー(Wallace Beery)は、1913年のデビュー後、
コメディ映画、歴史映画に出演して悪役、性格俳優として人気を博し、
1930年ごろには世界で最も高給取りといわれるほどでしたが、
おそらくはその人間性のせいでこの映画の頃の人気は低迷していました。

「人間嫌いで周りからも一緒に仕事をしたくないと嫌われており、
彼のことを『Shitty Person』と呼ぶ俳優もいた。
セリフを研究することなく代わりに他の俳優の真似をして、
それを指摘されると逆ギレすることは日常茶飯。

別の俳優がクローズアップになるとき、彼はセリフを間違えて
その俳優の演技を邪魔したりした。
『誰からも嫌われていたが、幸いなことに無視されていた』」


17歳のグロリア・スワンソンと結婚して妊娠中に騙して中絶薬を飲ませ、
3年後に愛想を尽かされて離婚されていますし、
死の間際まで彼の子供だと自称する人との裁判が続いていたそうです。

俳優テッド・ヒーリー(三馬鹿大将の一人)を喧嘩で殴って死なせ、
それをもみ消したという黒い噂もあります、

その他彼をクズ認定する証言は、スタジオセットから小道具を盗む、
子役を執拗につねったり演技の邪魔をして嫌がらせし、怖がらせる、
チップを払わない、サインを求めた子供を罵り、唾を吐きかける・・・。
(それを証言したのはあのSF作家レイ・ブラッドベリ)

彼はその功績から1960年にハリウッドの映画の殿堂入りしましたが、
功労者須く人格者ならずの典型だったようですね。

■ 反日プロパガンダ

そして今回、映画をブログのために何度も観るのはわたしにとって
大変な不快感と苦痛を乗り越えなくてはならなかったことを告白します。

その不細工で観るからに人品骨柄卑しそうなおっさんが、
数分おきに口汚く日本人への人種差別発言を繰り返すのですから。

これが戦時中に制作されたプロパガンダ目的であることを差し置いても、
その表現は下品で何のユーモアもなく、従来の戦争映画ヒーローならば、
脚本家はまず主人公のセリフとして選ぶまいという種類のものです。

どうして海兵隊の宣伝映画にこんな主役を選んだのか、
わたしは海兵隊宣伝部の意図を図りかねますが、
それでも考えてみると、この時期、アメリカはかなり焦っていたんですね。

まず、映画で描かれた日本軍のフィリピン侵攻ですが、ご存知のように
アメリカ軍はダグラス・マッカーサーの失策で負けているわけです。

戦前からアメリカの植民地だったのに、ダバオ、マニラ、
バターン、コレヒドール、ミンダナオとアメリカは次々降伏し、
マッカーサーはアイシャルリターン逃走。

フィリピン戦での兵力の損害は日本側戦死行方不明4,417名に対し、
アメリカ側は約2万5000人が戦死、2万1000人負傷、捕虜8万3631人でした。

というところで、先に説明しておくと、この映画は、真珠湾攻撃に続き、
フィリピンに侵攻してきた日本軍を、この元海兵隊の太ったおじさんが
退役後にもかかわらず、民兵を率いて食い止めて死ぬというストーリーです。

もうおわかりですね。

この映画は、真珠湾、フィリピン陥落に沈む国民を鼓舞するのが目的で、
たとえいっとき負けてもアメリカにはこんな海兵隊魂を持つ人物がいる限り
決してくじけはしない、という強いメッセージが込められているのです。

主人公のベイリーが、劇中なん度も言い放つ「黄色い猿」などの表現に、
この映画は当時ですら米国内から品格の点からの批判があったそうです。

しかし、この種の発言は、おそらく当時のアメリカ人にとって、
閉じた場やその人の「品性」によっては日々聞くものだったでしょうし、
(そして今でさえ、アメリカに住んでいると同種の”声”を見聞きする)
自分は立場上決して口にできない「内心の声」が言い放たれるのは
一定の数の民衆にとってはさぞ快感だったでしょう。

そして、当時の「良識派」が眉を顰めるようなこうした発言も、
クラーク・ゲーブルやケリー・グラントには決して似合いませんが、
このおっさんなら遠慮なく言わせられるし、事実いかにも言いそうです。

ところで数えたわけではありませんが、作品中彼がサルと口にするのは
両手で数えられるほどの回数にのぼります。
しかし、その本人は、彼が唯一頭の上がらなかったおばちゃん喜劇俳優、
マリー・ドレスラーMarie Dressler を調子に乗ってイジり、

「あのヒヒ(baboonからナンセンスな侮辱をされた。
あいつの頭を大皿に乗せて(MGMのトップに)突きつけてやる」

と激怒されたことがあり、この時の彼はこの女優に対し、
イタズラを見つかった小さな子供のように何も言い返さず沈黙したそうです。

人は自分が気にしていることを言ってしまうものだそうですが、
もしかしたら、この耳に余る「猿」も実は・・・?


で、当ブログがなぜ結局そんな映画を取り上げることにしたかですが、
最初に選んだ「Uボート:235」のラストに見られる
「政治的無自覚・無神経」に対する不快さと、この作品の人種差別表現では、
こちらの方が悪意があるだけマシというか、我慢できると判断したからです。

(その詳細については各映画評などでお確かめください)


■ 海兵隊讃歌

それでは始めます。
オープニングから早速流れるのは「海兵隊讃歌」。



地球の隅々に赴き、名誉ある戦いを行ったアメリカ合衆国海兵隊に対し、
文字通り「敬礼」を捧げるところから映画は始まります。


1943年、ここはアメリカサンディエゴの海兵隊基地。



合衆国国旗が掲揚されました。
今日はこれから上陸を模した演習が行われる予定です。



視察をする高官たちがビューポイントに到着するとまず歩兵の上陸。



戦車も舟艇から下ろされます。



水陸両用車が現在のものとほとんど同じ形なのにびっくり。



そして空中からは空挺部隊が落下傘で降下。



成功裡に終わった演習後、司令官が訓示で一人の軍人の紹介を始めました。
それが本作主人公のウィリアム・ベイリー軍曹です。



「諸君と同じ訓練を受け、同じ闘志に燃え、不屈の精神を持った男だった」

そしてここから、彼の物語が始まります。



1940年、フィリピン。
海兵隊勤務29年のベイリー軍曹が新兵訓練を終えて帰隊してきました。


ベイリーは帰ってくると、ボクシングの選手である
フィリピン人部隊のフラッシーと挨拶を交わします。

当時、アメリカ軍は、陸軍の軍事組織としてフィリピン人部隊、
「フィリピン・スカウト」を組織していました。
1901年にはすでに現地で編成された軍として機能を始め、
優秀な人物はウェストポイントに送られて、士官に任官しています。

この駐屯地で曹長はボクシングのマネージャーも兼任していました。



そこに大佐からお呼びがかかり、泥だらけで司令室に飛んでいく曹長。


大佐と共に彼に面会を求めてきたのは、
フィリピン軍の「陸軍長官」でした。

フィリピン師団は全てマッカーサー元帥の指揮下にありましたので、
陸軍長官という役職名が正しいかどうかはわかりません。
アメリカ陸軍隷下の軍組織を総称して「陸軍」と言ったのかもしれません。

長官の用事というのは「フィリピン独立法」によって間近にせまった独立後、
国防を強化するために、市民を軍事訓練してほしいという依頼でした。


映画ですから仕方ありませんが、この依頼がそもそも少し変です。

アメリカは前述の通りフィリピン・スカウトなる軍隊を組織し、
支援してきたわけですから、今更海兵隊に一部の市民を軍事訓練せずとも、
と思いますし、そもそも自警団みたいなのって普通にあったんじゃないの?

フィリピンはただアメリカ軍に守られているだけで
独立後はただ脆弱なもの、という印象を観るものに与えますが、
独立しても映画で言っているように海兵隊がいなくなるなんてことないよね?

現にアメリカは1946年のフィリピン独立後も軍の駐留を継続し、
東南アジア全域での軍事プレゼンスを維持し続けるために
軍事基地協定で99年間の基地提供を約束させています。

フィリピンはその99年が過ぎたとき、協定を破棄し、
アメリカ軍はフィリピンに軍隊を派遣できないとしましたが、
その辺に言及していると話が長くなるので割愛します。



ベイリー軍曹は、これまで新兵の訓練を専門にやってきたそうですが、
今回自分が訓練するのがフィリピンの一般人と聞いて激おこ。

「フィリピン人は小さすぎて(Little fellers)戦闘なんかできませんよ」

いやいや、だからフィリピンスカウトの立場は?
しかもこのメイソン少佐までが、

「神は彼らに良い心を与えたが体には気を配らなかった」

だから当時すでにフィリピンスカウトは米軍の一部として連隊に編成され、
4つの歩兵連隊、2つの野戦砲兵連隊、騎兵連隊、
沿岸砲兵連隊を組織し、支援部隊もすでにあったんですってば。

まあその辺は映画だからどうでもよろしい。

ここでベイリー軍曹は、彼の本音をぶちまけます。
彼はもうすぐ海兵隊を退役するのですが、新兵教育ばかりさせられて、
彼らが戦場に赴くのをただ見送るだけ、ついには全くの勲章もなく、
扁平足と大声になっただけで終わるのが口惜しいのです。

というわけで、

「今訓練している第一大隊を戦地で率いさせてください!」



いや、それは・・・無理だよね。指揮系統的にも。
だいたい、曹長が自分の配属を司令官に願い出るなんてありえなす。
少佐は目を泳がせながら、

「・・それではわたしが任務を命じられたら君も一緒に」


■ 民間兵訓練



命令は命令なので、ベイリー軍曹、スービックで早速訓練開始。

しかしフィリピン人、行進もできなければ命令も聞きゃしねえ。
そもそも軍隊が何かさえも全く理解していないわけです。

そのくせ自己主張だけは皆一人前。



「銃剣なんかより俺たちのナタの方がよっぽどいい」

「何?試してやる・・・おお、確かに悪くないな」



こちら若いアンダーソン伍長が銃の扱い方を説明しています。
どうせ一回言ったくらいではわからず、結局手取り足取り時間をかけて、
と思うとうんざりしているのか、やる気なし。

「左手でラッチ、右手で開いて左手でエキストラクタ、
左で照準を合わせて右手でボルトを閉じ、
左手で引き金を引き弾倉確認!わかったか」


むっちゃ早口。
皆うんうんうんと頷きますが、伍長、ため息をついて

「どうせこいつを扱えるようになるまで長くかかるがな。なが〜〜く」

ふう、とタバコを吸うために銃前を離れた途端、



左右左左右左、と皆で確認するなりマシンガン発射。



というか乱射。

なんか映画「二世部隊」の訓練シーンを思い出してしまいました。
教官がすっかり馬鹿にしていた日系人たちは実は一枚も二枚も上手で、
上手に訓練をサボったり、背負い投げで逆に教官を投げ飛ばしたりっていう。

アメリカ人って、一般的に英語を喋らない&上手ではない人たちを
頭から自分より劣っている、と思い込む傾向にありますよね。

ちなみに2022年度の平均知能指数で言うと、上位6位まで全部アジアの国
(一位から日本、韓国、中国、イラン、シンガポール、モンゴル、
アメリカは17位)であることは世界的に周知の事実。
あくまでも「平均値」ということになるわけですが。



そして何週間かの訓練後、何とかフィリピン人部隊はサマになってきました。



そのとき、訓練してきた第一大隊が中国に移動するという噂を聞きつけ、
ベイリー軍曹、大急ぎで隊舎に駆けつけました。

夜だと言うのに兵隊の解けた靴紐や錆びた刀などの粗探しをして
延々と気持ちよくお説教、自分が隊を率いるつもり満々ですが・・。



そんな軍曹を見かねて?急遽大佐が呼びつけました。
いつになく葉巻を勧められ、喜んで吸っていたら、

「君をスービックに送ったのは家族に会わせるためだったんだ」

そして、



「私は中国行きの船には乗らない。君もだ」

「冗談ですよね?」

「冗談ではない。指揮官はバーンズ中佐だ」

これはもちろん「自分ではなく」と言う意味です。

「バーンズ?まだ青二才じゃないですか」

Lieutenant colonel」って中佐で間違いないよね?
中佐が青二才って・・・まあ退役寸前の軍曹と比べれば若いですが。

「そこを何とか!
勲章をもらえるかもしれない最後のチャンスなんです!」

普通軍曹が司令官にこんな口聞けないと思うのですが厚かましいやつだな。
もちろん大佐はそれを拒否し命令に従うようにと軍曹に厳しく命じます。

■ 収監



第一大隊の出航は夜になりました。
酔客で賑わう繁華街を通って港まで行進が行われ、
市民がそれを手を振って見送ります。



鳴り響く海兵隊讃歌を酒場のテーブルで不貞腐れながら聞くベイリー。

「海兵隊はトリポリにも行ったしあらゆる戦場に行った。
でもこのビル・ベイリーは、海兵隊史上、

一度も戦場に行ったことがない唯一の海兵隊員だああ」



酔っ払いの戯言を同じ酒場にいたセイラーが揶揄ったところ、さあ大変。
キレたベイリーが一人を殴り飛ばし、そこから大乱闘が起こってしまいます。



ボクシングの選手であるフラッシーも加勢して・・・これはダメだよね。
彼らは、帽子からマーチャント・マリーンの水夫であるとわかります。


MPが到着した時にはすでにこの有様。


フラッシーと仲良く収監されることになりました。



そのとき自分を捕まえた憲兵がやってきました。
片目にアザを作った憲兵は陽気に、

「ピーカブー、ハンサム!」

「無理に笑わせなくていいぞ、あんたエリザベス・アーデンの化粧部員か」

この部分、字幕で企業名が省略されていたので、ちゃんと翻訳しておきました。
ピーカブーは「いないいないばあ」のことです。

「俺の罪状は?」

「たいしたことないさ。
器物破損、憲兵への威力業務妨害と13人の船乗りへの暴力行為」

「なあ、大佐にはこの件黙っててくれないか」

「だめだ。そんな目で見るな。飼ってた犬を思い出す」

「ちっ・・・何の用だ」

「面会だ」



美人の奥さんジェニーはこんなところで会うなんてとプンスカ。
全く父に似ていない娘ヘレンは一生懸命父をかばいます。

妻ジェニーは夫が海兵隊にいるのが嫌。
というか、軍隊そのものが嫌いな平和主義者で、彼と結婚して以来、
彼がずっと戦地に行かないように「祈って」いたと公言するほどです。

現在も平和運動に身を投じる根っからのリベラル無抵抗主義なのですが、
それならどうして海兵隊で煮染めたようなこの男と結婚し、
何十年間も一緒にやってこれたのか・・・夫婦ってわからないものです。

「第一大隊のニュースを聞いた時から祈ってたわ。
あなたが一緒に行きませんようにって」

「ひどいぞ・・・でも決めた。退役する。
こんなことをしたらどうせクビだ。
君はもう海兵隊員の妻ではなくなるんだ」



娘のヘレンはその足で大佐の部屋に押しかけました。

「ヘレン!」「ジョンおじさん」

なんと、この二人が叔父姪の関係であるってことは、
ベイリー軍曹の嫁というのはこの大佐の妹ってことなんですね?
(大佐はベイリーと同じ歳なので)
どうりでベイリーが軍曹の分際で大佐に妙になれなれしいわけだ。

しかしいや・・・・これも実際はあり得ませんよ。

アメリカというのは、特にこの頃のアメリカは完全な階級社会で、
経済的背景が異なる人々の間には厳然とした階級差が横たわっていました。

特に軍隊では、ある時期まで将校のほとんどは上流階級や、
裕福な家庭の出身者でなければならず、
(ドイツで士官に貴族が多かったのも同じ理由)
下士官や下士官の子供が将校と個人的関係を持つのもほとんど不可能でした。

つまり、ジェニーの兄がアナポリス出身の海兵隊士官である時点で、
最初から彼女と下士官のベイリーとは接点すらなかったはずだし、
万が一何かのご縁で出会ってお互い好ましく思ったとしても、結婚となると
互いの家庭から反対されて諦めるか駆け落ちするしかなかったでしょう。

なんなら、現在のアメリカ軍でも、士官、下士官、兵の間に、
特に彼らの子供たちの間には軍務以外での接触はまずないはずです。
(在日米軍内の子供のための幼稚園学校のことまでは知りませんが)

ですから、いかにも将校の娘然としたこの美人のヘレンが
実は軍曹(しかも見るからに叩き上げ)の娘で、なぜかその叔父が大佐、
という設定には、当時のアメリカ人も首を傾げていたことでしょう。


それはともかく、ヘレンがここにきた理由は、父親が喧嘩で収監されたので
彼が不名誉除隊にならないようにという叔父へのお願いでした。

美人の姪に大佐も目尻を下げて応対していますが、つまり、
娘が地位のある叔父を利用して父の不始末を揉み消そうとしてるって図よね。

父が父なら娘も娘。
これ、厚かましいどころか、とんでもなくない?


そこにルーファス・クリーブランド、ランドール・ジェイムズという
海兵隊士官二人が「ミス・ベイリー」が来たと聞いて飛び込んできます。

この娘、自分に夢中の二人を手玉に取っていて、
どっちにもいい顔をしてここまで引っ張ってきたようですが、これもまた
従来ではあり得ない士官と下士官の娘との取り合わせ(しかもダブル)。

またこのヘレンという女、天性のやり手とでもいうのか、
二人の士官が飛び込んできて大佐が不機嫌になるや、

「あら、あたし、ジョンおじさんに会いにきたのよ〜」

と叔父の腰に手をまわし身体を押し付けるというあざとさ。
こういうのを清楚系●ッチっていうんでしょうか。


そして「ボーイズ」を両脇に抱き抱えて外を闊歩します。
上陸隊とパイロットの二人は互いを貶しながら牽制し合いますが、
彼女はどちらを選ぶとは決して言明しません。

「どっちか選んで」



と二人に迫られてはぐらかすのもお手のもの。
これは根っからの魔性の女だわ。


■ 軍曹の退役



ベイリー軍曹は無事に退役の日を迎えました。
大佐の力が及んだのかどうか、不名誉除隊などではなく、普通に退役です。

しかし、早口で感謝状を読み上げられて終わりといった形式的な流れに、
ベイリーはわずかに不満の様子を見せます。



ベイリー軍曹のために、軍隊は行進を始めました。

この敬礼シーンでも、俳優が全く軍人らしくないのがわかってしまいますね。
敬礼も下手だし、こんなだらしない立ち姿のベテランがいるかあ!


航空士官のクリーブランドは、恋敵がヘレンのそばにいるのが邪魔で、
ジェイムズになぜ陸なのにあっちで行進しないんだと文句を言いますが、
ジェイムズは涼しい顔で「俺はご家族と親しいから免除さ」



そして彼の30年にわたる海兵隊生活は終わりを迎えた・・・に思えました。


そしてヘレンの運転する車がバリガン川の橋にさしかかったとき、
そこでは彼の鍛えた民兵たちが捧げ銃で退官した彼を迎えました。



本来ならこの見送りに一緒に感激するであろう妻ですが、
何しろこの妻、一刻も早く夫に「足を洗わせたかった」人なので、
まるでまだ現役であるかのようなこの見送りに機嫌を損ねるという有様。


村に着くと、地域の人々(もちろん全員白人)が集まって、
「ハッピーバースデイ」の替え歌で出迎える熱烈歓迎ぶり。


この人々、妻の所属する平和運動サークル?なので、
彼に向かって軍隊不要論をやんわりと説いてくるのでした。
中には軍と軍需産業との癒着を糾弾し始める過激なご婦人もいます。


このサークルにはラジオ局を運営しているという高学歴の日系人もいました。
(ハリントン・ヒラタと紹介されているが字幕には出ない)
コーネル大学で電子工学の学位を取ったという彼に、ベイリーは

「アメリカで賢くなったってわけですか、外国人なのによくやるね」

と精一杯馬鹿にして見せますが、彼から

「多くを学びましたよ。アメリカ人の多くはとても賢いですからね」

と皮肉混じりに返されております。



ともすればそういうリベラルな雰囲気にイライラするベイリーに、夫人は
子供をあやすようにあなたはもう退役したのよと言い聞かせるのでした。


そしてベイリーのリタイア生活が始まりました。
居間のカウチでガウンを着てパイプを燻らせる退役後の夫。
夫人は長年夢見ていたそんな光景に幸せいっぱいで、うっとりと、

「あなた・・・新婚旅行の時のことを覚えてる?」

「忘れようったって忘れられないさ・・・(急に思い出し)
あのときは3ドルの部屋なのに5ドルも取られたんだ!」

「もう、なんて人なの!」

怒って夫人が行ってしまったのをいいことに、
パイプに詰める葉を直接口に放り込んで、ついでに
なんだか窮屈なガウンも脱ぎ捨ててしまいました。

パイプより噛みタバコが性に合ってる根っからの兵隊ってわけですね。
しかし噛みタバコは吐き捨てないといけないわけで。



吐き捨てる場所を探してうろうろしているうちに妻が戻ってきました。
手にはマットレスの下に隠したはずの海兵隊の制服を持っています。
処分しろと言われたのに、捨てずにいたのを見つかってしまったのでした。

ベイリーはあわてて口の中の噛みタバコを飲み込み(えええ〜)、

「は、ハロウィーン用に・・・」

と言い訳を。

「わたしを騙してたのね!」

「いや、せめて死ぬ時には身につけたくて・・・。
だって普通の服を着ていたら天使には俺だとわからないだろ?」

「大丈夫よ。わたしからガブリエル(大天使)に話しておくから」


ジェニーは軍服をどこかに持って行ってしまいました。



「しょせん女には男が軍服に抱くロマンがわからんか」

「わたしにはわかるわ」

しかし、そのとき、飲み込んだタバコの葉のせいで、
ベイリーは急いでトイレに駆け込むはめになりました。

余談ですが、もし葉巻の葉を飲み込んでしまった場合、14%が
急性ニコチン中毒で彼のように吐き気を催し嘔吐するといわれています。

これが原因で死亡にまで至ることはたぶんありませんが、まともな人間なら
どんなことがあってもタバコの葉など飲み込もうとは思わないものです。



続く。