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No1511『桃の花の咲く下で』~広がる空と川と桃の木々をとらえるカメラの美しさ~

清水宏監督、1951年の作品が
シネ・ヌーヴォの「特集笠置シヅ子」で上映されるのを見つけ
駆け付けた。

「カム、カム、カム」
「みんな踊ろう」
「手をたたいて歌おう」と歌いながら
笠置が、大勢の子ども達を引き連れて歩いていく。
子ども達は、小さな女の子もいれば、大きな子もいて、
女の子がお人形を大事そうに小脇に抱えながら歩いていく姿がいい。

笠置の歌を聴いて、
あちこちの家から子ども達が飛び出して
みんなで走っていく。

やってきた先は、狭い路地。
紙芝居を始めた笠置を正面に、
子ども達の後ろ姿をとらえるカメラ。
後から送れて来た小さな子は、
大きな子供の前にもぐりこんで、前に行く。

先輩の紙芝居屋の大山健一が現れて、
笠置は、すごすごと場所を変える。
すると、次の場所にも、
大山の後輩で、笠置の先輩の紙芝居屋の
日守新一が現れて、
ぼくのお得意様の子供たちを取るのは困ると嘆く。

この日守新一が絶品。

笠置は、訳があって
息子のあき坊を、ある夫婦に預けている。

あき坊は事故でけがをして入院しているが
そこへ、笠置が、果物の「ざぼん」を持ってお見舞いに訪ねる。
あき坊は、笠置のことをお母さんと呼び、
一緒に暮らす母(花井蘭子)をママさんと呼ぶ。
花井も、笠置のあとに、病室に見舞うと
あき坊は、おいしそうにざぼんを食べている。
花井の表情が少しかげったかと思うと
彼女がそっと足元に置いた鞄に、ざぼんが入っている。

こういう何もセリフにしない演出がいいなあと思う。
産みの母の笠置と、育ての母の花井。
花井が、笠置とあき坊の仲を優しく見守るところがいい。

夫婦が忙しいため、
笠置は、頼まれて、
けがした足を治すためにあき坊が温泉療養に行くのに
同行する。

この温泉先には、
紙芝居屋を諦めて、
按摩にもどった日守がいて、
笠置の部屋の隣の泊り客のおばあさん(清川玉枝)を
マッサージするために来て、
笠置と再会する。

日守が、
笠置の歌を真似して歌ったりして、
この調子はずれの歌が、すごく楽しい。

清川玉枝もいい味を出していて、声がいい。
日守とのやりとりには、ほっこりする。

あき坊が歩く練習をするのに、川の小さな橋を渡る。
この橋の雰囲気が、清水監督の『簪』に出てくる橋によく似ていて、
カメラは、いろいろな角度で、この橋をとらえる。
せせらぎの音が心地よい。

日守が温泉で、あき坊の足をマッサージしたり、
あき坊が旅館の手すりに、手ぬぐいをちゃんと伸ばして干すところもいい。

花井も遅れて温泉にやってきて、
笠置とあき坊と花井と3人で布団を並べる。
笠置が、寝入っているあき坊を
そっと自分の布団のほうに寄せて
最後だからとささやく。

笠置の様子に気付いても
そっと寝返りを打って、
見ないふりをする花井の心持ちも伝わって切ない。

笠置は、あき坊を置いて、一人、街に帰り、
そのことを知った日守が、橋を渡る姿から
そっと川岸の木々を、カメラが横にパンしていく

そして、最後、「川向うの幼稚園」とテロップが出て、
川向うが映ると、
桃の花咲く木の下で、
笠置が子ども達を集めて、紙芝居をやっていて
カメラは、すうっとロングで
笠置の後ろの満開の桃の花も写して、
静かに樹々をパンして、
「終」。

タイトルどおり、
まさに青い空の下で
笠置の明るい歌声が鳴り響き、
子ども達の笑顔が広がり、
桃の花が満開で広がっている。

いつまでも余韻に浸り、
あの歌が心地よく心に響き続ける名作。

ちょうど10年前に、
この映画を見て、感想を書いていた。

数年前に、貴重なコメントをいただいて、
読み返したが、
不覚にも、あまり明確に思い出せなかった。

今回、10年前に描いた原稿を読み返さずに、
映画を再見し、感想を綴ってみた。

今、10年前の原稿を読み返したら、
似たようなことを書いていて、
変わらないなあと思いつつ、
もっと緻密に覚えていて、
少しびっくり。

10年前の感想その1→こちら
その2→こちら

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