なぜかここ最近、急にバッハを聴く機会が多くなってきた。
まだ、寒くなり初めくらいの頃は全然そんな兆候もなかったのに、それが特に何のきっかけもなくいつのまにか復活してきた感じなので、自分でもちょっと不思議な気分。
で、このCDは、フランスのピアニスト、アリス・アデール(Alice Ader)が弾いた『フーガの技法』で、この安っぽいジャケットを見ただけだったら絶対に拾わなかったと思うけど、実はかつて彼女が弾いたフランクのピアノ曲やピアノ五重奏曲のCDがかなり良くて、それで名前を覚えていたのだった。
(ていうか、レコード会社は、もう少しはジャケットに工夫してはどうだったんだろうか。・・・って、んっ? これって、ジャケットの情報では昔の「聖トーマス教会」の絵だったらしい、と今分かりました。こ、これは何というか、大変失礼いたしました。・・・でも、やっぱり地味なのは確かだと思うけどね(笑))。
で、曲目の『フーガの技法』については、ぼくはかつて専らグールドの演奏によってバッハの曲に接したクチなので、そのグールドが中途半端にしか録音を残してくれていないこの曲は他曲に比べてこれまで聴いた回数も全然少ないし、どちらかと言えばあまり得意でないまま長い時間が経ってしまっていた。
でもそれが、ここ数年くらいで少しずつ聴くようになってきて、今では多少は「ここは転回形なのか」とか「反行ストレッタって何だっけ?」みたいに構造についても考えるようになったりして、いくぶん馴染んできていた感じ。
そんなわけで今回、このアリス・アデールで聴けるのがちょっと嬉しかったのだが、実際聴き始めてみると、もう最初の数音から耳に沁み込んでくるというか、この曲に自分の心を重ねて弾いているのがすごくよく伝わってくるような演奏で、あっという間に心を奪われてしまった。
特に静かな曲調の時なんかそうだけど、本当に一音一音に弾き手の心が浸透しているのがよく分かるような感じで、聴いていて何度も陶然としてしまった。
ただ、こういう演奏を聴いていると、うっかり人生を重ねてしまいそうになったり、「天上」とかのイメージが頭に浮かぶことがあるのだが、安易にそういう方向性だけでこの演奏を受け取ってしまうようには流されないようにしないと、とは気を付けているんだけど。
でも、このCDのピアノの音の、虚飾なく粒がそろった確かな打鍵もすごく美しくて、それを聴いているだけでも心地いいんだけど。
また、この演奏、すごく完成度が高いにも関わらず、ライブ録音であったらしく、たまに咳払いらしき音が聞こえたり最後にちょっと間を置いて拍手が巻き起こったりして、最初はそんなこと考えていなかったから、気づいた時はすごく驚いてしまった(録音データも1日しか記載がないから、本当に切り貼りしていないんだろうか)。
いやあ、しかしこの録音、自分はまだ数えるくらいしか『フーガの技法』は聴いたことがないんだけど、そしてこのアリス・アデールも、普段フランス近代ものとかのレパートリーの人という印象で、あまりバッハのイメージがないんじゃないかとも思うのだが、この盤、あまり知名度は高くないかもしれないが、かなりの名盤ではないでしょうか。
まだ、初めて聴いてから数日しか経ってないけど、けっこう本気でそんなことを思ってしまいました。
Die Kunst der Fuge, BWV 1080: Contrapunctus I
↓ お顔が良く見える動画を探したんだけど、YouTubeだとあまり音質が良くないものが多くて、ちょっと困ってしまいました。これはシューベルト。
Alice Ader Franz Schubert impromptu posthume en mi bémol majeur Franz Schubert
↓ さっき見つけたばかりだけど、こういう現代ものもよく弾いているイメージです。
Prélude