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Hoading~汚部屋克服物語

2012-03-17 | アメリカ

          

アメリカの「視聴者参加型覗き見趣味的優越感煽りタイプ」のあざといテレビ番組には、
先日少しご紹介した「Toddlers and Tiaras(幼児とティアラ)」のようなものもあれば、
今日ご紹介する「Hoading」という「ビフォーアフター系」のものがあります。

このHoadingとは、もともと「貯蔵する」「秘蔵する」「買いだめる」などという意味なのですが、
この番組はありていに言うと「ゴミ屋敷の住人を改心させる」という番組。
日本語に訳すなら「ため込み屋さん」というタイトルと思っていただければいいでしょう。

実際は、もう手のつけられなくなった本人はもとより、回りが見るに見かねて「通報」してくるケースが
多く、「ため込み屋さん」なんてかわいいもんじゃないレベルが殆ど。
アメリカ人はほとんどがこの番組をよく知っていて、おそらく近くのゴミ屋敷を見て
「誰かHoadingに連絡したらいいのに」とか、片付けられない子供に向かって
「Hoadingに電話するわよ」
なんて叱り文句にその名を入れるであろうくらい、有名な番組です。

Hoadingという言葉自体が、その実態よりかなりマイルドな表現と思えるくらい、
大抵の、この「汚部屋」のレベルはすさまじく、一度など、ガラクタの下の方から
干からびてペチャンコになった猫の死骸が出てきた回には、さすがのアメリカ人たちもびっくり。

しかし、これを見て、つい『テレビ局のスタッフがこっそり仕込んだやらせではないか』と
思ってしまったわたしは、部屋ではなく心が汚れているでしょうか。
だって、住人は全く気付かず、せんべい状の猫をぺラッと見せられ『全然気が付かなかった』
なんて驚くんですよ。
いくらなんでも臭いで気づかないかなあ・・・。

この番組は視聴者参加型ですが、当の本人が参加したいと表明してくることはめったになく、
(そのくらいの人であれば自分で掃除もするでしょうし)
たいていは娘や孫、周りの人々が「見るに見かねて」番組に申し込んできます。


くたびれ果てた風の汚部屋住人と違い、こちらは血縁でありながら大抵「まとも」。
今回の依頼者は、住人の娘。


今回の汚部屋住人Aさんと、その夫。
娘さんの言っている「ロス」とは、彼女が母親を死去で失った後、
喪失感で何もする気が起きなくなったことを指しています。
住人のAさんが言っているのもまさにそれで
「母にできるものなら電話して『わたしを忘れて』と頼みたい」と言っています。

こういう精神状態の人は「自分で何とかしよう」という方向に向かないのかもしれません。
あくまでも他力本願です。
しかし、相手は死んでしまっているわけで・・・・。

右の夫は、もう妻に愛相をつかして、離婚を考えだしているという段階。
娘さんが依頼に踏み切ったのもこういう切羽詰まった状況になったからでした。



このAさんの場合、まだしも一片の心は残っていて、積み重ねた服にこうやって一応布をかけ、
通路を確保しています。
猫のミイラが出てきたり、テレビで映せないほどトイレが汚かったり、というような、
「生理的に堕ちるところまで堕ちた」というタイプではないのが、救いと言えば救いでしょうか。

アメリカでは何かとモノが安く、このAさんもいろんなものを出かけるたびに買いこんで、
それを値札も付いたまま放置しています。
それにしても、この番組を見て思うのですが、汚部屋住人の圧倒的な特徴として、
特に女性は、でっぷりと太っている人がほとんど。
「片付けられない女は太る」
という本が昔あったようですが、やはり、因果関係があるのかもしれませんね。



もうやる気のないのと、どうしようもない状態に茫然としている態のAさん。
スタッフに説明しながら、泣いてしまいます。

この番組の進め方として、「いかに部屋が乱雑かいやというほど紹介し、
回りと本人の「何とかしたい」という切なる訴えを取り上げた後、いざ!という感じでプロ登場。


まずは、正式にはどういう立場でどういう仕事なのかは知りませんが、
心理カウンセラーの診察を受けます。
彼女の苦しい気持ちや置かれた苦境などに耳を傾けたうえで、ため込むことに意味があるのか、
本人に考えさせ、そののち初めて「捨てていく」ということを納得させていきます。
このあたりはさすがに専門家。

一つのバッグを手に取り「これ、いつ買いましたか?」「気にいってる?」「使ってないけどなぜ?」
などと質問していくと、Aさんは
「よく考えてみると、もういらないわ」(画像)などと言いだすのですね。
もともと「これが欲しい」と思って買ったものではなく、
何となく買い込んでしまったものなので、思い入れも何もないわけです。



次に登場していくのが「片付けのプロ」、オーガナイザー。
住人がためらうのを叱咤し、命令口調で全てをバンバン捨てていきます。
この際、Aさんの泣きごとには一切耳をかさず、非情の片付けマシーンとなって、
部屋のものをどんどん捨てていきます。

ところで、どちらかというとわたしは何でも捨ててしまいます。
何もない空間に限りなく落ち着きを感じる「持たない派」でもあり、
捨てることで限りない「爽快感」と高揚を感じるタイプです。
つい『この仕事やってみたい』と思ってしまったくらいです。



ここで、写真に取り損ねましたが、「GOT-JUNK」と大書きしたゴミ回収会社のトラックが、
全てを運んでいきます。電話番号も勿論トラックに書いてあります。
これ、スポンサーでもあるんですね。なるほど。

すっかり床が見えるようになったAさんの部屋と、何と「やる気になって」
クッキーを作るまでに立ち直ったAさん。
どうでもいいけど、このクッキーは甘そうだなあ・・・・。

成功にはこの「オーガナイザー」というところの「必殺片付け人」の功績も大ですが、
中にはオーガナイザーもたじたじの手ごわい人もいます。

若い時はけっこうイケていたのではないかと想像されるこのおばちゃんですが、


お洋服積み重ねのAさんと違い、こちらはもう、部屋がカオス。
何でもかんでも積み重ねてしまっています。


こんな部屋の中で生活しながら、やたらメイクが丹念なおばちゃん。
やっぱり、若い時はちやほやされてたんでしょうね・・。



娘さんが見るに見かねて、フィアンセと共にマスク着用の上ゴミの山に挑みますが、
あまりの長年のごみの体積ぶりに、挫折。
素人では手に負えないと、ごみの山に腰掛けて、つい泣きだしてしまいます。

・・・・が、ここのところもやらせであると勘ぐったわたしは部屋ではなく心が(略)


いつも通り、オーガナイザーが登場、ゴミをどんどん捨てている最中、
説得されたはずのBさん、怒りだしました。
「わたしの大事なものばかりなのに、皆で寄ってたかって捨てる気?」
もの凄い剣幕でみんなに食ってかかります。
呆然とするスタッフと家族。

このBさんをなんとか説得し、取りあえず部屋は片付いたのですが、


しばらくして汚部屋を訪ねると、(これも番組のパターン。だいたい半年後)
先ほどのAさんはクッキーを焼いていたわけですが、
このBさんの部屋は・・・・



あらら、またもとに戻りつつあります。
まるで形状記憶合金のように、直しても直しても元に戻ってしまう。
Bさんの場合、部屋よりBさんの心の中をなんとかしなくては、
おそらくBさんが死ぬまでにこのループは繰り返されるのかもしれません。



このCさんは今回一番「うまくいった」例。
もともと崩壊レベルまでの「ため込み屋さん」ではなく、親子の関係も上手くいっていた、
というのが成功の原因だったかもしれません。



とはいえこの惨状。
この人もかなり太っていますね。
AさんやBさんほどではないにしろ、どこに何があるか分からなくなっている、立派な
「汚部屋」です。

親子そろってカウンセリングを受けています。
この家族はヒスパニック系ですね。
そして「何とかしなきゃ」と思いつつもこのようになってしまって、心を痛めていたCさん本人も、
一生懸命な娘のためにも、と心機一転、がんばった結果・・・。


片付けられてあらびっくり、なんと部屋にはグランドピアノがあったんですね・・・・・。

しばらく(半年後くらい)に再びテレビカメラが入ったときにも、Cさんのお部屋はきれいなまま。
なんと、ピアノの上に花を飾るほど余裕もあります。
訪れた娘一家、みな驚き、感激します。


新しい人生を祝して。(というテロップ)
Cさんはテレビに依頼して片付けてもらったのがきっかけとなり、全てが変わったようです。
このように、この番組が「綺麗を保つためのエンジンスタート」のキイになる例は多いのかもしれません。

因みに、わたしは家を定期的にプロの手で掃除をしてもらっていますが、
これは「自分がやらないからやってもらう」のではなく、
「その状態をずっと保つためのやる気を高める」ため、
と考えています。

澱がたまって行くように、毎日の掃除では気づかない汚れがどうしても蓄積していくものですが、
たまにプロの手ですっきりさせてもらい、気分を良くしてさらにそれを維持するわけです。
こういう「キレイの連鎖」は、はまると病みつきになる傾向にあります。
Hoadingでプロの手にかかるのと、ある意味同じような効果があると言えましょう。

レールを「キレイを保つ」方向に向けるきっかけとして、一旦生活をリセットする試み。
ヘタな心理カウンセラーより、ずっと人生そのものを改善する効果があるかもしれません。