Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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パーキンソン病にかかりやすくなる要因

2013年01月06日 | パーキンソン病
パーキンソン病は65歳以上に限ると,約1%の有病率と言われる頻度の高い疾患である.原因は不明であるが,発症の危険因子,逆に発症しにくくなる因子が報告されている.具体的には,過去10年でパーキンソン病発症の危険因子に関するメタ解析が小規模のものながら報告され,喫煙,コーヒー,殺虫剤への暴露,消炎鎮痛剤(NSAIDs)等が注目されるに至った.しかしながら大規模で包括的な危険因子の検討は行われていなかった.今回,大規模なsystematic review,メタ解析が英国から報告されたので紹介したい.

まず方法であるが,検討に含める論文の基準としては,①少なくともひとつの危険因子か,パーキンソン病と診断される前の非運動症状について検討していること,②パーキンソン病発症の相対危険度ないしオッズ比を求めた研究であること,③データは問診や通常の検査で容易に得られる項目であることの3点とした.論文の検索はMEDLINEとPubMedを用い,MeSHにより以下の検索式で論文をピックアップした.

Constipation OR Sleep Disorders OR Olfaction Disorders OR Smoking OR Color Vision OR Coffee OR Erectile Dysfunction OR Depression OR Anxiety OR Mood Disorders OR Hydroxymethylglutaryl-CoA Reductase Inhibitors OR Anti-Inflammatory Agents, Non-Steroidal OR Solvents OR Pesticides OR Body Mass Index OR Family OR Risk OR Risk Factors AND Parkinson Disease

3856の論文が検索され,上記の基準を満たし,除外基準(多いため省略)を満たさない202の論文に対しsystematic reviewを,173の論文に対してメタ解析を行った.

さて結果であるが,とくに強い危険因子(オッズ比を2倍以上)は以下のものであった.


パーキンソン病の家族歴あり・・・・・オッズ比4.45,95%信頼区間3.39–5.83
パーキンソン病が一親等以内に存在・・・・・オッズ比3.23,95%信頼区間2.65–3.93
振戦の家族歴あり・・・・・オッズ比2.74,95%信頼区間2.10–3.57
便秘・・・・・オッズ比2.34,95%信頼区間1.55–3.53
喫煙歴・・・・・オッズ比0.44,95%信頼区間0.39–0.50

ほかにオッズ比2倍に満たないものの,危険度を有意に高めるものとして,不安・うつの既往,殺虫剤暴露,頭部外傷既往,田舎に住むこと,βブロッカーの使用,農業,井戸水を飲むことが挙げられた.逆に危険度を有意に低下させるものとしては,コーヒー,高血圧,消炎鎮痛剤(NSAIDs),Ca拮抗薬,アルコールが挙げられた.
影響がない因子としては,糖尿病,がん,経口避妊薬,外科的閉経,ホルモン補充療法,スタチン,アセトアミノフェン,アスピリン,茶,全身麻酔の既往,胃潰瘍が挙げられた.

以上より,もっとも大きな影響をもたらすものは,パーキンソン病や振戦の家族歴,非運動症状の便秘,そして喫煙歴がないことという結果になった.本研究は初めての大規模・包括的な検討であるが,著者らは英文で書かれた論文に限定して検討したことを問題点として挙げているとおり,上記の結果が即,日本人にも当てはまるかは分からない.

話はそれるが,最後にsystematic reviewとメタ解析の違いを記載したい.論文のreviewにはおおまかに3つの段階がある.
(1) Narrative Review・・・いわゆるその領域の権威ある先生のご意見.都合の良い論文のみ取り上げられ,バイアスがかかる可能性も否定できない.
(2) Systematic Review・・・文献検索方法の記載があり,すべての論文を網羅したもの.
(3) メタ解析・・・統計的手法を用いて,データを量的に統合したもの.

つまり図のような関係になる. 

Meta-analysis of early nonmotor features and risk factors for Parkinson disease(オープンアクセス論文)
Ann Neurol 72, 893–901, 2012
 
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