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No802『大鹿村騒動記』~好き、という感情の切なさ~

“好き”という感情は、何歳になっても抱くもの。
治ちゃん(岸部一徳)と貴子(大楠道代)が駆け落ちしたのも、40歳を過ぎてから。
好きなら好きで、その気持ちは大切にしたらいい、
そんなことを感じた。

ゲイの雷音が、郵便局員の瑛太と一緒に
舞台下で、廻り舞台をぐるりとまわすとき。
一緒に息をあわせての共同作業に胸ときめかせ、
とてもうれしそうな雷音。
きらきらした顔で、とうとう想いを告白してしまう…。

バスの運転手の佐藤浩市が
荷物を抱えてバスに乗ってきた松たか子に向かって
東京に行かせない、と言い
ついには、歌舞伎の口調で、想いを打ち明けてしまい、
バスは、バックして進んで行ってしまう。

舞台の終わった晩、布団で眠っている
善ちゃん(原田芳雄)と貴子との、しっかと握られた手。

好きという思いが、どう受け止められるかは、相手次第。
相手がどう思っているかはともかくとして…
でも、好きという思い自体に、悪びれることはない。
駆け落ちしてしまった岸部と大楠にさえ、
映画は限りなく優しく暖かい。

原田と岸部の掛け合いの妙。
善ちゃん、治ちゃんと言い合う仲のよさで
二人が共に過ごしてきた歳月の長さと老いをも感じさせる。
そして、信じていたのに、裏切られた原田のやるせなさ、
生来の優しさと暖かさで、二人を受け入れたもののわりきれない複雑な思い。
旅館の風呂掃除をしていた岸部が、
でんでんに、駆け落ちしてからのくだりを話すうちに
思わず全裸になって浴槽に飛び込む辛さ、
電話で原田に打ち明けて叫ぶ過去の記憶、罪悪感。
記憶を取り戻し、後悔の思いから泣き叫ぶ貴子。
台風がもたらした暴風雨が、三人の心の内を表すかのように吹き荒れる。

貴子を慰め、とりなす雷音と善さん。
着物に着替えて舞台横にちょんと座った貴子の可愛らしさ。
自身も着物に着替える原田。
皆が集まり、始まった舞台稽古で、貴子の声を聞きながら
舞台奥を歩いていく原田さんを、あえて背中から長回しした見事さ。
ゆっくりと振り返る顔のアップ。
貴子への思いが静かに変わっていくのが伝わる、たまらないシーン。

冒頭、歌舞伎から始まり、舞台裏からの幕引きを撮って、タイトルイン。
バスに揺られて、映画は始まる。途中、すれちがうトラックを待ったり、
バスのゆったりとした速度がいい。
そして到着したのが大鹿村。

三国連太郎が、紅葉にそまった山をバックに
墓参りへと歩いていくシーンが好きだ。(一瞬、「飢餓海峡」を思い出した)
原田たちが、三国の家へ訪ねていく場面の前に映る村のロングショット。
秋深くなり、放送が流れ、ぽつぽつと家が散らばる村の姿が伝わる。

佐藤浩市、松たか子、瑛太ら、若手の役者たちが
原田芳雄、三国連太郎、岸部一徳、石橋蓮司ら、年のいった役者たちに
寄せる思いがすてきだ。
松が、大楠に抱く思いは、思慕、尊敬、大切に思う心であり
それは、人だけでなく、
歌舞伎を大切にはぐくむ思いにもつながる。

本番、カメラは、舞台袖で控えて待つ役者の目線で
格子越しに舞台に立つ役者を撮ったり
袖から舞台を見守る役者をとらえる。
その視線のやりとりでもって、思いを伝え
仇、恨み、許すといった、ドラマと核となる言葉が発せられる。
この視線の交錯のおもしろさ。
歌舞伎を演じながら、景清でもあり、善ちゃんでもあり
貴子も道柴でもあるという二重の関係がすごくいい感じで重なり合っている。
そこに黒子の治ちゃんが登場し、すごく豊かな関係。
そして、カメラはときに、客席から、観客目線で舞台をとらえる。

室内シーンでも、原田がやたら鍋を持って歩いたり
本当によく動く役柄で、役者たちのこまかな動きもおもしろい。

歌舞伎の観客たちが白い布にお金を包んで演技中でも、やたら舞台に投げ入れる。
思わず、スクリーンに向けて投げたくなる気持ち。(決して投げちゃいけませんが)
原田さんは、本当にいい声していて、ほわっと心温まる。
土曜のなんばパークス昼の回はなんと満席でした。
梅田ブルグ7でもやってますが、
日曜はレイト、月~木は6時20分からと早いので、気をつけてください。

 

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
恋の化石 (さきたろうJr.)
2011-08-09 19:54:45
“好き”という感情を、いくつになっても抱ける幸せ。

想いを大切にしまいすぎて、化石にしてしまう不幸せ。

・・・
 
 
 
すてきなタイトルですね (パラパラ)
2011-08-10 01:35:31
しまい続けた“想い”も、
今ここにある“好き”という気持ちも、
心の中の大切な灯り、という意味では、
似ているような気がしますが、どうでしょうか。

いつまでも若いつもりでしたが(?)
最近、年をとったなあというか、もう若くはないんだと感じることが多い今日この頃です。
 
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